岐阜県で生成AI活用研修が開催:障害者就労支援の新しい形を模索
2025年12月19日、岐阜県社会福祉事業団ひまわりの丘障害者就業・生活支援センターにて、「生成AIで変わる障害者支援の新しい形〜就労支援のAI活用最前線〜」と題した研修会が実施されました。株式会社パパゲーノの代表取締役CEOである田中康雅氏が講師を務め、地域の就労支援に携わる約40名の支援者が集まり、生成AIがもたらす新たな可能性と課題について深く学びました。

研修開催の背景と目的
近年、急速な進化を遂げる生成AIは、ビジネスのあらゆる分野で活用が期待されています。障害者支援の分野においても、業務効率化や個別支援の質の向上、利用者の可能性拡大に貢献するツールとして注目を集めています。本研修は、最前線で支援を行う方々が生成AIの基礎知識を習得し、実際の支援現場での具体的な活用方法を学ぶことで、障害者就労支援のさらなる発展を目指すことを目的として開催されました。
研修会には、就労移行支援事業所、就労継続支援事業所、相談支援事業所、特別支援学校、県関係機関など、多岐にわたる機関から支援者が参加し、生成AIへの関心の高さがうかがえました。
開催概要
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研修会名: 令和7年度 中濃圏域障がい者総合支援推進会議「就労・雇用支援部会」就労移行支援事業所・就労継続支援事業所等連絡会議(第2回)
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開催日時: 令和7年12月19日(金)13:30~16:00
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場所: ひまわりの丘障害者就業・生活支援センター 事務棟2階 大会議室
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住所: 〒501-3938 岐阜県関市桐ケ丘3-2
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公式サイト: ひまわりの丘障害者就業・生活支援センター
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内容: 生成AIで変わる障害者支援の新しい形〜就労支援のAI活用最前線〜
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ゲスト講師: 株式会社パパゲーノ 代表取締役 田中 康雅
講義「就労支援のAI活用最前線」:生成AIの基礎から実践まで
研修の前半では、株式会社パパゲーノの田中康雅氏による講義「就労支援のAI活用最前線」が行われました。

生成AIの基本的な仕組みと可能性
田中氏はまず、ChatGPTやGeminiといった大規模言語モデル(LLM)である生成AIがどのような仕組みで動いているのかを、専門用語を避けながら分かりやすく解説しました。生成AIは、大量のテキストデータを学習することで、人間が話すような自然な言葉を理解し、文章の生成、要約、翻訳、アイデア出しなど、多岐にわたるタスクを実行できる能力を持っています。
特に、その「文章生成能力」は、支援現場における記録作成や報告書作成といった事務作業の効率化に大きく貢献する可能性を秘めていると説明されました。一方で、生成AIが持つ限界、例えば最新情報への対応の難しさや、誤った情報を生成する「ハルシネーション」といったリスクについても言及し、利用する上での注意点も共有されました。
パパゲーノのAI活用事例「AI支援さん」「仕事相談BOT」
講義では、株式会社パパゲーノが運営する就労継続支援B型事業所「パパゲーノ Work & Recovery」で実際に導入・開発されているAI活用事例が紹介されました。特に注目されたのは、支援現場向けのDXアプリ「AI支援さん」と「仕事相談BOT」です。

これらのツールは、日々の業務における様々な場面で活用されています。
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記録作成の効率化: 利用者との面談記録や日報など、支援者が日々作成する多くの文書の構成案をAIが瞬時に生成することで、記録作成にかかる時間を大幅に短縮し、支援者が利用者と向き合う時間を増やすことができます。
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支援計画の文章作成支援: 個別支援計画のような重要な文書も、AIが過去のデータや関連情報を基に草案を作成することで、支援者の負担を軽減しつつ、質の高い計画立案をサポートします。
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利用者対応のアイデア出し: 利用者からの質問や相談に対して、AIが多様な視点からの回答案やアプローチ方法を提案することで、支援者がより柔軟かつ効果的な支援を行うためのヒントを提供します。
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業務マニュアルに基づく職業指導: 利用者が作業手順を忘れてしまった際に、AIがマニュアルに基づいて具体的な指示を分かりやすく伝えることで、支援者が常に付きっきりで指導する必要がなくなり、利用者が自分のペースで学習・作業を進められる環境を構築します。
これらの事例は、AIが単なる業務効率化ツールとしてだけでなく、支援の質を高め、利用者一人ひとりの自立を支援する強力なパートナーとなり得ることを示しました。
ハンズオンワークショップ「スマホでAI体験」:AIへの心理的ハードルを下げる
講義の後は、参加者全員がスマートフォンを使って実際にAIを体験するハンズオンワークショップが実施されました。

事前に案内された通り、参加者は各自のスマートフォンでChatGPTやGeminiにアクセスし、質問文(プロンプト)の入力からAIからの回答確認までの一連の流れを体験しました。
初めて生成AIに触れる参加者も多く、「初めて使ったが、思ったより簡単だった」「こんなことまでできるとは驚いた」といった声が会場のあちらこちらから聞こえました。この体験を通じて、多くの支援者が「AIは難しい」「自分には使いこなせない」といった心理的なハードルを下げ、身近なツールとしてAIを捉えるきっかけとなりました。実際に手を動かして体験することで、AIの可能性を肌で感じることができた貴重な時間となりました。
グループワーク「AIの活用と課題について」:現場のリアルな声
研修の後半では、参加者が6つのグループに分かれ、生成AIの活用における現状と課題について活発な意見交換が行われました。現場の支援者ならではの具体的な意見が多数寄せられました。
AI活用への期待とメリット
参加者からは、AIが業務効率化に役立つという期待の声が多く聞かれました。特に、以下のような点が挙げられました。
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文章構成や研修資料作成の効率化: AIが文章の構成案を作成したり、情報収集をサポートしたりすることで、資料作成にかかる時間や労力を大幅に削減できるという意見がありました。これにより、支援者はより本質的な業務に集中できるようになります。
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情報提供の迅速化: 利用者からの一般的な質問や情報提供の依頼に対して、AIが迅速かつ正確な情報を提供することで、支援者の負担軽減と利用者満足度の向上につながる可能性があります。
AI導入における課題と懸念
一方で、AIの導入には様々な課題や懸念も指摘されました。これらは、今後のAI活用を推進する上で真剣に検討すべき点と言えるでしょう。
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安全性への不安と情報の信頼性: 「利用者がAIの情報を鵜呑みにしてトラブルに発展する可能性」や、「福祉分野の情報がAI側で発展途上であり、内容が薄かったり誤った情報が提供されることがある」という懸念が示されました。AIが生成する情報の正確性をいかに担保するか、また、利用者が情報を適切に判断できるよう支援者がどう指導していくかが重要な課題です。
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支援者側のスキル不足: 「支援者側に安全な使用方法を指導するスキルが不足していること」も大きな課題です。AIを効果的かつ安全に活用するためには、支援者自身がAIリテラシーを高めるための研修や学習機会が不可欠となります。
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倫理的な問題と利用者の自律性: 「利用者が『AIが休んでと言ったから休みます』という事例が出ており対応に悩んでいる」という具体例が挙げられました。AIの指示が利用者の行動に影響を与える場合、その判断の根拠や責任の所在、利用者の自律性をどう尊重するかといった倫理的な問題が生じます。
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情報偏重のリスク: 「AIによる最適化が唯一の方法になることで他の情報を得られなくなるリスクがある」という意見もありました。AIが提供する情報や解決策に過度に依存することで、多様な視点や可能性を見落としてしまう危険性も考慮する必要があります。
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ネットリテラシーの重要性: これらの課題を解決するためには、「支援される側・支援する側の両方にネットリテラシーの知識が必要である」という認識が共有されました。AIを賢く使いこなすための教育と啓発が、今後の福祉分野におけるDX推進の鍵となるでしょう。
参加者の感想:AIへの期待と現実的な視点
研修後、参加者からは多岐にわたる感想が寄せられ、生成AIに対する期待と、今後の活用に向けた現実的な視点が示されました。
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「現場でどのようにAIを活用するか、利用する側の知識も問われると思い、参考になりました。」
- AIはツールであり、それを使いこなす人間のスキルや知識が重要であるという認識が高まったことを示唆しています。
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「個人情報の取り扱いを改めて見直そうと思いました。」
- AI活用においては、個人情報保護が特に重要であるという意識が再確認されたようです。AIに情報を入力する際の注意点や、データの管理方法について、改めて学ぶ必要性を感じたと言えるでしょう。
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「AIと言うとハードルが高い気がしていたが、使ってみようと思うきっかけになった。利用者さんへの注意点なども伝えていけると良いと思った。」
- ハンズオン体験を通じてAIへの心理的抵抗が軽減され、具体的な活用への意欲が湧いた一方で、利用者への情報提供や注意喚起の重要性も認識したことが分かります。
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「AIを活用して、作業手順をいつでも聞ける環境にしておくのは利用者さんにとって何度も聞くことへの精神的な負担の軽減につながるので、活用することも支援につながるのだなと思いました。」
- AIが利用者の精神的な負担を軽減し、自立を促すツールとして機能する可能性に気づき、具体的な支援方法として取り入れることへの前向きな姿勢が見て取れます。
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「ChatGPTについては、知ってはいましたが使うのは今回が初めてだったので、とてもいい機会になりました。」
- 多くの支援者にとって、知識と実践のギャップを埋める貴重な機会となったことがうかがえます。
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「実際にスマホを操作しながら体験でき、わかりやすかった。また設定で注意した方が良い点を教えていただき、参加して良かった。」
- 実践的な内容と具体的なアドバイスが、参加者の満足度を高めた要因と言えるでしょう。
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「文章だけではなく、図や絵を具体例として提示してくれることを知り、会議の表題やイラストに活用できることを学べました。」
- AIの多様な表現能力に気づき、業務における創造的な活用方法へのヒントを得たようです。
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「当初は『AIは怖い』という印象だったが良いところも知れて使ってみたいと感じた。支援者の活用と利用者・当事者の活用の両方の視点で学んでいきたい。」
- AIに対する先入観が払拭され、ポジティブなイメージを持つことができたとともに、支援者と利用者の双方にとってのAI活用の可能性を深く探求したいという意欲が示されました。
これらの感想からは、AIが障害者支援の現場に新たな視点と具体的な解決策をもたらす可能性を秘めていること、そしてその導入には丁寧な説明と実践的な体験、さらには倫理的な配慮とリテラシー向上が不可欠であることが浮き彫りになりました。
講師プロフィール:田中 康雅氏
本研修の講師を務めたのは、株式会社パパゲーノ 代表取締役の田中 康雅氏です。

田中氏は、神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科でメディアと自殺に関する研究を行った後、2022年に株式会社パパゲーノを創業しました。「リカバリーの社会実装」をミッションに掲げ、精神障害のある方を対象とした就労継続支援B型「パパゲーノ Work & Recovery」の運営や、支援現場向けDXアプリ「AI支援さん」の開発・提供を手がけています。国や自治体との協働、そして「AI福祉ハッカソン」の主催などを通じて、障害福祉業界全体のDX・AI活用推進(ソーシャルワーク4.0)に尽力されており、その著書に『生成AIで変わる障害者支援の新しい形 ソーシャルワーク4.0』があります。
株式会社パパゲーノについて:リカバリーの社会実装を目指して
株式会社パパゲーノは、「生きててよかった」と誰もが実感できる社会を目指し、「リカバリーの社会実装」を事業を通して行う企業です。

精神・発達障害のある方を対象とした就労継続支援B型事業所「パパゲーノ Work & Recovery」の運営や、支援現場のDXアプリ「AI支援さん」の開発・提供を通じて、障害のある方々が社会で活躍できる機会を創出しています。企業のDX支援も手がけ、AI技術を福祉分野に応用することで、より良い社会の実現に貢献しています。
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会社名: 株式会社パパゲーノ
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所在地: 東京都杉並区上高井戸1-13-1 ルート上高井戸ビル 2階A号室
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代表者: 代表取締役CEO 田中 康雅
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事業内容: 就労継続支援B型「パパゲーノ Work & Recovery」の運営、AI支援さんの開発、企業のDX支援
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公式ホームページ: 株式会社パパゲーノ
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公式YouTube: パパゲーノ公式チャンネル
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パパゲーノAI福祉研究所: パパゲーノAI福祉研究所
株式会社パパゲーノでは、今後も障害福祉業界のDX・AI活用を支援していく方針です。研修・講演の依頼や「AI支援さん」に関する問い合わせは、下記の連絡先まで気軽に相談できるとのことです。
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Email: info@papageno.co.jp
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AI支援さんサービス資料: AI支援さんサービス資料
まとめ:生成AIが拓く障害者支援の新たな地平
岐阜県社会福祉事業団ひまわりの丘障害者就業・生活支援センターで開催された今回の研修会は、生成AIが障害者就労支援の現場にもたらす大きな可能性と、それに伴う具体的な課題を浮き彫りにしました。AIの基本的な仕組みを理解し、実際に体験することで、多くの支援者がAIに対する心理的なハードルを下げ、その活用に前向きな姿勢を示すきっかけとなりました。
「AI支援さん」や「仕事相談BOT」のような具体的なツールが、記録作成の効率化や個別支援の質の向上、利用者の自立支援に貢献する一方で、情報の信頼性、支援者のスキル、倫理的な問題、そしてネットリテラシーの向上が今後の重要な課題として認識されました。
株式会社パパゲーノが提唱する「ソーシャルワーク4.0」の実現に向けて、生成AIの適切な活用は、障害のある方々が「生きててよかった」と実感できる社会を築くための強力な推進力となるでしょう。今回の研修会は、そのための第一歩として、支援者たちがAIの可能性を学び、未来の支援の形を共に考える貴重な機会となりました。今後の障害福祉分野におけるAI活用の動向に、引き続き注目が集まります。

