【AI×知財】特許調査の常識が変わる?Patsnapが知財専用AI「PatentBench」で示すAI活用の新基準

AIは知財業務をどこまで支援できるのか?Patsnapが示す新たな基準

近年、人工知能(AI)の進化は目覚ましく、特に文章の生成や要約、翻訳といった分野で、私たちの日々の業務に大きな変革をもたらしています。しかし、特許の新規性調査やクレーム(特許請求の範囲)の解釈といった、専門性が高く、ミスの許されない知財(知的財産)業務において、AIがどこまで実用的に活用できるのかという疑問は、多くの専門家の間で議論されてきました。

こうした疑問に対し、知財情報プラットフォームを提供するPatsnap(パテントスナップ)は、知財実務に特化した独自のAI評価ベンチマーク「PatentBench」を構築し、AIの可能性と限界を客観的に評価する新たな基準を発表しました。

よりスマートなワークフローで、より大きなインパクトを Eureka by patsnap

知財業務に立ちはだかる「精度の壁」と汎用AIの限界

知財業務、特に先行技術調査は、企業の革新的な開発を支える上で不可欠なプロセスです。例えば、ある企業が次世代の人型ロボットを開発し、「多自由度のスムーズな動作、極限までコンパクトな設計、量産コストと組立性の両立」という技術コンセプトの優位性を確立しようとする場合を考えてみましょう。この技術が本当に新しいものなのか、既存の特許を侵害しないかを調べるために、知財部門は徹底的な先行技術調査を行う必要があります。

特許調査の難しさ:専門性と精度の要求

しかし、この知財調査には常に「精度の壁」が立ちはだかります。特許文献は、一般的な文書とは異なり、非常に抽象的な表現や、企業ごとに異なる専門用語(表現の揺れ)が多く含まれています。これにより、熟練した担当者でも、重要な先行文献を見落とすリスクが常に伴います。100件から200件の公報を詳細に精査するだけでも、数日から数週間もの膨大な時間と労力が必要となるのが実情です。

「会話ができるAI」と「実務を遂行するAI」の決定的な差

このような過酷な業務負荷を軽減するため、多くの企業が生成AIの導入を検討しています。確かに、ChatGPTのような汎用的な大規模言語モデル(LLM)は、文章生成や要約において驚くべき能力を発揮します。しかし、これらの汎用AIは、インターネット上の広範なテキストデータを学習しているため、「特許という特殊な世界」のルールやニュアンスを完全に理解しているわけではありません。

知財実務を汎用LLMに任せることには、以下のような構造的な限界があります。

  • 特許特有のセマンティクス(意味構造)の理解不足: 特許文献独特の言い回しや論理構造を正確に把握することが難しい場合があります。

  • クレーム解釈の複雑さ: 特許請求の範囲(クレーム)は、特許の権利範囲を定める最も重要な部分であり、その解釈には高度な専門知識と経験が求められます。

  • ハルシネーション(幻覚)のリスク: 汎用AIは、もっともらしいが事実ではない情報を生成する「ハルシネーション」を起こすことがあります。知財の世界では、このような小さな誤りが製品戦略の誤認や深刻な法的リスクにつながる可能性があります。

知財の世界は、技術、法務、ビジネスが複雑に絡み合う領域であり、単なる情報検索や要約では対応できない、専門的な判断が求められる場面が多々あります。そのため、知財実務においては、汎用AIの能力には限界があると考えられていました。

知財専用AI評価のグローバルスタンダード「PatentBench」

AIがどこまで特許実務を支援できるのかを客観的かつ定量的に評価するため、Patsnapは独自のベンチマーク「PatentBench」を構築しました。このベンチマークは、知財実務におけるAIの性能を測るためのグローバルスタンダードとなることを目指しています。

PatentBenchでは、以下の3つのモデルが同一条件で比較されました。

  1. Patsnap Eureka 新規性調査エージェント: 知財実務に特化して開発されたAIエージェント。
  2. ChatGPT-o3 (ウェブ検索対応): 一般的な大規模言語モデルで、ウェブ検索機能を持つもの。
  3. DeepSeek-R1 (ウェブ検索対応): 一般的な大規模言語モデルで、ウェブ検索機能を持つもの。

ベンチマーク結果:Patsnap Eurekaの優れた性能

比較の結果、Patsnap Eurekaは、知財実務における重要な指標で汎用モデルを大きく上回る性能を示しました。

X検出率(Top100結果におけるX文献発見割合)

Xヒット率の比較グラフで、Patsnap Eureka(新規性調査エージェント)が81%と最も高く、ChatGPT-o3(32%)、DeepSeek-R1(9%)が続く。Top 100検索結果におけるX文献発見割合を示す。

X検出率とは、検索結果の上位100件の中に、知財専門家によって「X文献」(先行技術として特に重要な文献)と判断されたものがどの程度含まれているかを示す割合です。Patsnap Eurekaは、このX検出率で81%を記録しました。これは、汎用モデルであるChatGPT-o3の32%、DeepSeek-R1の9%と比較して、圧倒的に高い数値です。この結果は、Patsnap Eurekaがより正確にX文献を特定できるAIであることを示しています。

Xリコール率(サンプル全体に含まれるX文献の総数に対する、Top100の検索結果の中のX文献件数の割合)

Xリコール率の比較を示す棒グラフ。Patsnap Eurekaが36%と最も高く、ChatGPT-o3が11%、DeepSeek-R1が3%となっている。検索結果におけるX文献の割合を評価している。

Xリコール率とは、調査対象となる全てのX文献のうち、上位100件の検索結果でどの程度拾い上げられたかを示す割合です。Patsnap Eurekaは、Xリコール率で36%を記録しました。これも、ChatGPT-o3の11%、DeepSeek-R1の3%を大きく上回る結果です。この高いリコール率は、Patsnap Eurekaが重要な文献を漏れなく特定する能力に優れていることを意味します。

これらのベンチマーク結果は、知財実務において、特化型AIエージェントが汎用AIと比較して、より高い精度と網羅性で業務を支援できることを明確に示しています。

IP実務をこなすAIエージェント「Patsnap Eureka」

汎用LLMが専門領域で「ハルシネーション」や実行力の限界に直面する一方で、近年注目されているのが「領域特化型AIエージェント」です。これは単なる対話モデルとは異なり、特定の業務文脈を深く理解し、現場のワークフローに沿って実務を遂行する、まさに「実働型AI」と言える存在です。

Patsnap Eurekaは、この領域特化型AIエージェントの先駆けとして、特許実務で頻繁に発生する高負荷なタスクに対応するために開発されました。具体的には、新規性調査、FTO(Freedom-to-Operate)調査、明細書作成、特許翻訳など、複数のエージェントを実装しています。

新規性調査エージェントの具体的な機能

Patsnap Eurekaの新規性調査エージェントは、従来、専門家が数週間かけて行っていた一連の調査プロセスを自動化します。

  • 先行技術抽出: 関連性の高い特許文献や非特許文献を効率的に抽出します。

  • 要素分解: 抽出された文献から、技術的な要素や構成を細かく分解し、分析しやすい形に整理します。

  • 複合検索式生成: 複雑な技術概念を的確に捉えるための高度な検索式を自動で生成します。

  • スクリーニング: 膨大な検索結果の中から、関連性の低いものを効率的に除外します。

  • クレーム対応付け: 調査対象の技術と先行技術のクレーム(特許請求の範囲)を比較し、対応関係を特定します。

  • 比較表・レポート作成: 調査結果をまとめた比較表や詳細なレポートを自動で作成します。

これらのプロセスは、根拠となる情報とともに編集可能な形式で出力されるため、専門家はAIが作成した成果物をそのまま利用したり、必要に応じて修正・加筆したりすることができます。これにより、従来1〜2週間かかっていた調査業務が、数分から数時間へと大幅に短縮されることが期待されます。

圧倒的な専門データ量と実務理解がPatsnap Eurekaを支える

Patsnap Eurekaの高い性能は、Patsnapが長年にわたり培ってきた圧倒的な専門データ量と、知財実務に対する深い理解に基づいています。

膨大な専門データの蓄積と加工

Patsnapは、10年以上にわたり技術・特許領域に特化して事業を展開してきました。現在、そのデータベースには、174か国・2億件以上の特許データ、そして2億件以上の論文などが収録されています。これらの膨大なデータに対しては、単に収集するだけでなく、以下のような多段階の加工が施されています。

  • 重複排除: 同じ情報が複数存在しないように整理します。

  • 構造化: 非構造化データを知財分析に適した形に整理します。

  • 正規化: 表現の揺れなどを統一し、検索や分析の精度を高めます。

  • 専門家監修によるラベリング: 知財専門家がデータに適切なタグ付けを行うことで、AIの学習精度を向上させています。

世界中のIP専門家のワークフローをAIに実装

Patsnapは、世界15,000社以上の顧客を支援する中で、特許エンジニア、特許代理人、企業のIP部門といった知財専門家の実際のワークフローや判断基準を体系的に抽出してきました。これらの知見は、Patsnap Eurekaのエージェントが業務を遂行する際の「行動ロジック」として実装されています。つまり、Patsnap Eurekaは、単にデータを処理するだけでなく、長年の経験を持つ専門家がどのように考え、判断を下すのかを学習しているため、より実務に即した支援が可能となっています。

Patsnap Eurekaが目指すのは、単に新しいAI製品を提供するだけではありません。IP(知的財産)とR&D(研究開発)の専門家と共に、知財業務の課題解決を進める「次世代のパートナー」となることです。AIが専門家の能力を拡張し、より戦略的で価値の高い業務に注力できる環境を創出することを目指しています。

Patsnapについて

Patsnapロゴ

Patsnapは、2007年にシンガポールで創業して以来、グローバル投資家の支援を受けながら、AIツール分野のグローバル企業へと成長を遂げてきました。世界中の企業がイノベーションを加速できるよう、知財情報や技術トレンド分析に関するソリューションを提供しています。

  • Patsnap本社: シンガポール

  • Patsnap日本: 東京都港区新橋

  • 日本代表: Guan Dian (Co-founder, APAC General Manager)

  • コーポレートサイト: www.patsnap.jp

まとめ:AIが知財業務の未来をどう変えるか

Patsnapが発表した知財専用AI評価「PatentBench」と、その検証結果から生まれたAIエージェント「Patsnap Eureka」は、知財業務におけるAI活用の新たな可能性を提示しています。汎用AIでは難しかった、特許特有の複雑なセマンティクスやクレーム解釈を理解し、高精度かつ網羅的に業務を支援する特化型AIエージェントは、知財専門家の業務負荷を大幅に軽減し、より戦略的な業務への集中を可能にするでしょう。

Patsnap Eurekaは、知財専門家にとって単なるツールではなく、長年の経験と膨大なデータを学習した「次世代のパートナー」として、知財戦略の策定や研究開発の加速に貢献していくことが期待されます。AIと人間の協働により、知財業務の未来はさらに効率的で、より価値の高いものへと進化していくことでしょう。

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