グローバル化時代の医療現場が抱える「言語の壁」
現代社会では、医学の分野も例外なくグローバル化が進んでいます。海外の医師を招いた講演や国際学会が頻繁に開催され、最新の医療技術や知見が世界中で共有されています。しかし、この国際化の波が、同時に新たな課題を生み出しているのも事実です。それは「言語の壁」です。
すべての医師や研究者が英語での聴講や議論を得意としているわけではありません。特に、英語を母国語としない国々では、この言語の壁によって、貴重な最新情報にアクセスできなかったり、活発な議論に参加できなかったりする「情報の格差」が問題視されています。この状況は、医学全体の発展を阻害する可能性さえあります。
このような課題に対し、東北大学大学院 医学系研究科 眼科学分野(以下、東北大眼科)は、革新的なAIリアルタイム翻訳サービス「CoeFont通訳」を導入するという画期的な取り組みを行いました。この導入事例は、言語の壁を乗り越え、「誰も置き去りにしない」開かれた学術交流を実現する可能性を示しています。
CoeFont通訳とは?AIが実現する多言語コミュニケーション
AI初心者の方のために、まず「CoeFont通訳」がどのようなサービスか、その基本から解説します。
CoeFont通訳は、株式会社CoeFontが提供する多言語リアルタイム翻訳サービスです。まるで同時通訳者のように、話されている内容をほぼ遅延なく、AIが異なる言語に翻訳し、音声や字幕として提供します。これにより、言語の異なる人々がスムーズにコミュニケーションを取れるようになります。
CoeFontは、単に通訳機能だけでなく、声と言葉の可能性を広げるAI音声プラットフォームとして、様々なソリューションを提供しています。例えば、テキストを入力するだけで人間らしい自然な音声を生成する「Text-To-Speech(TTS)」機能や、話者の声質を変換する「Voice Changer」機能などがあります。また、10,000種類以上のAI音声が揃う「Voice Hub」も提供しており、車内アナウンスやトレーニング動画、オーディオブックなど、幅広い用途で活用されています。
CoeFont通訳は、このプラットフォームの中核をなすサービスの一つであり、国際会議やプレゼンテーションなど、多様なシーンで言語の壁を取り払うことを目指しています。
東北大学医学部眼科学教室の挑戦:国際勉強会でのCoeFont通訳導入
東北大眼科がCoeFont通訳の導入を決めたのは、香港・韓国との3カ国合同で開催された眼科領域の国際勉強会でした。この勉強会には、全体で20名〜30名ほどの参加者がおり、東北大からは約10名が参加しました。
導入前、津田聡准教授が感じていた課題は深刻なものでした。日本の医学会でも国際化は避けられないテーマであり、英語での発表や海外からの講師を招く機会が増えています。しかし、大学のアカデミックな教員であればまだしも、一般の開業医や若手研究者の中には「英語での講演はハードルが高い」「できれば日本語で理解したい」と考える人が少なくありませんでした。これまでの状況では、通訳がいなければ「英語が分かる人だけが発言し、分からない人は置いてけぼり」という、まさに「情報の格差」が生まれてしまっていたのです。
こうした現状を変え、英語力に関わらず全員が最新の知見に触れられる環境を作るため、東北大眼科は今回の3カ国勉強会でCoeFont通訳を試験的に導入することを決定しました。

「事前学習機能」が専門用語の壁を突破する
この導入事例において、特に注目すべきはCoeFont通訳の「事前学習機能」です。医学会では、発表内容の要旨が「抄録(冊子)」として事前にまとめられます。東北大眼科では、この過去の抄録データをあらかじめCoeFont通訳のAIに学習させました。
この事前学習機能が、なぜこれほど重要なのでしょうか。一般的な翻訳ツールでは、日常会話レベルの翻訳は得意ですが、医学のような高度に専門的な分野になると、特定の専門用語や文脈を正確に翻訳することが非常に難しくなります。専門用語の誤訳は、学術議論において致命的な誤解を招く可能性があり、医療現場では患者の命に関わる問題にも発展しかねません。
しかし、CoeFont通訳は、事前に専門用語や文脈を学習することで、その分野特有の表現を高精度に翻訳できるようになります。津田准教授も「専門性の高い用語や文脈も、正確に翻訳された」と高く評価しています。事前に資料を読み込ませておけば、ほぼ間違いのない翻訳環境が構築できる点は、学会や研究会において非常に有用な機能であると語られています。
この機能は、AIが単に言葉を置き換えるだけでなく、その背景にある知識や文脈を理解しようと努力していることを示しています。これにより、非ネイティブ同士の英語コミュニケーションにおいても、高度な専門性を伴う議論がスムーズに行えるようになったのです。
実際の利用体験と参加者の声:全員が議論に参加できる「開かれた学術交流」へ
実際の勉強会では、参加者はQRコードを読み込むことで、各自のスマートフォンや端末でリアルタイムの翻訳字幕を見ることができました。スクリーンに投影する形式ではなく、手元で確認できるというのは、参加者にとって非常に便利な点だったようです。
津田准教授は、その使い勝手と効果について次のように述べています。
「香港や韓国の先生方は英語が非常に流暢なのですが、我々日本側がそれを聴講する際に、CoeFont通訳が非常に役に立ちました。特に評価したいのが『事前学習機能』です。医学会では、発表内容の要旨が『抄録(冊子)』として事前にまとめられています。今回当教室メンバーの過去の抄録データをあらかじめCoeFont通訳に学習させておいたところ、専門性の高い用語や文脈も、正確に翻訳されました。アカデミアの議論では、専門用語の誤訳が命取りになりますが、事前に資料さえ読み込ませておけば、ほぼ間違いのない翻訳環境が作れました。これは学会や研究会において、非常に有用な機能だと思います。」
「手元でリアルタイムに字幕が見られるのは便利ですね。英語が得意な先生にとっても、聞き逃した部分の確認になりますし、苦手な先生にとっては、議論の内容を理解するための命綱になります。まさに『言葉の壁』を取り払う体験でした。」
このコメントからは、CoeFont通訳が英語が得意な参加者だけでなく、苦手な参加者にとっても、議論の内容を深く理解し、主体的に参加するための強力なサポートツールとなったことが分かります。これにより、「分からない人は放置される」という従来の状況から脱却し、言語力に関わらず誰もが議論に参加できる、まさに「インクルーシブな学術交流」の場が実現しました。
アカデミアにおけるCoeFont通訳の可能性と今後の展望
今回の導入事例を通じて、東北大眼科の津田聡准教授は、CoeFont通訳のようなリアルタイム翻訳技術が、国際的な交流を行う医学会や研究会において、非常に有効な支援手段となり得ると感じたようです。特に、専門用語の事前学習機能は、医療従事者のような専門職にとって、その有用性が極めて高いと評価されています。
情報の格差が生まれることは、医学の発展にとって大きな損失です。CoeFont通訳のようなツールが普及することで、誰もが等しく最新の医療情報にアクセスし、活発に議論できる未来が来ることを期待する声が上がっています。これは、単に翻訳の効率化にとどまらず、知識の民主化、ひいては医療全体の進歩に貢献する可能性を秘めていると言えるでしょう。
CoeFont通訳は、特に以下のような団体におすすめできるサービスです。
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海外の研究者や医師を招いた国際シンポジウム・勉強会を開催する学会・大学
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専門用語が多く、一般的な翻訳ツールでは精度に不安がある専門領域の団体
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英語力に差がある参加者全員に対して、公平な情報提供を行いたい主催者
CoeFont通訳の具体的なサービス情報
CoeFont通訳は、iOSアプリとして提供されており、手軽に利用を開始できます。無料プランも用意されているため、まずはその性能を試してみることも可能です。
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iOSダウンロードURL: https://apps.apple.com/app/6749563379
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サービスURL: https://coefont.cloud/cir
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提供プラン: 無料(有料プランに登録することで利用時間を追加できます。)
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対応言語一覧: 日本語、英語、中国語、韓国語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、ベトナム語、タイ語、ポルトガル語(2026年2月現在)
AI音声プラットフォーム「CoeFont」全体の詳細については、https://CoeFont.cloudをご覧ください。
まとめ:AIが拓く「誰も置き去りにしない」学術交流の未来
東北大学医学部眼科学教室によるCoeFont通訳の導入事例は、AIリアルタイム翻訳技術が、専門性の高い分野における国際交流のあり方を大きく変える可能性を明確に示しました。特に、専門用語の事前学習機能は、医学のような厳密な知識が求められる領域において、誤解のない正確な情報伝達を実現し、参加者間の「情報の格差」を解消する上で極めて有効な手段となります。
この事例は、英語力に自信がない医師や研究者でも、最新の知見に触れ、活発な議論に参加できる「開かれた学術交流」の実現を可能にしました。AI技術の進化は、言語の壁という長年の課題を乗り越え、多様な知識や経験を持つ人々が互いに学び、協力し合う、よりインクルーシブな社会の実現を後押しするでしょう。CoeFont通訳のようなツールが今後さらに普及することで、学術界だけでなく、ビジネスや教育など、あらゆる分野での国際的なコミュニケーションが飛躍的に向上することが期待されます。AIが拓く「誰も置き去りにしない」未来は、もう目の前まで来ているのかもしれません。

