東京都が未来を拓く!「大学発スタートアップ等促進ファンド」とは
東京都は、日本の、そして世界の未来を形作る革新的な技術の社会実装を強力に後押ししています。その中心となるのが、令和6年2月に創設された「大学発スタートアップ等促進ファンド」です。このファンドは、大学で生まれた優れた研究成果や、社会に大きな変革をもたらす可能性を秘めた「ディープテック」企業が、その技術を実用化し、世界で活躍するスタートアップへと成長できるよう、資金面から支援することを目的としています。東京都が50億円を出資し、その総規模は800億円を超える巨大なファンドとなっています。
ディープテックとは?社会を変える革新的な技術
AI初心者の方にも分かりやすく「ディープテック」について説明しましょう。ディープテックとは、大学や国の研究機関などで長年の研究開発を経て生まれた、非常に高度で画期的な科学技術を基盤とした技術のことです。例えば、人工知能(AI)、バイオテクノロジー、宇宙開発、新素材、クリーンエネルギーなどがこれに当たります。
これらの技術は、実用化までに長い時間と莫大な費用がかかることが多いですが、もし実現すれば、私たちの生活や社会の仕組みを根本から変え、地球規模の課題解決に貢献する可能性を秘めています。まさに「深く、そして遠くまで」社会に影響を与える技術なのです。
ファンド・オブ・ファンズ:効率的な投資の仕組み
このファンドは「ファンド・オブ・ファンズ」というユニークな仕組みを採用しています。これは、投資家(この場合、東京都や他の参画企業)から集めた資金を、直接スタートアップ企業に投資するのではなく、さらに複数の専門的なベンチャーキャピタル(VC)ファンドに出資するというものです。
なぜこのような仕組みを取るのでしょうか?それは、各VCファンドがそれぞれ特定の分野や技術、地域に特化した深い専門知識とネットワークを持っているからです。これにより、東京都は、より多くの有望な大学発スタートアップやディープテック企業に効率的に資金を届け、リスクを分散しながら、それぞれの企業の成長段階に合わせたきめ細やかな支援を実現できるのです。

投資を加速させる9つのVCファンドとその特徴
2025年11月末時点で、この促進ファンドからは9つのVCファンドに出資が行われています。それぞれのファンドがどのような強みを持ち、どのような分野のスタートアップを支援しているのか、詳しく見ていきましょう。
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みやこ京大イノベーション3号 投資事業有限責任組合(運営事業者:みやこキャピタル)
京都大学との連携を強みとし、国内外の大学から生まれた技術の種(技術シーズ)を発掘しています。特に地方に眠る優れた技術を見つけ出し、グローバル市場で活躍できるスタートアップの育成を目指しています。地域活性化と国際競争力強化の両面から支援を行います。 -
VI-1号投資事業有限責任組合(運営事業者:ビジョンインキュベイト)
金沢大学が100%出資する子会社が設立したファンドで、ライフサイエンス(生命科学)、IT(情報技術)、マテリアル(新素材)といったディープテック領域に特化しています。国立大学発のスタートアップ創出と成長を重点的に支援し、日本の研究力を社会に還元することを目指します。 -
ONEカーボンニュートラル 1号投資事業有限責任組合(運営事業者:ONE Innovators)
大学や研究機関、事業会社、金融機関など多様なパートナーと連携し、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量ゼロ)の実現に向けたイノベーションを支援します。地球温暖化対策に貢献する技術やサービスを持つスタートアップに投資し、持続可能な社会の実現を目指します。 -
GHOVC Fund I 投資事業有限責任組合(運営事業者:Global Hands-On VC)
海外での起業や経営経験を持つエキスパート、スタートアップのグローバル展開を成功させてきた支援者など、多国籍のチームが運営しています。日本のディープテックスタートアップが世界市場へ進出するのを、戦略立案から実行まで幅広く支援します。 -
ITF Fund 9 L.P. Exempted Limited Partnership(運営事業者:アイティファーム)
ディープテック領域で豊富な投資実績を持つファンドです。深い技術理解力とグローバルな事業開発力を活かし、創薬分野を除くほぼ全ての技術分野のスタートアップを支援しています。多岐にわたる分野で、技術の実用化をサポートします。 -
Vertex Ventures Japan 1号投資事業有限責任組合(運営事業者:Vertex Ventures Japan)
日本発のスタートアップに対し、ディープテックなどの成長領域に積極的に投資を行います。シンガポールを拠点とするVertex Holdingsのグローバルネットワークを最大限に活用し、海外展開支援やグローバル企業との提携機会を創出することで、企業の成長を加速させます。 -
Abies Ventures FundⅡ 投資事業有限責任組合(運営事業者:Abies Ventures)
大学発などのディープテックに特化した独立系ベンチャーキャピタルです。シード・アーリー期(創業初期)のスタートアップに投資し、技術と事業の両面から知見を提供。国内外のネットワークを活かして、グローバルでの成長を強力にサポートします。 -
UTEC6号投資事業有限責任組合(運営事業者:東京大学エッジキャピタルパートナーズ)
東京大学をはじめとする大学や研究機関の研究成果を事業化することに特化しています。日本発のテクノロジーを世界に、そして海外発のテクノロジーを日本に導入する双方向の支援を通じて、グローバル市場で活躍するテクノロジー企業の成長を促します。 -
Red 1号ヘルスケア投資事業有限責任組合(運営事業者:Red Capital)
理学・生命医科学の博士号を持つ2名の女性によって創設された、ヘルスケア・ライフサイエンス分野に特化したファンドです。創薬、再生医療、デジタルヘルスなど、広範なディープテックスタートアップに投資し、人々の健康と医療の未来を支える技術の発展に貢献します。
これらのファンドが連携し、日本の優れた技術が社会に花開くための土壌を育んでいます。
未来を創る!注目の投資先スタートアップ企業15社
促進ファンドが出資するVCファンドから、すでに多くの大学発スタートアップやディープテック企業への投資が行われています。2025年11月末時点で承認が得られた主な投資先企業を15社紹介します。それぞれの企業がどのような技術で未来を創ろうとしているのか、具体的に見ていきましょう。
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アクアス株式会社(https://www.aqas.co.jp/)
自然界に存在するごく微量な成分を、高精度で分離し可視化する技術を研究開発しています。この技術が実用化されれば、例えば、病気の早期発見のためのバイオマーカーの検出や、環境中の微量汚染物質の監視など、医療や環境分野に革新をもたらす可能性があります。 -
株式会社ウェーブレット(https://wvl.co.jp/)
振動ビッグデータ解析技術を活用し、超小型で低コストな地中探査・監視システムの開発を行っています。これにより、地震予知の精度向上、地盤沈下の監視、地下資源探査など、インフラ管理や防災分野での応用が期待されます。 -
株式会社キュービクス(https://www.kubix.co.jp/)
血液に含まれるRNA(遺伝子の一種)の解析技術を基盤に、疾病の早期診断サービスを開発しています。採血という比較的負担の少ない方法で、がんなどの病気を早期に発見できるようになることで、治療の選択肢を広げ、患者さんの予後改善に貢献するでしょう。 -
将来宇宙輸送システム株式会社(https://innovative-space-carrier.co.jp/)
小型で再使用可能なロケットの開発に取り組んでいます。これにより、人工衛星の打ち上げコストが大幅に削減され、宇宙ビジネスへの参入障壁が低くなります。宇宙利用の民主化と、新たな宇宙産業の創出に貢献するディープテック企業です。 -
ニチエツ株式会社(https://jpvn.co.jp/)
重量物を効率的かつ安全に搬送するロボット技術を開発しています。工場や物流倉庫などでの重労働をロボットが代替することで、作業員の負担軽減、生産性向上、安全性確保に貢献します。人手不足が深刻化する現場での活躍が期待されます。 -
ファーメランタ株式会社(https://fermelanta.com/jp)
合成生物学と遺伝子導入技術を応用し、植物由来の化学物質を開発しています。従来の石油由来の化学製品を植物由来のサステナブルな素材に置き換えることで、環境負荷の低減や新たな産業の創出に貢献します。 -
株式会社ムービーズ(https://moveez-inc.com/)
モビリティ(移動手段)の高度化に向けた研究開発を行っています。自動運転技術、次世代交通システム、MaaS(Mobility as a Service)など、より安全で快適、効率的な移動を実現するための技術開発を通じて、未来の都市交通をデザインします。 -
AMS企画株式会社(https://www.ams-plan.com/)
放射性同位元素を用いた放射性医薬品の開発を行っています。これは、がんの診断や治療に用いられる重要な医薬品であり、この技術の進展は、難病治療の可能性を広げ、多くの患者さんの命を救うことに繋がります。 -
株式会社EX-Fusion(https://ex-fusion.com/)
レーザー核融合エネルギーの研究開発に取り組んでいます。核融合は、地球にほぼ無限のクリーンエネルギーをもたらす究極のエネルギー源として期待されており、この技術が確立されれば、世界のエネルギー問題の根本的な解決に貢献するでしょう。 -
株式会社FerroptoCure(https://ferroptocure.com/)
酸化ストレスによる細胞死の一種である「フェロトーシス」を標的とした創薬開発を行っています。これは、がんや神経変性疾患など、様々な疾患の新たな治療法につながる可能性があり、医療分野に大きなインパクトを与えることが期待されます。 -
株式会社Inopase(https://www.inopase.com/)
過活動膀胱の治療を目指すクローズドループ型神経刺激デバイスの開発を進めています。このデバイスは、患者さんの状態に合わせて自動で神経を刺激することで、より効果的で副作用の少ない治療を実現し、生活の質の向上に貢献するでしょう。 -
Juro Sciences株式会社(https://www.sfgsci.com/juro/)
低活動膀胱に対する前臨床候補薬の研究開発を行っています。高齢化社会において増加する排尿障害の問題に対し、新たな治療薬を提供することで、多くの人々の健康と尊厳を守ることに貢献する重要な取り組みです。 -
株式会社LINK-US(https://link-us.co.jp/)
超音波複合振動や強力超音波技術を応用した接合機の開発を行っています。この技術は、異種材料の接合や、従来の溶接では難しかった材料の接合を可能にし、自動車、航空宇宙、エレクトロニクスなど、幅広い産業分野での製造プロセスの革新に貢献します。 -
NExT-e Solutions株式会社(https://www.nextes.jp/)
電池システムの制御技術や、リチウムイオン電池の再利用を容易にするバッテリーマネジメントシステムを開発しています。電気自動車(EV)の普及や再生可能エネルギーの導入拡大に不可欠な技術であり、持続可能な社会の実現に大きく貢献します。 -
OishiiFarm Corporation(https://oishii.com/)
空調、水、光などの環境要素を最適な条件で再現した大型室内工場で、高品質なイチゴやトマトなどを年間を通して安定的に栽培しています。気候変動に左右されずに高品質な農産物を供給できる技術は、食料問題の解決や農業の未来を切り開く可能性を秘めています。 -
Sakana AI株式会社(https://sakana.ai/)
複数の小型AIを組み合わせることで、高性能な大規模言語モデル(LLM)を開発しています。これは、従来の巨大な単一モデルでは難しかった、より柔軟で効率的なAIの実現を目指すもので、AI技術のさらなる進化と応用範囲の拡大に貢献するでしょう。
これらの企業は、まさに未来の社会を形作る可能性を秘めた技術に取り組んでおり、その活躍が期待されます。
「大学発スタートアップ等促進ファンド」の全体像と今後の展望
ファンドの概要
東京都が創設した「大学発スタートアップ等促進ファンド」は、その正式名称を「大学発スタートアップ等促進ファンド投資事業有限責任組合」といい、運営事業者は「東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(略称:東大IPC)」です。令和6年2月29日に組合が設立されました。

このファンドは、大学発スタートアップへの投資を専門とするVCファンドや、ディープテック領域を中心としたスタートアップへ投資するVCファンドを投資対象としています。東京都の出資額は50億円ですが、東京都以外にも、東急不動産株式会社、国立大学法人東京大学、株式会社博報堂、三菱UFJ信託銀行株式会社、城南信用金庫、株式会社京葉銀行、株式会社山梨中央銀行といった多様な企業や金融機関が投資家として参画しており、その総出資約束金額は800億円を超えています。
このように、行政、大学、民間企業が一体となってスタートアップ支援に取り組むことで、単独では実現が難しい大規模な資金供給と幅広い支援体制が構築されています。
東京都の「2050東京戦略」との連携
このファンドの取り組みは、東京都が掲げる長期戦略「2050東京戦略」の一部でもあります。特に「戦略10 スタートアップ:世界で活躍するスタートアップを育成」を推進する重要な施策として位置づけられています。東京都は、このファンドを通じて、世界に通用するスタートアップを育成し、イノベーションを創出することで、東京の国際競争力の強化と持続可能な成長を目指しています。
今後の展望
「大学発スタートアップ等促進ファンド」は、今後も引き続き、大学発スタートアップやディープテックスタートアップに投資・支援する大学VCファンド等への出資を通じて、スタートアップのさらなる成長や裾野拡大の促進を目指していきます。新たな出資先ファンドの情報についても、随時、東京都のウェブサイトなどで公表される予定です。
このファンドの活動は、日本の研究成果が社会に実装され、新しい産業や雇用が生まれるだけでなく、地球規模の課題解決に貢献する可能性を秘めています。AI技術の進化とともに、これらのディープテック企業がどのように私たちの未来を豊かにしていくのか、今後の動向から目が離せません。

