キヤノンとNTT東日本が「IOWN」と「ボリュメトリックビデオ」で未来の映像体験を創出
2026年1月、映像技術の最先端を走るキヤノンと、次世代通信基盤を推進するNTT東日本が、画期的な協業を発表しました。この協業は、NTT東日本が提供する次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」の中核技術である「All-Photonics Connect powered by IOWN(以下、All-Photonics Connect)」と、キヤノンの「ボリュメトリックビデオシステム」を組み合わせることで、これまでになかった新しい映像体験を生み出すことを目指しています。
この技術検証はすでに開始されており、フレキシブルなボリュメトリックビデオシステムの構築を通じて、多様な場所で新しい映像体験やエンターテインメントが提供される未来が期待されています。AI初心者の方にも分かりやすいように、それぞれの技術と、今回の協業がもたらす可能性について詳しく見ていきましょう。
IOWNとAll-Photonics Connectとは?
まず、今回の協業の鍵となる「IOWN」と「All-Photonics Connect」について解説します。
IOWN(アイオン)とは?
IOWNは「Innovative Optical and Wireless Network(イノベーティブ・オプティカル・アンド・ワイヤレス・ネットワーク)」の略で、NTTグループが提唱する次世代の通信基盤構想です。これは、あらゆる情報を光の技術を中心に処理し、これまでにない高速・大容量の通信と、膨大な計算リソースを提供するネットワーク・情報処理基盤を目指しています。
現在のインターネットの多くは、電気信号と光信号を変換しながらデータを送っていますが、この変換の際にどうしても遅延が発生したり、消費電力が増えたりします。IOWNは、この電気と光の変換を極力減らし、ネットワークの全区間で光の技術を最大限に活用することで、これらの課題を解決しようとしています。
All-Photonics Connectとは?
All-Photonics Connectは、このIOWN構想の中核をなす「オール・フォトニクス・ネットワーク(All-Photonics Network)」と呼ばれる通信サービスの一つです。これは、通信ネットワークの全ての区間で光の波長を独占的に使用する、非常に高性能な通信サービスを指します。
例えるなら、通常の道路が多くの車(データ)が共有する混雑した道だとすると、All-Photonics Connectは、あなた専用の光の高速道路を一本まるごと借りるようなイメージです。これにより、以下のような圧倒的なメリットが生まれます。
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高速・大容量: 非常に大量のデータを、これまでの通信では考えられなかったほどの速さで送ることができます。まるで、巨大な情報を一瞬でテレポートさせるかのようです。
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低遅延: データのやり取りにかかる時間が極めて短くなります。電気信号への変換が少ないため、時間のロスがほとんどなく、リアルタイムに近い通信が可能です。
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ゆらぎのない通信: データが届くまでの時間が常に安定しており、途中で遅れが生じたり、通信が不安定になったりすることがほとんどありません。これは、精密な操作や同期が必要な場面で非常に重要になります。
NTT東日本は、2023年3月にAPN IOWN1.0の提供を開始し、2024年12月にはさらに進化した最大800GbpsのAll-Photonics Connect powered by IOWNの提供を開始しており、IOWNの社会実装に向けた取り組みを積極的に進めています。
ボリュメトリックビデオシステムとは?
次に、キヤノンが提供する「ボリュメトリックビデオシステム」について見ていきましょう。この技術は、私たちが普段見ている映像とは一線を画す、非常に没入感の高い映像体験を可能にします。
空間全体を3Dデータ化する革新的な技術
ボリュメトリックビデオシステムは、一般的なカメラで撮影する平面的な映像とは異なり、空間全体をまるごと3Dデータとしてデジタル化する技術です。これを実現するために、およそ100台もの多数のカメラを設置し、被写体や空間をさまざまな角度から同時に撮影します。
撮影されたこれらの映像データをコンピューターで解析・合成することで、その空間のあらゆる情報を立体的なデータとして生成します。これにより、あたかもその場にいるかのような臨場感あふれる映像が作り出されます。
自由な視点で映像を楽しむ「自由視点映像」
このシステムで生成される映像の最大の特徴は、「自由視点映像」であることです。通常の映像では、カメラが固定されたり、カメラマンが動かしたりした視点からしか映像を見ることができません。
しかし、ボリュメトリックビデオシステムで作成された映像は、視聴者がまるでゲームのキャラクターを操作するように、好きな角度から、好きな位置から、自由に視点を動かして見ることができます。例えば、スポーツ中継であれば、選手の真横から見たり、上空から見下ろしたり、観客席のどこからでも見ているかのように視点を切り替えたりすることが可能です。
これまでの活用事例
キヤノンはこれまで、このボリュメトリックビデオシステムを、様々な分野で活用してきました。スポーツ中継では、試合の決定的な瞬間を複数のアングルから自由に確認できることで、視聴者はより深く試合を楽しむことができます。また、音楽ライブ配信では、アーティストのパフォーマンスをあらゆる角度から堪能できるため、まるで会場の特等席にいるかのような体験を提供しています。
このように、ボリュメトリックビデオシステムは、これまでの映像体験を大きく変える可能性を秘めている一方で、その性質上、非常に大容量のデータを扱い、また滑らかな自由視点操作のためには低遅延で安定した通信が不可欠という課題も抱えていました。
なぜ今、この協業なのか?ボリュメトリックビデオの課題とAll-Photonics Connectの解決力
キヤノンのボリュメトリックビデオシステムと、NTT東日本のAll-Photonics Connect。一見すると異なる分野の技術に見えますが、実は互いの課題を解決し、相乗効果を生み出す最適な組み合わせなのです。
ボリュメトリックビデオシステムが抱える課題
前述の通り、ボリュメトリックビデオシステムは、約100台ものカメラで撮影した膨大な映像データをリアルタイムで処理し、3Dデータとして生成します。この過程で扱われるデータ量は、通常の映像とは比較にならないほど巨大です。
また、視聴者が自由な視点で映像を操作する際、その操作がすぐに映像に反映されなければ、違和感が生じてしまいます。特に、スポーツやライブといった動きの激しいコンテンツでは、わずかな遅延や通信のゆらぎが、没入感を大きく損なう原因となります。そのため、大容量データの高速伝送と、極めて低い遅延、そして通信の安定性が、このシステムの性能を最大限に引き出す上で重要な課題でした。
All-Photonics Connectが課題を解決する
ここでAll-Photonics Connectの真価が発揮されます。その「高速・大容量・低遅延」という特徴は、まさにボリュメトリックビデオシステムが抱える課題を解決するために最適なソリューションだからです。
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大容量データ伝送の実現: All-Photonics Connectの持つ圧倒的な大容量通信能力は、約100台のカメラから送られてくる膨大な生データを、品質を損なうことなく、瞬時に伝送することを可能にします。これにより、データのボトルネックが解消され、より高度な映像生成が可能になります。
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リアルタイムな自由視点操作: 低遅延かつゆらぎのない通信は、視聴者が視点を操作してから映像が切り替わるまでのタイムラグを極限まで減らします。これにより、まるでその場にいるかのように、自分の意思で自由に視点を動かし、映像を体験するという、まさに「リアルタイムな自由視点操作」が実現します。
このように、All-Photonics Connectの持つ通信技術が、ボリュメトリックビデオシステムの可能性を飛躍的に拡大させ、これまでにない、よりリッチで没入感のあるエンターテインメント体験の創出を可能にすると考えられ、今回の協業へと繋がりました。
協業の具体的な取り組み:システムの変革
今回の協業では、従来のボリュメトリックビデオシステムの構成を大きく変え、より柔軟で高性能なシステム構築を目指します。現在、技術検証が進行中です。
従来のボリュメトリックビデオシステムの課題
従来のボリュメトリックビデオシステムでは、撮影されたカメラデータの処理から、視点操作、そして最終的な映像生成までの全ての工程を、撮影が行われる拠点(例えば、スタジアムやスタジオ)で実施する必要がありました。

これは、以下の二つの大きな理由によります。
- 大容量データの伝送困難: 撮影拠点から別の場所にカメラデータや3Dデータを伝送しようとすると、そのデータ量が膨大すぎるため、従来のネットワークでは伝送が非常に困難でした。
- 遅延とゆらぎの影響: 映像生成や視点操作を別の場所で行うと、通信の遅延やゆらぎが発生し、滑らかな視点操作ができなくなる可能性がありました。
これらの制約により、システム全体が撮影拠点に集約され、設置や運用の自由度が限られていました。
All-Photonics Connectによる新たなシステム構成
本協業における技術検証では、この課題をAll-Photonics Connectによって解決します。具体的には、システムを「撮影拠点」「映像生成拠点」「視聴拠点」の三つに分け、それぞれをAll-Photonics Connectで接続する構成を検証しています。

この新しい構成のポイントは以下の通りです。
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カメラデータの大容量伝送: All-Photonics Connectの高速・大容量通信により、撮影拠点から映像生成拠点へ、既存回線では伝送が困難だった膨大なカメラデータを安定して送れるようになります。
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遅延・ゆらぎのない視点操作: 視聴拠点からの自由視点操作においても、All-Photonics Connectの低遅延・ゆらぎのない特性を活かし、映像と視点情報をほぼリアルタイムで処理できるかどうかの検証が進められています。これにより、現地と変わらない感覚で視点操作ができるようになることを目指します。
この機能分散が実現すれば、これまで撮影拠点に集中していた各機能を柔軟に配置できるようになり、ボリュメトリックビデオシステムの提供において、場所や設備にとらわれない高い自由度が得られることになります。
地域ミライ共創フォーラムでの展示
この革新的な取り組みの一端は、2026年1月28日にNTTe-City Laboで開催されたNTT東日本「地域ミライ共創フォーラム」で体験できる機会がありました。ここでは、遠隔地からの映像視聴や自由視点操作を体験できる展示が実施され、多くの来場者が未来の映像体験に触れることができました。NTTe-City Laboは、NTT東日本グループが地域の課題解決に取り組むソリューションを体感できる施設であり、IOWN Labも開設されています。
各社の役割
今回の協業における両社の役割は明確です。
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キヤノン: ボリュメトリックビデオシステムの提供
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NTT東日本: All-Photonics Connect利用環境の提供
それぞれが持つ強みを持ち寄り、協力することで、単独では実現が難しかった新しい価値の創造を目指しています。
今後の展望:未来のエンターテインメントと社会貢献
今回の協業が成功すれば、私たちの映像体験は劇的に変化するでしょう。今後の展望について詳しく見ていきましょう。
撮影場所にとらわれない自由な映像制作・視聴
最も大きな変化の一つは、ボリュメトリックビデオの生成・視聴・操作が、撮影場所から遠く離れた場所でも可能になることです。これにより、以下のようなメリットが期待されます。
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機材配置の最適化とコスト削減: これまで撮影拠点(スタジアムやライブ会場など)に持ち込む必要があった映像生成サーバーなどの大がかりな機材が不要になります。これにより、機材の運搬や設置にかかる手間とコストが大幅に削減され、より多くの場所でボリュメトリックビデオシステムを展開できるようになります。
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コンテンツ制作の柔軟性向上: 撮影と映像生成の場所が分かれることで、制作スタッフはより効率的に作業を進められるようになり、コンテンツ制作の自由度が向上します。
視聴者にとっての新しいエンターテインメント体験
視聴者側にも、大きなメリットがもたらされます。遠隔地にいながらにして、ボリュメトリック映像を視聴・操作できるようになることで、以下のような新しいエンターテインメント体験が可能になります。
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好きな角度・視点からの視聴: ライブ会場のベストポジションや、スポーツ選手のすぐ横など、これまで体験できなかった視点から映像を楽しむことができます。自分だけの「神視点」で、コンテンツを深く味わうことが可能になります。
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場所の制約からの解放: 自宅や好きな場所から、臨場感あふれる映像コンテンツを体験できるようになります。遠方で開催されるイベントにも、まるでその場にいるかのように参加できる未来がきっと訪れるでしょう。
この技術は、スポーツ観戦や音楽ライブといったエンターテインメント分野にとどまらず、教育現場でのバーチャル体験、医療分野での遠隔手術支援、観光分野でのバーチャルツアーなど、幅広い分野での活用が期待されます。例えば、遠隔地の専門家が精密な作業を指示したり、歴史的な建造物を自由に歩き回るバーチャル体験を提供したりすることも可能になるかもしれません。
キヤノンとNTT東日本は、今後も協力し、ボリュメトリックビデオとAll-Photonics Connectの連携を通じて、これまでにない革新的な映像体験とエンターテインメントの創出を目指していくとのことです。
まとめ:未来の映像技術が拓く新たな可能性
キヤノンとNTT東日本による今回の協業は、次世代通信基盤「IOWN」の「All-Photonics Connect」と、没入感の高い「ボリュメトリックビデオシステム」という、それぞれの最先端技術を組み合わせることで、未来の映像体験を大きく変える可能性を秘めています。
高速・大容量・低遅延の光通信が、これまで技術的な課題だったボリュメトリックビデオの大容量データ伝送やリアルタイムな自由視点操作を可能にし、撮影場所の制約をなくし、視聴者に新しいエンターテインメントの形を提供します。
この取り組みはまだ技術検証の段階ですが、今後、この技術がさらに進化し、私たちの日常生活に浸透していくことで、スポーツ観戦、音楽ライブ、教育、医療など、様々な分野で革新的な変化がもたらされることが期待されます。未来の映像体験がどのように進化していくのか、今後の展開に注目していきましょう。
本件に関するお問い合わせ先
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キヤノン株式会社: イメージング事業本部 IMG32事業推進センター
https://global.canon/ja/vvs/ -
NTT東日本株式会社: ビジネス開発本部 クラウド&ネットワークビジネス部 IOWNサービス担当
https://business.ntt-east.co.jp/content/iown/ -
IOWNについて:
https://www.rd.ntt/iown/ -
NTTe-City Laboについて:
https://business.ntt-east.co.jp/content/regional_revitalization/labo/
https://business.ntt-east.co.jp/content/iown/iownlab/

