【介護・障害福祉】現場の8割でAIルールなし!個人情報漏洩リスクと従業員満足度向上に「AI活用ルール整備」が効果的と判明~パパゲーノAI福祉研究所の調査結果~

介護・障害福祉現場の8割でAI活用ルールなし!個人情報漏洩リスクと従業員満足度向上の鍵とは?

近年、様々な業界で注目を集める生成AI(人工知能)。特に介護・障害福祉の現場でも、「ChatGPT」などの生成AIの名前を耳にする機会が増えてきました。業務効率化への期待が高まる一方で、「個人情報の取り扱いはどうすればいいのか」「何から始めればいいか分からない」といった不安の声も少なくありません。

このような状況の中、就労支援事業やAI支援記録アプリの開発を行う株式会社パパゲーノが運営する「パパゲーノAI福祉研究所」は、2025年12月21日に、介護・障害福祉現場における生成AI活用の実態に関する詳細な調査報告書を公表しました。この調査により、現場の約8割でAI活用ルールが未整備であることや、従業員満足度向上には年収アップよりもAI活用ルールの整備が効果的であることなど、重要な実態が明らかになっています。

本記事では、AI初心者の方にも分かりやすい言葉で、この調査結果の詳しい内容と、介護・障害福祉現場が生成AIとどのように向き合っていくべきかについて解説します。

生成AIツールの利用頻度を示す棒グラフ。約55%が日常的に使用し、週1~2回が約15%、月1~2回が約13%。約12%が未利用で、過去利用者は約4%。

介護・障害福祉現場における生成AI活用実態調査の概要

今回の調査は、介護・障害福祉現場で働く人々の生成AI活用状況を明らかにし、業界全体がAIと正しく向き合うための指針作りに貢献することを目的として実施されました。

調査の基本情報

  • 調査名: 介護・障害福祉現場における生成AI活用に関する調査

  • 調査期間: 2025年11月25日(火)〜12月6日(土)

  • 調査方法: Googleフォームによるオンライン調査

  • 有効回答数: 184名

  • 回答者属性: 主に就労継続支援B型(29.3%)、就労移行支援(15.2%)、児童発達支援・放課後等デイサービス(14.7%)などに勤務する福祉従事者。

※この調査は任意回答のため、AI活用に関心のある層が多く含まれている可能性があります。そのため、AIの使用頻度やAIに対する肯定的な意見は、一般的な福祉・介護従事者全体よりも高く表れている可能性があります。

介護・障害福祉現場における生成AI活用の実態

調査結果からは、介護・障害福祉現場における生成AIの利用が急速に拡大している一方で、いくつかの重要な課題が浮き彫りになっています。

AI利用は急速に拡大中!過半数が週3日以上利用

調査に回答した人々の半数以上(55.4%)が「週3回以上」生成AIを使用しており、「週1〜2回程度」利用している人を合わせると、実に71.2%が週に1回以上生成AIを利用していることが分かりました。この数字は、AIがすでに現場の日常業務に深く浸透しつつあることを示しています。

また、生成AIを使い始めた時期を見ると、回答者の40.7%が「2025年から」と答えています。これは、2025年に入ってから生成AIの利用が急速に増加していることを明確に示唆しています。

生成AIを使い始めた時期別の件数と割合を示す表です。2025年に使い始めたと回答した人が最も多く、全体の40.7%を占めています。

個人での無料版AI利用が44.4%!高い個人情報漏洩リスク

生成AIを使ったことがある回答者に、どのような環境でサービスを利用しているかを尋ねたところ、最も多かったのは「個人で無料版のサービスを利用している」で44.4%でした。さらに、「個人で有料版のサービスを課金して利用している」人も26.5%に上ります。

生成AI系サービスの利用環境に関する調査結果を示す表。個人での無料版利用が44.4%と最も多く、事業所での利用が29.0%、個人での有料版利用が26.5%となっている。

これは、多くの従業員が会社の管理外でAIツールを使用している「シャドーAI」の状態にあることを意味します。無料版のAIサービスでは、入力した情報が学習データとして利用されることが多く、利用者に関する記録や個人情報などの「要配慮個人情報」が意図せずAIに学習され、外部に漏洩するリスクが極めて高い状態にあると言えます。

法人形態別に見てみると、特に「社会福祉法人」では個人での無料版AI利用が68%と非常に高い割合を示しており、この問題が顕著であることが浮き彫りになりました。

様々な法人形態(NPO法人、一般社団法人、医療法人、株式会社、社会福祉法人)における、事業所導入サービス、個人での有料版サービス、個人での無料版サービスの利用率を比較した表です。法人形態ごとのサービス利用傾向が示されています。

利用者に関する記録・計画書作成にAIを利用する人が約半数

生成AIの利用目的としては、プライベートな利用(趣味、雑談など)だけでなく、会議録・議事録の作成やマニュアル・手順書の作成など、業務での活用も進んでいます。特に注目すべきは、「利用者に関する記録や計画書の作成に生成AIを使用したことがある」と回答した人が48.2%に上ったことです。

これは、AIが日々の業務負担軽減に貢献している側面がある一方で、要配慮個人情報を含む支援現場の情報をAIに入力しているケースが少なくないことを示唆しています。個人情報保護の観点から、この状況は早急な対策が求められます。

職場の8割でAI活用ルールなし!「シャドーAI」が常態化

生成AIの利用が広がる一方で、職場のルール整備は追いついていません。調査結果によると、職場で明確なAI活用のガイドラインやルールが「ある」と回答したのはわずか19.8%でした。「ない」が69.1%、「分からない」が11.1%を合わせると、実に80.2%の職場でAIに関するルールが整備されていない状況です。

生成AIの職場での利用に関するアンケート結果を示す表です。回答者の69.1%が明確なルールやガイドラインがないと回答しており、条件付きで利用を認めている職場は19.8%、分からないが11.1%でした。多くの職場で生成AIに関する規定が未整備であることが分かります。

さらに、記録などへの生成AI利用について上司に報告・相談している人は41.4%にとどまり、約4人に1人が報告・相談せずにAIを利用している実態が明らかになりました。これは、事業所が把握していないところでAIが活用されている「シャドーAI」が常態化していることを示しており、情報漏洩などのリスクを増大させる要因となっています。

記録等での生成AI利用に関するアンケート結果の表です。上司や同僚に報告・相談してAIを利用している人が41.4%、使っていない人が32.7%、報告・相談せずに利用している人が25.9%という内訳が示されています。

従業員満足度向上には「年収アップ」より「AI活用ルール整備」が約2.2倍効果的

調査では、従業員満足度(eNPS:職場を知人にお勧めしたいかを0〜10点で評価する指標)にも注目が集まりました。重回帰分析という統計手法を用いて、何が従業員満足度に影響を与えるかを分析した結果、「AI活用ルールの整備」が従業員満足度に与える影響は、「年収アップ」の約2.2倍も効果的であることが判明しました。

NPSに影響を与える要因を重回帰分析した結果を示す表です。管理職、年収、AIルール整備、AI日常利用がNPSを向上させ、業務変更必要性の認識はNPSを低下させることが示されています。

この結果は、「給料が低いから福祉現場の従業員満足度が低いのは仕方ない」という従来の考え方に新たな視点をもたらします。AI活用ルールの整備は、組織としての方針が明確であること、新技術への積極的な姿勢、そしてスタッフへの配慮やサポート体制が整っていることの表れとして、従業員の満足度を大きく高める要因になっていると考えられます。

法人形態別に見ると、一般社団法人・一般財団法人やNPO法人ではeNPSが高い傾向にある一方で、社会福祉法人や医療法人ではeNPSが低い結果となりました。これは、特に社会福祉法人や医療法人において、AI活用ルールの整備が従業員満足度向上のための重要な課題である可能性を示唆しています。

9割超が「AIの使い方を学ぶ機会が必要」と回答。高い学習意欲

現場の従業員は、AIの活用に対して非常に高い学習意欲を持っていることも明らかになりました。「AIの使い方を学ぶ機会が必要」と回答した人は92.9%(非常に必要67.4%+やや必要25.5%)に上り、AI関連研修への参加意向も88.3%(ぜひ参加したい46.4%+機会があれば参加したい41.9%)と高い水準でした。

学びたい内容としては、生成AIの適切な使い方(プロンプトの書き方など)、福祉・介護現場でのAI活用事例、生成AIの限界とリスク(ハルシネーション、バイアスなど)、個人情報保護とAIなどが挙げられました。これは、単にAIを使いたいだけでなく、安全かつ効果的に活用するための知識を求めている現場のリアルな声と言えるでしょう。

福祉・介護の専門職向け研修で学んだAI関連の内容と割合を示した表です。生成AIの適切な使い方、現場での活用事例、限界とリスク、個人情報保護などが上位を占めています。

AIに頼りすぎると専門職としての思考力・判断力が低下する懸念も

生成AIの活用が進む一方で、その負の側面に対する懸念も存在します。回答者の46.2%が「生成AIに頼りすぎると専門職としての思考力や判断力が低下する」と実感していることが分かりました。

生成AIへの過度な依存が専門職の思考力や判断力を低下させるかについてのアンケート結果を示す表です。最も多かった回答は「どちらともいえない」で29.3%でした。

これは、AIが便利なツールであると同時に、専門職としてのスキルや判断力を維持・向上させるための意識的な取り組みが重要であることを示唆しています。AIを「道具」として使いこなし、最終的な判断は人間が行うというバランスが求められるでしょう。

介護・障害福祉現場の経営者・管理職への提言

今回の調査結果を踏まえ、パパゲーノAI福祉研究所は、福祉現場の経営者・管理職に向けて以下の3点を提言しています。

1. 事業所でのAI活用ルールを明確にする

多くの現場で従業員がすでにAIを利用している現状を考えると、AI活用ルールを明確にすることが急務です。「使っていいのか分からない」という曖昧な状態は、スタッフのストレスになるだけでなく、「シャドーAI」による個人情報漏洩などのリスクを高めます。どのような場面で、どのようにAIを使って良いのかを具体的に示すことで、従業員は安心してAIを活用できるようになり、結果として情報セキュリティの向上にも繋がります。

特に、従業員満足度が低い傾向にある社会福祉法人・医療法人においては、AIのルール整備が従業員満足度向上に大きく寄与する可能性が示唆されています。シャドーAIが常態化する前に、明確なルールを策定し、周知徹底することが重要です。

2. 「AI導入で大きな変更が必要」と感じさせない

AIは業務を根本から変える「劇薬」ではなく、日々の業務を「少し楽にするツール」として位置づけることが大切です。従業員に「AI導入で大きな変更が必要」と感じさせてしまうと、心理的な抵抗や負担感が増し、導入がスムーズに進まない可能性があります。段階的な導入や、既存業務に馴染みやすい形での活用を心がけることで、現場の受け入れが進みやすくなります。

3. 支援現場での「AIの正しい使い方」の研修に投資する

調査結果が示す通り、現場の従業員はAIの使い方を学ぶ意欲が非常に高いです。この意欲を活かし、生成AIの基礎知識や情報セキュリティに関する研修に積極的に投資することで、AI活用の事故を未然に防ぎ、安全かつ効果的な活用を促進できます。具体的には、プロンプトの書き方、個人情報保護の重要性、AIの限界とリスク(ハルシネーションなど)といった内容が求められています。

株式会社パパゲーノでは、介護福祉施設向けの生成AI研修や情報セキュリティ研修、社内ポリシー策定コンサルティングを提供しており、支援現場のAI活用に関する法務リスクをまとめた書籍も出版予定とのことです。AI活用に関する悩みがある場合は、気軽に相談してみるのも良いでしょう。

株式会社パパゲーノについて

株式会社パパゲーノは、「生きててよかった」と誰もが実感できる社会を目指し、「リカバリーの社会実装」を事業を通して行う企業です。精神・発達障害のある方を対象とした就労継続支援B型事業所「パパゲーノ Work & Recovery」の運営や、支援現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)アプリ「AI支援さん」の開発・提供を通じて、福祉分野における生成AIの活用を推進しています。

同社は、厚生労働省の「省力化投資促進プラン」で障害福祉分野におけるDX・AI活用の好事例に選出されるなど、その取り組みは高く評価されています。

生成AIを活用し、個人の可能性を広げる取り組みを示す図。基盤事業としてIT系就労継続支援B型の良い事例を東京で創出し、AI支援を通して福祉業界全体に支援を拡大する戦略が示されています。

調査結果のより詳細な情報

今回の調査結果の全データは、パパゲーノAI福祉研究所のウェブサイトで公開されています。介護福祉業界のAI活用の発展に寄与する目的であれば、自由に再解析や活用が可能です。活用する際は「パパゲーノAI福祉研究所」と出典を明記してください。

まとめ:AIと共存する福祉現場の未来へ

今回の調査結果は、介護・障害福祉現場が生成AIという強力なツールを既に積極的に活用し始めていることを明確に示しました。しかし同時に、個人情報漏洩のリスクや、職場のルールが未整備であるといった喫緊の課題も浮き彫りになっています。

生成AIは、正しく活用すれば業務の効率化や質の向上に大きく貢献する可能性を秘めています。そのためには、経営層がリーダーシップを発揮し、明確なAI活用ルールを策定すること、そして従業員がAIを安全かつ効果的に使いこなせるよう、適切な研修機会を提供することが不可欠です。さらに、AIを「業務を楽にするツール」として位置づけ、従業員に過度な負担を感じさせない導入アプローチも重要となるでしょう。

「AI活用ルールの整備」が従業員満足度向上に年収アップの約2.2倍もの効果があるという事実は、AI導入が単なる効率化だけでなく、組織のエンゲージメントを高めるための重要な経営戦略となり得ることを示しています。

介護・障害福祉現場がAIと正しく向き合い、その可能性を最大限に引き出すことで、より質の高い支援を提供し、従業員も利用者も「生きててよかった」と実感できる社会の実現に繋がることが期待されます。

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