医療AIが認知症診断を変える?東京科学大学が「BRAINEER Model A」を用いたPET単独解析の有用性を発表

医療AIが認知症診断を変える?東京科学大学が「BRAINEER Model A」を用いたPET単独解析の有用性を発表

近年、高齢化社会の進展とともに、認知症は社会全体で取り組むべき重要な課題となっています。特にアルツハイマー病は認知症の主要な原因の一つであり、その早期発見と適切な診断は、患者さんの生活の質を向上させ、ご家族の負担を軽減する上で極めて重要です。

アルツハイマー病の診断には、脳内のアミロイドβ沈着を検出するアミロイドPET検査が有効な手段とされています。しかし、この検査の定量的評価には、通常、脳の解剖学的な情報を得るためにMRI画像との併用が必要とされてきました。MRI検査は時間や費用がかかる上、閉所恐怖症の患者さんや体内に金属がある患者さんには実施できないといった課題も存在します。

このような背景の中、株式会社Splink(本社:東京都港区、代表取締役:青山 裕紀)が提供する脳画像解析プログラム「BRAINEER Model A」を用いた画期的な研究論文が、東京科学大学(旧 東京医科歯科大学)放射線診断科の横山 幸太先生、山田 浩文先生らの研究グループによって執筆され、核医学分野の国際学術誌「Annals of Nuclear Medicine」に掲載されました。この研究は、アミロイドPET検査における「PET単独解析(PET-only)」の有用性に関する臨床研究の結果を報告しており、MRIが利用できないケースにおいても、アミロイドPET検査の定量的評価が可能になる可能性を示唆しています。本記事では、この研究の意義と、それが医療現場にもたらす未来について詳しく掘り下げていきます。

Splink,inc.が、MRI、CT、PETを用いたCentiloidスケール計算に関する東京科学大学の研究論文を紹介するスライド。右側には「BRAINEER with PET」と記された脳画像と「CL: 50.01」のデータが表示されています。

医療AI「BRAINEER Model A」とは?

まず、今回の研究で中心的な役割を担った「BRAINEER Model A」についてご紹介しましょう。BRAINEER Model A(認証番号 304ADBZX00025000)は、株式会社Splinkが開発した脳画像解析プログラムです。これは、脳の画像データをAI(人工知能)の力を使って解析し、医師の診断をサポートすることを目的とした医療機器プログラムです。

具体的には、アルツハイマー病の早期診断に重要なアミロイドPET検査の画像を解析し、脳内のアミロイドβの沈着量を定量的に評価する機能を持っています。アミロイドβは、アルツハイマー病の発症に深く関わるとされる異常なたんぱく質であり、その蓄積を早期に捉えることが、病気の進行を遅らせるための重要な手がかりとなります。

このプログラムは、東京都健康長寿医療センター研究所 神経画像研究チームとの共同研究の成果を用いて開発され、2022年に薬事認可を取得しています。薬事認可とは、医療機器として国がその有効性と安全性を認めたことを意味し、実際に医療現場での使用が認められている信頼性の高いプログラムであることを示しています。AI初心者の方にとっては、「AIが医療現場でどのように役立つのか」という疑問があるかもしれませんが、BRAINEER Model Aは、専門的な画像診断をAIの高度な解析能力で支援し、医師の診断精度向上や診断時間の短縮に貢献する具体的な例と言えるでしょう。

画期的な研究論文の発表

今回、東京科学大学の研究グループによって発表された論文は、核医学分野の国際学術誌「Annals of Nuclear Medicine」に掲載されました。このことは、研究内容が国際的な専門家による厳正な審査をクリアし、その科学的価値が認められたことを意味します。

論文のタイトルは「Comparison of MRI-, CT- and PET-based anatomical standardization for Centiloid scale calculation in [18F]florbetapir positron emission tomography」です。この論文では、アミロイドPET検査における『PET単独解析(PET-only)』の有用性に関する臨床研究の結果が詳細に報告されています。

論文情報

  • タイトル:Comparison of MRI-, CT- and PET-based anatomical standardization for Centiloid scale calculation in [18F]florbetapir positron emission tomography

  • 著者:Hirofumi Yamada, Kota Yokoyama, Jun Oyama, Junichi Tsuchiya, Yoichiro Nishida, Nobuo Sanjyo, Masahito Yamada, Takanori Yokota & Ukihide Tateishi

  • 掲載雑誌:Annals of Nuclear Medicine(Online ahead of print, 4th December 2025)

  • DOI:10.1007/s12149-025-02134-4

PET単独解析の可能性:研究成果の詳細

この研究の核心は、アミロイドPET検査の定量的評価において、MRI画像を併用せずにPET画像のみで解析を行う「PET単独解析」が、どの程度実用的なのかを検証した点にあります。ここでは、その研究結果の概要を詳しく見ていきましょう。

アミロイドPET検査とCentiloidスケールとは?

まず、アミロイドPET検査について簡単に説明します。PET(Positron Emission Tomography)検査は、体内に微量の放射性薬剤を投与し、その分布を画像化することで、臓器の機能や病変を調べる検査です。アミロイドPET検査では、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβを特異的に検出する薬剤を使用し、脳内のアミロイドβ沈着の有無や程度を評価します。

このアミロイドβの沈着量を客観的に評価するための国際的な標準化された尺度として「Centiloid(セントロイド)スケール(CL値)」があります。CL値は、脳内のアミロイドβ沈着量を0から100以上の数値で表し、この数値が高いほどアミロイドβの沈着量が多いことを示します。通常、CL値が50を超えるとアミロイド沈着が陽性と判断されることが多く、アルツハイマー病の診断や進行度評価に非常に重要な指標となります。

研究の対象と方法

本研究では、[18F]florbetapir PET/CT検査を受けた68名の患者を対象に解析が実施されました。研究グループは、以下の3つの条件でCentiloid値(CL値)を算出し、その結果を比較検証しました。

  1. MRIを用いた標準法:脳の解剖学的標準化のためにMRI画像を併用する、現在最も一般的な方法です。
  2. CTを用いた方法:MRIの代わりにCT画像を用いて解剖学的標準化を行う方法です。
  3. PET単独法:MRIやCT画像を使用せず、PET画像のみ(BRAINEER Model Aなどのプログラムを使用)で解析を行う方法です。

注目すべき研究結果

研究の結果、以下の重要な点が報告されました。

  • 高い相関性:MRIを用いた標準法とPET単独法の間には、相関係数r=0.970という非常に強い相関が認められました。これは、PET単独法で得られるCL値が、MRI法で得られるCL値とほぼ同じ傾向を示すことを意味し、PET単独解析の信頼性の高さを示唆しています。

  • CL値の傾向:PET単独法はMRI法と比較して、CL値がわずかに低くなる傾向(平均差 -2.1 ± 11.0)が確認されました。この差は統計的に有意であるものの、その影響は限定的であると考えられます。

  • 判定への影響:アミロイド沈着が明らかに陽性(CL≧50)または陰性(CL≦5)の症例においては、MRIの有無がCentiloid値に基づく判定結果に影響を与えないことが示されました。つまり、多くの患者さんにおいては、MRIがなくても正確な診断が可能であるということです。

研究結果が示唆すること

これらの結果から、研究グループは以下の結論を導き出しています。

「同時撮影された3D T1強調MRI画像が得られない場合、PET単独法はアミロイドPETの定量的評価において実用的な代替手段となり得ます。ただし、ボーダーラインの症例や、治療モニタリングなどで厳密な定量性が求められる場合には、解剖学的標準化の手法(MRIの有無など)に注意を払う必要があります。」

これは、MRIが利用できない状況でも、BRAINEER Model AのようなPET単独解析プログラムが、アミロイドPET検査の診断に役立つ可能性が高いことを意味します。特に、MRI検査が困難な患者さんや、MRI装置の不足している地域において、アミロイドPET検査の実施と診断の機会を拡大できる、非常に大きな一歩と言えるでしょう。

医療現場と患者に与える影響

今回の研究成果は、アルツハイマー病の診断プロセスに大きな影響を与える可能性があります。

診断の機会拡大と早期発見の促進

MRIが利用できないケース、例えば閉所恐怖症の患者さん、ペースメーカーなどの金属が体内に埋め込まれている患者さん、あるいはMRI装置が設置されていない医療機関や地域などでも、アミロイドPET検査の定量的評価が可能になることは、より多くの人がアルツハイマー病の早期診断を受けられるようになることを意味します。

アルツハイマー病は早期に発見し、適切な介入を行うことで、病気の進行を遅らせたり、症状を管理したりできる可能性が高まります。この研究は、診断へのアクセシビリティを高め、より多くの患者さんの早期発見に貢献すると期待されます。

診断ワークフローの改善と医療効率の向上

MRI検査の省略は、診断にかかる時間や医療資源の削減にもつながります。MRI検査の予約や実施には時間がかかることが多く、PET検査とMRI検査を別々に行う場合、患者さんの負担も大きくなります。PET単独解析が可能になれば、検査プロセスが簡素化され、診断までの期間を短縮できる可能性があります。

これにより、医療機関のワークフローが改善され、より効率的な医療提供が実現できるでしょう。

株式会社Splinkの今後の展望

株式会社Splinkは、本研究においてPET画像単独での解析機能の臨床的有用な可能性が示されたことを受けて、今後の製品開発と社会実装に意欲を示しています。同社はすでに、PET画像単独での視覚読影の支援技術について特許を取得しており、この分野における技術的な優位性を持っています。

今後も、アカデミアや医療機関との連携を深め、科学的エビデンスに基づいた医療AIソリューションの開発と社会実装を推進していく方針です。これにより、アルツハイマー病をはじめとするブレインヘルスケア領域における診断技術のさらなる発展が期待されます。

株式会社Splinkについて

株式会社Splinkは、「すべての人につながりを、その日まで」をビジョンに掲げ、認知症をはじめとする“ブレインヘルスケア”領域において、認知症の早期発見から診断支援まで一貫したソリューションをワンストップで提供している企業です。AI技術を核とした革新的なアプローチで、脳の健康維持に貢献しています。

同社が提供する主な製品は以下の通りです。

  • CQ test:健常な方から認知機能を簡単に測定できるセルフチェック型認知機能測定ツールです。日常生活の中で手軽に自身の認知機能の状態を把握できるため、早期の気づきを促します。

  • Brain Life Imaging:脳MRIをAIで解析し、脳の中でも記憶や学習にかかわりの深い「海馬」領域の体積を測定・可視化します。受診者目線の分かりやすいレポートを提供することで、自身の脳の健康状態への気づきを促す脳ドック用AIプログラムです。

  • BRAINEER:脳MRIより脳の減少度を定量・数値化することで診断に役立つ情報を提供し、診断支援をおこなう脳画像解析プログラムです。今回発表された「BRAINEER Model A」もこのBRAINEERシリーズの一つであり、幅広い脳画像解析ニーズに対応しています。

これらの製品を通じて、Splinkは認知症の予防・早期発見から診断支援まで、多角的にブレインヘルスケアをサポートしています。同社の事業内容、設立、代表者などの詳細情報は以下の通りです。

  • 会社名:株式会社Splink

  • 本社所在地:東京都港区赤坂1-14-14 WAW赤坂第35興和ビル4階

  • 事業内容:ブレインヘルスケア事業、医療機器プログラム事業

  • 設立:2017年1月

  • 代表取締役:青山 裕紀

  • URLhttps://www.splinkns.com/

商標「ブレインヘルスケア」は株式会社Splinkの登録商標です。

まとめ

東京科学大学の研究グループによる「BRAINEER Model A」を用いた研究論文の発表は、アルツハイマー病診断におけるPET単独解析の有用性を示し、MRIが利用できない状況下での診断可能性を広げる画期的な一歩となりました。

この成果は、より多くの人が早期に正確な診断を受けられるようになるだけでなく、医療現場の負担軽減や効率化にも貢献することが期待されます。株式会社Splinkが掲げる「すべての人につながりを、その日まで」というビジョンのもと、医療AIの進化が、認知症をはじめとするブレインヘルスケア領域に新たな光をもたらし、より質の高い医療と社会の実現に寄与していくことでしょう。今後も、このような医療AI技術の進展に注目が集まります。

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