日立が「クラウド運用成熟度モデル」を開発!ITサービス運用の現場負担と人財不足を解決へ
現代のビジネスにおいて、クラウドはITサービスの基盤として欠かせない存在となっています。しかし、その一方で、クラウドを活用したITサービス運用には、現場の大きな負担や深刻な人財不足といった課題が山積しています。
このような状況を解決するため、日立は「クラウド運用成熟度モデル」を開発しました。このモデルは、これまで個人の経験や勘に頼りがちだった運用作業を標準化し、自動化することで、ITサービス運用の効率化と最適化を目指します。結果として、運用に携わる人々が、より本質的なサービス価値の向上に集中できる環境を作り出すことを目的としています。
この記事では、AI初心者の方にもわかりやすい言葉で、この画期的な「クラウド運用成熟度モデル」の具体的な内容、その特長、そしてそれがどのように現場の課題を解決し、ITサービスの未来を切り開くのかを詳しく解説していきます。
クラウド運用が抱える深刻な課題とは?
デジタル化が急速に進む現代において、企業や組織はクラウドを積極的に活用し、新しいデジタルサービスを次々と生み出しています。これにより、ビジネスのスピードアップやコスト削減が期待できる一方で、クラウド運用においては以下のような深刻な課題が浮上しています。
属人的な運用と高まる現場負担
これまでのITサービス運用では、応答速度やエラー率といったサービス品質の設計、あるいはクラウドの利用コスト管理が、担当者の経験やノウハウに大きく依存していました。特定の担当者がいなければ作業が進まない「属人的な運用」は、多くの時間と労力を必要とし、現場の大きな負担となっていました。また、監視ツールや分析ツールが連携しておらず、それぞれのデータがバラバラに存在することで、問題発生時の原因特定や対応が遅れる原因にもなっていました。
深刻化するIT人財不足
日本全体でIT人財の不足が叫ばれる中、クラウド運用の専門知識を持つ人財は特に貴重です。既存のノウハウが特定の個人に集中しているため、その人財が異動したり退職したりすると、ノウハウの継承が困難になり、安定した運用を維持することが難しくなります。これにより、サービスの品質低下や運用コストの増加につながるリスクがあります。
DX加速と新たな運用モデルの必要性
デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速やIT活用の高度化が進むにつれて、企業にはより高品質で低コスト、そして高効率な運用体制の実現が求められています。このような背景から、現場の負担を軽減しつつ、持続的に運用を最適化できる新しいクラウド運用モデルの開発が強く求められていました。
日立が開発した「クラウド運用成熟度モデル」の全体像
これらの課題を解決するために日立が開発したのが、「クラウド運用成熟度モデル」です。このモデルは、運用現場の負担を軽減し、運用の標準化と効率化を徹底することで、運用に携わる人々が本来の業務であるサービス価値向上に専念できる環境を作り出すことを目指しています。
具体的には、クラウド運用に必要な作業手順やサービス品質指標(SLI)を体系的に整理し、標準化します。これにより、担当者に依存しない安定した運用品質を実現するための基盤を構築します。

このモデルは、運用のあるべき姿を5段階の「成熟度」として定義し、現状を評価し、具体的な改善策を提示します。主な特長は以下の3点です。
- 運用手順・品質の標準化と効率化による安定運用と現場負担の軽減
- サービス品質指標(SLI)の自動抽出による品質設計の効率化
- FOCUS仕様準拠によるクラウド利用コストの一元管理・最適化
それぞれ詳しく見ていきましょう。
特長1:運用手順・品質の標準化と効率化で安定運用を実現
日立の「クラウド運用成熟度モデル」は、国際標準のITサービス運用フレームワークである「ITIL4(Information Technology Infrastructure Library 4)」に基づいています。ITIL4は、ITサービス運用のベストプラクティス(最善の方法)を示す国際的な指針であり、これを取り入れることで、運用の信頼性と効率性を高めます。
このモデルでは、日立がクラウド運用アドバイザリサービス「Hitachi Application Reliability Centers (HARC)」で培ってきた運用診断・改善のノウハウが体系的にまとめられています。具体的には、クラウド運用の様々な作業要素(例:サービスレベル設計、アラート設計、一次対応、トラブルシューティングなど)ごとに、5段階で「運用のあるべき姿」が定められています。
各成熟度レベルでは、担当者が取るべき行動、必要なツール、基準、想定される課題、そして改善策といった運用ノウハウが整理され、運用ルールとして標準化されます。これにより、個々の担当者の経験やスキルに左右されることなく、常に一定の高い品質でサービス運用を行うことが可能になります。現場の作業負担を大幅に削減しながら、サービスの安定稼働に貢献します。
例えば、アラート設計における成熟度の一例は以下の通りです。
| 成熟度 | 運用のあるべき姿(一例) |
|---|---|
| レベル5 | 誤検知・見逃し率を評価し重要な異常を確実に検知しつつ、継続的にノイズアラートの削減基準見直しが行われている。標準化・自動化により、現場負担を最小化している。 ⇒ アラート設計の最適化 |
| レベル4 | 履歴やデータに基づき、個別にルール化せずとも動的にノイズアラートが抑制され、自動化による品質の向上や効率的な運用が行われている。 ⇒ アラート設計の効率化 |
| レベル3 | 類似アラートの集約や発報条件の調整により、ノイズアラートの削減が行われている。 ⇒ アラート量の削減 |
| レベル2 | 自動復旧や計画メンテナンスなど、対応不要なノイズアラートがフィルタされている。 ⇒ ノイズアラートの除外 |
| レベル1 (未成熟) | アラート設計が属人的で、実際には対処が不要なノイズアラートが多く、重要な異常がノイズに紛れて見逃されやすい。 |
このように、各レベルで明確な目標と改善策が示されることで、運用チームは段階的に成熟度を高め、より効率的で高品質な運用体制を構築できるようになります。
特長2:サービス品質指標(SLI)の自動抽出で品質設計を効率化
ITサービスの品質を測る上で重要なのが「SLI(Service Level Indicator:サービス品質指標)」です。これは、システムの応答速度やエラー率など、サービスの品質や信頼性を客観的に数値で示すためのものです。これまで、このSLIの設定は、どの指標を選び、どう設定すべきか、担当者の知識や経験に頼る部分が多く、非常に手間がかかっていました。
日立が開発したこのモデルでは、企業や組織がクラウド上で運用するITサービスやアプリケーションのシステム特性に応じて、最適なSLI候補を自動で抽出する技術が搭載されています。具体的には、APIの応答速度やエラー率、データ整合性といった「機能要件」と、可用性、セキュリティ、スループットといった「非機能要件」の57種類のSLI候補から、システムや業種ごとの特性に基づいて、独自のルールベースアルゴリズムで最適なSLI候補を自動的に選び出します。
これにより、専門知識がなくても、システムに合った適切なサービス品質設計を迅速に行うことが可能になります。運用現場での合意形成がスムーズになり、サービスの品質向上にも直結します。さらに、運用現場の標準化と自動化が進むことで、対応記録(チケット)の自動発行なども実現し、日々の作業効率が大幅に向上します。監視データの集約と分析により、大量のアラートに埋もれることなく、本当に重要なアラートへの対応負担が軽減されることも大きなメリットです。
特長3:FOCUS仕様準拠によるクラウド利用コストの一元管理・最適化
複数のクラウドサービスを利用する「マルチクラウド」環境が一般的になる中で、各クラウドベンダーから送られてくる請求書の形式や項目はバラバラで、全体のコストを把握し、管理することは非常に複雑で困難でした。
ここで重要なのが「FOCUS(FinOps Open Cost & Usage Specification)」という業界標準のオープン仕様です。これは、クラウドやSaaS(Software as a Service)などのITサービス利用料金データを標準化するためのものです。日立は、このFOCUS仕様に準拠したツールを開発しました。このツールは、複数クラウドサービスのコストデータを、自動的にFOCUS仕様の統一フォーマットに変換し、統合することができます。
さらに、FOCUS仕様に対応したマッピングテーブルを整備することで、クラウドサービスごとに異なる請求書の項目名やデータ構造、単位、表記方法などを一元的に可視化・分析できるダッシュボードを構築しました。このダッシュボードを活用することで、サービス単位や期間単位でのクラウド利用コストの比較が容易になります。また、機械学習を活用してコストの異常値を自動で検知する機能も搭載されており、これまで気づきにくかったコストの変動を早期に発見できるようになります。
これにより、マルチクラウド環境におけるクラウド利用コスト全体の管理と最適化が実現し、経営層はより迅速で的確な判断を下せるようになります。コスト情報が特定の担当者に依存したり、バラバラに存在したりする「分断」や「属人化」が抑制され、透明性の高いコスト管理が可能になります。
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詳細な技術情報については、以下の論文もご参照ください。
「HARC」との連携で広がるIT運用の未来
日立は今後、この「クラウド運用成熟度モデル」を、同社が提供するクラウド運用アドバイザリサービス「Hitachi Application Reliability Centers (HARC)」などを通じて、多くのお客さまに展開していく予定です。HARCは、クラウド運用における課題解決を支援する日立のサービスであり、このモデルと連携することで、ITサービス運用の効率化と運用コストの全体最適化を強力に推進します。
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HARCについてさらに詳しく知りたい方はこちら:
さらに、日立はAIを活用した運用効率化にも積極的に取り組んでいきます。お客さまの業務環境に合わせたモデルのカスタマイズを進め、AIエージェントの導入効果を最大化する「HARC for AI」との連携も強化する計画です。これにより、日立の先進的なデジタルソリューション群である「Lumada 3.0」を支える重要な技術の一つとして、社会全体のデジタル基盤の信頼性と効率性の向上に貢献していくことが期待されます。
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HARC for AIに関する情報はこちら:
まとめ:日立の挑戦が描くIT運用の未来
日立が開発した「クラウド運用成熟度モデル」は、ITサービス運用が抱える「現場負担の増大」と「人財不足」という二大課題に対し、具体的な解決策を提示する画期的な取り組みです。
このモデルを通じて、サービス品質の設計からクラウド利用コストの管理まで、これまで属人的だった運用作業を標準化・自動化することで、運用現場の効率を劇的に向上させます。これにより、運用に携わる人々は、日々のルーティンワークから解放され、より創造的で価値の高い業務に集中できるようになるでしょう。
日立は、このモデルを「HARC」などのサービスと連携させ、AI技術の活用も視野に入れながら、社会全体のデジタル基盤の信頼性と効率性をさらに高めていくことを目指しています。クラウド運用成熟度モデルは、これからのITサービス運用のあるべき姿を示し、企業の競争力強化、ひいては豊かな社会の実現に貢献する重要な一歩となるでしょう。
日立の研究開発に関する最新情報はこちらからご覧いただけます。

