現代社会において、企業と顧客をつなぐ「コンタクトセンター」は非常に重要な役割を担っています。電話やチャットを通じて、お客さまの疑問や困りごとを解決する場所ですが、日々増加するお問い合わせに対応し、より質の高いサービスを提供することは大きな課題となっています。特に、複雑な問い合わせや個別の状況に応じた対応は、人手に頼る部分が多く、お客さまの待ち時間やオペレーターの負担増につながっていました。
これまでも、コンタクトセンターのデジタル化は進められてきました。例えば、事前に用意された質問に答える「チャットボット」や、CGで人間のように話す「デジタルヒューマン」などが導入され、簡単な問い合わせは自動で解決できるようになっています。しかし、これらの「定型AI」と呼ばれる技術は、あらかじめ決められた範囲の質問にしか答えられず、お客さまの意図を十分に理解できない場面も少なくありませんでした。
このような課題を解決するために、近年注目されているのが「生成AI」です。生成AIは、人間のように自然な言葉を理解し、自ら文章を生成する能力を持つため、より柔軟でパーソナルな対話が可能になります。そして今回、この生成AIを中核とした画期的な「自律型AIエージェント」が、株式会社ARISE analytics(アライズアナリティクス)によって開発され、KDDI株式会社(以下、KDDI)のお客さまセンターに導入支援されました。本記事では、この新しいAIエージェントがどのようにコンタクトセンターを変革し、お客さま体験を向上させるのか、AI初心者にも分かりやすい言葉で詳しく解説していきます。
ARISE analyticsとKDDIの協業が拓くコンタクトセンターの未来
KDDIは長年にわたり、お客さまセンターにおけるデジタル化を積極的に推進してきました。AIを活用したチャットボットやデジタルヒューマンの導入により、お客さまがより手軽にお問い合わせできるよう、さまざまな取り組みを行っています。ARISE analyticsは、このKDDIのデジタル化の道のりに伴走し、AI導入支援を続けてきました。
その結果、現在ではKDDIへのお問い合わせの55%以上が、デジタルチャネルで解決されています。これは、AI技術がコンタクトセンターの効率化とお客さま体験の向上に大きく貢献している証拠と言えるでしょう。
しかし、先に述べたように、これまでの定型AIには限界がありました。お客さまの複雑な問い合わせの意図を正確に把握できず、会話がスムーズに進まないといった新たな課題に直面していたのです。そこで、KDDIとARISE analyticsは、この課題を乗り越えるため、生成AIを中核に据えた「自律型AIエージェント」の開発・導入へと踏み切りました。これにより、お客さまはまるで人間と会話しているかのように、自然な形で疑問や困りごとを解決できるようになることが期待されています。
自律型AIエージェントとは?AI初心者向けに分かりやすく解説
「自律型AIエージェント」という言葉を聞いて、具体的にどのようなものかイメージしにくい方もいらっしゃるかもしれません。簡単に言えば、これは「人間が細かく指示しなくても、自分で考えて、自分で行動し、目標達成のために改善を繰り返すAIシステム」のことです。
従来のチャットボットが、事前に決められた質問と回答のパターンに基づいて動作する「受け身のAI」だとすると、自律型AIエージェントは、まるで熟練のオペレーターのように、状況を判断し、必要な情報を問いかけ、お客さま一人ひとりに合わせた最適な解決策を自ら導き出す「能動的なAI」と言えます。
このAIエージェントは、お客さまからのお問い合わせに対して、次のようなステップで対応します。
- 要件の具体化: お客さまの漠然とした質問から、本当に知りたいことや困っていることを明確にするために、必要な情報を引き出します。
- 計画の設計: 具体化された要件に基づいて、問題を解決するための最適な手順をAI自身が考えます。
- 情報収集: 計画に基づき、KDDIの膨大なデータベースから必要な情報を探し出します。
- 解決策の案内: 収集した情報を整理し、お客さまにとって最も分かりやすい形で解決策を提示します。
- 解決確認: お客さまの疑問が完全に解決したかを確認します。
この一連の流れをAIが自律的に行うことで、お客さまは「会話に近い状況」で、迅速に問題を解決できるようになるのです。
新AIエージェントの主な特長を深掘り
今回導入された自律型AIエージェントには、お客さま体験を大きく向上させるための画期的な特長が二つあります。
1. KDDIお客さまセンターに蓄積された膨大・多様なデータを活用した独自の設計
このAIエージェントの最大の強みは、KDDIが長年お客さまセンターで培ってきた膨大な知見と、生成AIの高度な思考力が融合している点です。具体的には、以下のようなデータが活用されています。
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過去の応対実績データ: これまでのお客さまとの会話の記録から、どのような質問が多いのか、どのような状況で困りやすいのか、どのような説明が分かりやすいのかといった「生きた情報」を学習します。
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お客さまの課題: どのような問題が頻繁に発生し、それがどのように解決されてきたのかを分析します。
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応対時に迷いやすいポイント: オペレーターが回答に困りやすい質問や、情報が複雑で説明しにくい点をAIが学習し、的確なサポートができるように設計されています。
これらのデータから、お客さまが問題を解決するまでの「実行プロセス」が詳細に設計されており、AIが自律的に「追加で質問すべきか」「もっと深く掘り下げるべきか」を判断できるようになっています。これにより、まるで人間のオペレーターのように柔軟な対話が可能となり、お客さまのお問い合わせの用件を具体化しながら、必要な情報をリアルタイムで検索し、最適な応対フローを作り出すことができるのです。

2. テキスト・音声による自然な対話の実現
このAIエージェントは、「チャットサポート」と「デジタルヒューマン」という二つのチャネルに搭載されており、テキスト(文字)と音声(声)の両方でシームレスな対応が可能です。これにより、お客さまはご自身の都合の良い方法で、より自然な対話を通じてサポートを受けられます。
「自然な対話」とは具体的にどのようなものでしょうか。例えば、次のような場面でその能力を発揮します。
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複数の質問への対応: お客さまが一度に複数の質問を投げかけた場合でも、AIはそれぞれの質問を認識し、これまでの会話の流れを踏まえて、適切な順序で回答を生成します。
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会話中の追加質問への対応: 会話の途中で、お客さまが新たな疑問を口にした場合でも、AIは瞬時にその意図を理解し、それまでの文脈を考慮した上で、柔軟に回答や質問の順序を切り替えます。
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発話の継続/中断の判断: お客さまが話している最中に、AIが適切なタイミングで相槌を打ったり、必要であれば発話を中断して訂正したりと、人間らしいコミュニケーションを実現します。
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処理中の時間稼ぎ: 複雑な情報検索などでAIが回答を準備するのに時間がかかる場合でも、「少々お待ちください」「お調べいたします」といった言葉で時間を繋ぎ、お客さまにストレスを感じさせない工夫がされています。

これらの機能により、お客さまはまるで目の前に人間のオペレーターがいるかのような、スムーズでストレスのない対話体験を得られるでしょう。
提供開始サービスと今後の展望
この自律型AIエージェントは、2026年3月10日からKDDIより提供が開始されています。現在のところ、主に以下のサービスに関するお問い合わせに対応しています。
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au PAY
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au PAY カード
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Pontaポイント
ただし、au PAY(auかんたん決済)など一部サービスは対象外となる場合があります。今後は、対象サービスを順次拡大していく予定で、2026年度中には、auサービス全般に関するすべてのお問い合わせ項目で導入支援が実施される見込みです。
これにより、より多くのお客さまが、さまざまなauサービスに関する疑問や困りごとを、このAIエージェントを通じて迅速かつ円滑に解決できるようになることが期待されます。将来的には、KDDIのお客さまサポートのあり方が大きく変わっていくことでしょう。
自律型AIエージェントがもたらす革新
ARISE analyticsとKDDIが導入支援した自律型AIエージェントは、単なる技術的な進化にとどまらず、コンタクトセンターにおける顧客体験と業務効率の両面に大きな革新をもたらします。
顧客側のメリット
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迅速な問題解決と待ち時間の短縮: AIが24時間365日対応し、複雑な問い合わせにも即座に回答を生成できるため、お客さまは電話が繋がりにくい時間帯や営業時間外でも、すぐに問題を解決できるようになります。長時間の待ち時間から解放され、ストレスなくサポートを受けられます。
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パーソナルな対応: 過去の対話履歴や顧客情報をAIが記憶し、お客さま一人ひとりの状況に合わせた最適な情報や解決策を提供することで、よりきめ細やかなサポートが期待できます。
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自然な対話によるストレス軽減: 人間らしい柔軟な対話が可能になることで、機械と話しているような不自然さがなくなり、お客さまはリラックスして質問や相談ができるようになります。
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利便性の向上: テキストと音声、どちらのチャネルでも対応できるため、お客さまは自身の好みや状況に合わせて最適な方法でサポートを受けられます。
企業側のメリット
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応対品質の均一化と向上: AIが常に最適な情報に基づいて回答するため、オペレーターによる応対品質のばらつきがなくなり、一貫して高品質なサポートを提供できます。また、AIが学習を続けることで、常に最新の情報に基づいた応対が可能になります。
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オペレーターの業務負担軽減: 定型的な質問や簡単な問い合わせはAIが対応するため、人間のオペレーターはより複雑で専門的な対応や、感情的なサポートが必要な顧客対応に集中できるようになります。これにより、オペレーターのストレス軽減やモチベーション向上にもつながります。
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リソースの最適化とコスト削減: AIが多くの問い合わせを自動で処理することで、人件費の削減やオペレーターの採用・教育コストの最適化が期待できます。限られたリソースをより効果的に活用できるようになるでしょう。
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データに基づいたサービス改善: AIとの対話履歴は、お客さまのニーズや課題を理解するための貴重なデータとなります。このデータを分析することで、サービスの改善点を発見し、より顧客満足度の高いサービス開発に繋げることが可能です。
このように、自律型AIエージェントは、お客さまにとっても企業にとっても、大きなメリットをもたらす次世代のカスタマーサポートの形と言えるでしょう。
株式会社ARISE analyticsについて
今回の自律型AIエージェントの開発・導入支援を行った株式会社ARISE analyticsは、2017年2月にKDDIとアクセンチュアのジョイントベンチャーとして設立された企業です。このユニークな成り立ちにより、同社は二つの強力な強みを兼ね備えています。
一つは、国内最大規模のデータを保有するKDDIが持つ「データ資産」です。もう一つは、高度なコンサルティング力とアルゴリズム開発力を誇るアクセンチュアが持つ「分析・技術力」です。ARISE analyticsは、これらの強みを融合させ、「アナリティクスカンパニー」として、データアナリティクスとAI(人工知能)を駆使し、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援しています。
データ分析とAIの力で、企業のビジネス課題を解決し、新たな価値を創造することを目指しており、今回のKDDIとの協業もその一環と言えます。
ARISE analyticsに関する詳細情報は、以下のURLから確認できます。

まとめと今後の期待
ARISE analyticsとKDDIが導入支援した自律型AIエージェントは、コンタクトセンターにおける顧客体験を根本から変える可能性を秘めています。生成AIの高度な能力と、KDDIが培ってきた豊富な顧客応対データを組み合わせることで、お客さまはより自然で、パーソナルなサポートを、いつでもどこでも受けられるようになります。
これは、単に「問い合わせに答える」というレベルを超え、「お客さまの困りごとに寄り添い、最適な解決策を自律的に提供する」という、まるで人間のようなきめ細やかなサービスを実現するものです。企業側も、オペレーターの負担軽減や業務効率化、応対品質の向上といった多くの恩恵を受けることができるでしょう。
今後、このAIエージェントがauサービス全般に拡大していくことで、より多くのお客さまがその恩恵を受け、KDDIのカスタマーサポートはさらなる進化を遂げるに違いありません。ARISE analyticsとKDDIの協業が、日本のコンタクトセンターの未来をどのように切り拓いていくのか、今後の展開に大いに注目が集まります。
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