【AI技術の最前線】ナレッジグラフ活用で質問応答を革新!AIVALIXが「KGRAG」論文発表、複雑な問いも高精度・高効率に解決

AIが賢く答える新技術「KGRAG」とは?ナレッジグラフで複雑な質問も高精度・高効率に解決

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近年、急速に進化するAI技術は、私たちの生活やビジネスに大きな変化をもたらしています。特に、質問応答システムは、情報を素早く正確に得るための強力なツールとして期待されています。しかし、AIが複雑な質問に答えるためには、膨大な知識の中から適切な情報を見つけ出し、論理的に推論する能力が不可欠です。

このような背景の中、AIVALIX株式会社とインディゴ株式会社の共同研究チームは、第67回人工知能学会セマンティックウェブとオントロジー研究会(SIGSWO)にて、画期的な質問応答手法「Knowledge Graph Retrieval Augmented Generation(KGRAG)」に関する共同研究論文を発表しました。このKGRAGは、ナレッジグラフと呼ばれる知識表現と生成AIを組み合わせることで、AIがより高精度かつ効率的に複雑な質問に答えられるようにする技術です。この発表は、AIによる知識活用に新たな可能性を開くものとして注目されています。

KGRAGが解決するAIの「質問応答」における課題

AIがユーザーの質問に答える「質問応答システム」は、現代のAI技術の中核をなす重要な機能の一つです。特に、大規模言語モデル(LLM)と検索拡張生成(RAG: Retrieval Augmented Generation)を組み合わせた手法は、AIの回答精度を飛躍的に向上させました。RAGは、質問に関連する情報をデータベースから検索し、その情報を参考にしながらLLMが回答を生成する仕組みです。

しかし、従来のRAG手法にはいくつかの課題がありました。例えば、質問が複雑になり、複数の情報源をたどって推論する必要がある「多段階質問応答(Multi-hop Question Answering)」の場合、AIが探索すべき情報の範囲が爆発的に増加し、計算負荷が非常に高くなってしまうという問題です。これは、膨大な情報の中から最適な回答を見つけ出すために、AIが多くの無駄な探索をしてしまうことに起因します。

KGRAGは、この課題を解決するために「ナレッジグラフ」という知識表現技術を活用します。ナレッジグラフは、世の中の様々な「モノ(エンティティ)」と、それらの間の「関係性」をグラフ構造で表現したものです。例えば、「映画」と「監督」、「監督」と「別の映画」といった関係性を明確にすることで、AIは知識のつながりをより効率的にたどることができます。

しかし、ナレッジグラフが大規模になると、それでも探索空間は広大になります。KGRAGは、この広大な探索空間を効率的に絞り込み、AIが「考える過程」そのものを最適化することで、高精度かつ低コストでの質問応答を実現します。

KGRAGの核心:段階的剪定で高精度・高効率な探索を実現

KGRAGが提案する解決策は、「型情報(type)・ベクトル類似度・言語モデル評価」という3つの要素を組み合わせた段階的な剪定手法です。これにより、AIは広大なナレッジグラフの中から、質問に関連性の高い情報だけを効率的に絞り込むことができます。

1. 型情報(type path)による探索空間の段階的制御

KGRAGの最も重要なポイントの一つは、質問文から「型情報(type path)」を推論し、探索範囲を限定することです。

「型情報」とは、ナレッジグラフ内のエンティティ(モノ)が持つ属性や分類のことです。例えば、「人」「会社」「場所」「映画」といった分類が型情報に当たります。KGRAGでは、T5モデルというAIモデルを活用して、質問文から「〇〇の監督は誰ですか?」という質問であれば「映画」→「人(監督)」といったように、推論すべきエンティティの型の連鎖(type path)を学習します。

これにより、AIは質問が求める情報がどのような「型」の連鎖でつながっているかを事前に把握できます。例えば、「映画の監督」について尋ねられているのに、最初から「場所」に関する情報を探索する必要はありません。この型情報に基づいて探索範囲を明示的に制約することで、従来の単純なベクトル検索では不可能だった、知識の構造に基づいた高精度な推論が可能になります。

2. ベクトル類似度 × LLM再評価のハイブリッド設計

KGRAGは、効率と精度の両立を図るために、「ベクトル類似度」と「大規模言語モデル(LLM)による再評価」を組み合わせたハイブリッド設計を採用しています。

まず、初期段階では「ベクトル剪定」という手法を用います。これは、質問と意味的に近い情報を数値化された「ベクトル」として捉え、ベクトル間の類似度を計算することで、大量の候補の中から関連性の高いものを素早くピックアップする方法です。この段階では、候補を広く残しておくことで、重要な情報を見落とすリスクを低減します。

次に、ベクトル剪定で絞り込まれた候補に対して、LLM(大規模言語モデル)による「再ランキング」を行います。LLMは、人間の言語を深く理解する能力に優れているため、候補と質問の間のより複雑な意味的な関連性や文脈を考慮して、最も適切な情報を精密に選定することができます。これにより、計算資源を抑制しながらも、最終的な回答の精度を向上させるという、分業型の階層パイプラインが実現されています。

このハイブリッド設計により、KGRAGは、探索の初期段階で広範囲な候補を効率的に絞り込み、最終段階でLLMの高度な推論能力を活用することで、計算コストを抑えつつ高い正答率を達成します。

MetaQA実験での有効性確認

KGRAGの有効性は、映画ドメインのベンチマークデータセット「MetaQA」を用いた実験で確認されました。MetaQAは、映画に関する多段階の質問応答タスクのために設計されたデータセットであり、KGRAGのような複雑な推論を必要とするシステムを評価するのに適しています。

実験の結果、KGRAGは従来のRAG手法に比べて探索効率を大幅に改善し、LLMの呼び出し回数を削減することに成功しました。これは、AIの計算コストを抑えながら、複雑な多段階質問(3-hop質問、つまり3ステップの推論が必要な質問)にも安定して対応できることを示しています。この成果は、AIがより少ないリソースで、より賢く、より複雑な問いに答えられるようになる可能性を示唆しています。

KGRAGが拓く未来:産業分野への応用

本研究で発表されたKGRAGは、生成AIとナレッジグラフを統合した新たな知識活用基盤として、様々な産業分野での応用が期待されています。

特に、以下のような分野での貢献が見込まれています。

  • ナレッジ継承: 熟練技能者の持つ貴重な知識や経験をナレッジグラフとして構造化し、AIがそれを活用することで、技術伝承や人材育成を支援します。これにより、熟練者の引退によるノウハウの散逸を防ぎ、組織全体の知識レベルを維持・向上させることが可能になります。

  • 意思決定支援: 複雑な状況下での意思決定において、AIがナレッジグラフから関連情報を抽出し、複数の選択肢とその結果を提示することで、より迅速かつ的確な判断をサポートします。例えば、製造ラインでのトラブル発生時や、プラントの運用計画策定時などに応用できるでしょう。

  • 異常要因推定: 設備やシステムで異常が発生した際、AIがナレッジグラフに蓄積された過去の事例や関連するセンサーデータ、メンテナンス記録などを分析し、異常の原因を迅速に特定するのに役立ちます。これにより、ダウンタイムの短縮や事故の未然防止に貢献します。

AIVALIX株式会社は、このKGRAG技術を応用し、特にインフラ・プラント・製造領域における「ナレッジグラフ × 生成AI」プラットフォーム(KGRAG)の社会実装を進めていくとしています。社会インフラの老朽化や熟練技能者の減少といった喫緊の課題に対し、AIがその解決に大きく貢献することが期待されます。

共同研究チームを牽引するAIVALIX CTOのコメント

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共同研究チームを牽引するAIVALIX株式会社のCTOである大島虎太郎氏は、今回の研究について次のようにコメントしています。

「今回の研究では、ナレッジグラフの“構造”を言語モデルがどう活かすかに焦点を当てました。質問から型の連鎖を生成し、探索空間を段階的に制御することで、AIが“考える過程”そのものを最適化できるようになりました。今後はこの手法を、インフラ・プラント・製造領域でのナレッジ継承や意思決定支援など、実務に根ざした知識活用AIへと展開していきます。」

このコメントからは、単にAIの回答精度を高めるだけでなく、AIがどのように知識を探索し、推論するかの「過程」そのものを最適化することの重要性がうかがえます。これにより、AIはより人間が理解しやすい形で推論を進め、その結果に対する信頼性も高まることが期待されます。

AIVALIX株式会社について:AIで社会インフラを支える東大発スタートアップ

AIVALIX株式会社について

AIVALIX株式会社は、「Resilient infrastructure. Powered by AI.」というミッションを掲げ、社会インフラ領域の課題解決に取り組む東京大学発のAIスタートアップです。日本をはじめ世界各国で深刻化する社会インフラの老朽化や熟練技能者の減少といった構造的課題に対し、AI技術で立ち向かっています。

同社は、上下水道、ガス、プラント、ビル、鉄道、バス、道路、通信など、私たちの生活と経済を支えるあらゆるインフラの点検・維持管理・更新といった全プロセスを最適化・自動化するAIプラットフォーム『INFRAI』を開発・展開しています。現場の知見と先端技術を融合させることで、社会全体のレジリエンス(変化やトラブルに柔軟に対応し、迅速に回復できる力)を高める仕組みを提供することを目指しています。

AIVALIX株式会社は、持続可能で強靭な社会を支える新たな標準を創り出すことを目指し、インフラメンテナンス業界における世界一のDX/AIプラットフォーマーとなることを目標としています。

採択歴と受賞歴

AIVALIX株式会社は、これまでに数々のプログラムに採択され、ピッチコンテストで受賞を重ねるなど、その技術力と将来性が高く評価されています。

採択歴の例:

  • 三菱地所×01Booster共催「01 Start Next」

  • 東京都主催「TIB STUDIO」

  • INTLOOP主催「INTLOOP Ventures Accelerator」第1期

  • Google主催「Founders at Campus community」第1期

  • 経済産業省主催 J-StarX(UC Berkeley 若手起業家コース)

受賞歴の例:

  • 2025年5月9日 東京都主催 SusHi Tech Tokyo 2025「出世魚ピッチ」審査員賞

  • 2025年6月14日 「Next GenAI Summit powered by DeNA」最優秀賞【優勝】

  • 2025年6月19日 第7回「Startups Emergence Ecosystem」(Gold Sponsor: NTTデータ)Grand Prize【優勝】

  • 2025年7月10日 「JAFCO SEED Pitch 2025」大賞【優勝】

  • 2025年9月30日 「INTLOOP Ventures Accelerator」第1期 最終ピッチ 最優秀賞【優勝】

  • 2025年10月7日 Generative AI Conference TOKYO 最優秀賞【優勝】

まとめ:KGRAGが切り拓くAIによる知識活用の新時代

AIVALIX株式会社とインディゴ株式会社による共同研究で発表されたKGRAGは、ナレッジグラフの構造的な強みと生成AIの柔軟な推論能力を組み合わせることで、AIによる質問応答の精度と効率を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。特に、複雑な多段階質問に対するAIの対応能力を高め、計算コストを削減できる点は、今後のAI技術の発展において非常に重要な意味を持ちます。

この技術は、社会インフラ領域をはじめとする様々な産業分野での知識継承、意思決定支援、異常要因推定といった具体的な課題解決に貢献し、よりレジリエントで持続可能な社会基盤の構築に寄与することが期待されます。

AIVALIX株式会社は、KGRAG技術の社会実装に向けて、現場データや技術文書などの知識活用に関する実データを提供できる企業、自治体、研究機関との連携を広く募集しています。PoC(概念実証)開発、業務連携、研究など、多様な形での共同検討が可能とのことです。この画期的な技術が、産業界にどのような変革をもたらすか、今後の展開に注目が集まります。

発表論文はこちらからダウンロードできます。
https://doi.org/10.11517/jsaisigtwo.2025.SWO-067_01

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