AI取引の信頼性を根底から変える「VeritasChain Protocol v1.1」とは?
近年、金融市場におけるアルゴリズム取引やAIを活用した取引システムは急速に進化しています。しかし、その高度化に伴い、取引の透明性や監査の信頼性をどのように確保するかが重要な課題となっていました。
こうした背景の中、VeritasChain Standards Organization(VSO)は、この課題に対する画期的なソリューションとして、「VeritasChain Protocol(VCP)v1.1」を正式に公開しました。さらに注目すべきは、このプロトコルがMetaTrader 5(MT5)の本番環境において、AI判断の暗号学的監査を「世界で初めて」実装したと発表されたことです。
これは、AIが下した取引判断の記録が、後から改ざんされていないか、あるいは意図的に削除されていないかを、数学的に厳密に検証できる仕組みが、実際の取引システムに導入されたことを意味します。本記事では、VCP v1.1の具体的な内容や、この「世界初」の試みが金融市場にもたらす可能性について、AI初心者にも分かりやすい言葉で詳しく解説します。

VCP v1.1:取引監査の常識を覆す進化
VCP v1.1は、VCP v1.0から大幅な強化が施されたプロトコルアップデートです。その最大の目的は、アルゴリズム取引やAI駆動型取引システムにおける「外部検証性」と「監査完全性」を高めることにあります。簡単に言えば、取引システムが生成する記録が、外部の誰から見ても信頼でき、かつ抜け漏れがないことを保証する仕組みです。
このアップデートは、インターネット技術の標準化を議論するIETF(Internet Engineering Task Force)での技術的議論や、VCP v1.0を実際に使ってきた企業からのフィードバックに基づいて策定されました。これらの実運用からの知見が、VCP v1.1の堅牢な設計に活かされています。
「完全性保証」がもたらす信頼性の新基準
VCP v1.1の最も重要な変更点の一つが「完全性保証(Completeness Guarantees)」の導入です。これまでの監査ログでは、記録されたデータが改ざんされていないことを確認することはできても、本来記録されるべきイベントが意図的に削除されたり、一部が隠蔽されたりしていないかを確実に検知することは困難でした。
しかし、VCP v1.1では、この完全性保証により、第三者は以下の2つの側面を暗号学的に検証できるようになります。
- 改ざん検知: 記録されたイベントが後から変更されていないこと。
- イベント欠落検知: 本来記録されるべきイベントが、意図的に削除されていないこと。
これにより、従来の取引ログが抱えていた「事後的な改変や部分開示を確実に検知できない」という根本的な課題が解消され、監査の信頼性が飛躍的に向上します。
VCP v1.0からv1.1への主要な変更点
VCP v1.1では、完全性保証を実現するために、以下のような技術的な改善が導入されています。
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三層アーキテクチャの導入: イベントの完全性を多角的に保証するための階層構造です。
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Layer 1(イベント完全性): 個々のイベントにハッシュ値(データの指紋のようなもの)とデジタル署名(電子的な印鑑)を付与し、イベント自体の改ざんを防ぎます。
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Layer 2(コレクション完全性): RFC 6962に準拠したMerkle Tree(マークルツリー)というデータ構造を利用します。これは、多数のイベントデータを効率的かつ安全にまとめるための技術で、データの一部が改ざんされたり欠落したりすると、そのことがすぐにわかる仕組みです。
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Layer 3(外部検証可能性): 外部タイムスタンプ(後述のOpenTimestampsなど)を使って、イベントの記録時刻を客観的に固定します。これにより、特定の時刻にそのイベントが存在したことを証明できます。
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外部アンカーの必須化: 「Silver Tier以上」という高い保証水準で、外部アンカーの利用が必須となりました。外部アンカーとは、記録されたデータの存在と完全性を、外部の信頼できる情報源(例えばBitcoinブロックチェーン)に紐付けて証明する仕組みです。これにより、データの完全性保証がより強固になります。軽量オプションとして、OpenTimestamps(Bitcoin連携)もサポートされています。
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完全性保証(Completeness Guarantees): 先述の通り、改ざん検知に加え、イベントの欠落検知が可能になり、削除攻撃や分割ビュー攻撃(特定の情報だけを見せることで誤解を招く攻撃)への耐性が強化されました。
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ポリシー識別(Policy Identification)の必須化: 各イベントに、それがどの準拠ティア(保証水準)で、どの程度の検証深度(どれだけ詳細に検証されたか)を持つかが明記されます。これにより、監査要件の追跡可能性が向上し、監査人が必要な情報を効率的に確認できるようになります。
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PrevHashのオプション化: VCP v1.0では必須だったPrevHash(直前のハッシュ値)がオプション化されました。これは、Merkle Treeと時系列識別子(Timestamp/UUIDv7)が同等の順序保証を提供できるようになったためです。
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デュアルタイムスタンプ形式: 人間が読みやすいISO 8601形式のタイムスタンプと、機械処理に適したint64ナノ秒形式のタイムスタンプが併記されます。これにより、人間の確認と機械による処理の両方で、正確な時刻情報を利用できます。
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スキーマ構造の分離: ヘッダー、ペイロード、セキュリティ、ポリシー識別の各要素が明確に分離されました。これにより、プロトコルの拡張性が向上し、検証処理の効率化が実現されます。
世界初のMT5本番環境でのAI判断暗号監査実装
VSOは、VCP v1.1の仕様公開と同時に、MetaTrader 5(MT5)の本番環境で稼働するVCPのプロダクション水準実装を示すオープンソースのエビデンスパックを公開しました。
VCP Reference Trading Agentおよびエビデンスパック
この実装の最大の特徴は、取引プラットフォームであるMT5本体には一切変更を加えない「サイドカー方式」を採用している点です。サイドカー方式とは、主となるシステム(この場合MT5)に直接手を加えず、別の独立したプロセス(サイドカー)として機能を追加する設計パターンのことです。これにより、AIによる取引判断、注文のライフサイクル(注文から約定までの過程)、約定結果などを、MT5の動作に影響を与えることなく取得・記録することが可能になります。
MT5の端末やブローカーのインフラストラクチャに改修が不要であるため、既存の環境に容易に導入できます。記録されたAI判断シグナルや取引イベントは、外部で暗号学的にハッシュ化され、Merkle Treeとして構成された上で、外部アンカーによって固定されます。これにより、独立した第三者が、これらの記録が改ざんされていないか、欠落していないかを検証できるようになります。また、監査ログの生成や検証が取引実行に影響を与えることもなく、ログ処理系の障害が市場取引に影響を及ぼさない設計が実現されています。

上の画像は、VCP Sidecarのリアルタイムイベントロギング画面の一例です。取引イベントがリアルタイムで記録され、それぞれのイベントにハッシュ値や署名が付与され、その完全性が保証されている様子が分かります。AIのコンセンサスサマリーも表示されており、AIがどのような判断を下したかの透明性が確保されています。
「世界初」を裏付ける透明なエビデンスレポート
VSOは、今回の「世界初」という主張に対して、その透明性と説明責任を担保するため、専用のエビデンスレポートを公開しています。
このレポートでは、学術論文、特許データベース、商用RegTech製品(規制技術製品)、オープンソースプロジェクト、そしてMetaTraderエコシステムという広範な分野を対象に、3系統の独立した先行技術調査が実施されました。その結果、以下の5つの特徴を同時に満たす公開済みの先行事例は確認されなかったと結論付けられています。
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MetaTrader 4/5プラットフォームとの統合
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暗号学的検証(ハッシュチェーン、Merkle Tree、デジタル署名)
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AI判断の来歴記録(AIがどのような判断を下したかの記録)
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実取引環境でのプロダクション水準のデプロイメント(本番環境での実装)
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非侵襲的なサイドカーアーキテクチャ

この徹底した調査と、エビデンスパックおよびエビデンスレポートのオープンソース公開は、規制当局、監査人、研究者、市場関係者といった様々なステークホルダーが、独立して検証・再現できる環境を提供することを意図しています。
このアプローチは、欧州の金融市場指令MiFID IIや、EU AI Actといった、AIシステムにおける透明性や説明責任を求める規制要件に対応することを目的としています。特定のベンダーや実装に依存しない中立的な設計を維持している点も、その信頼性を高める要因となっています。
国際的な技術議論への展望と今後の期待
2026年の年初には、VeritasChainが提案するAIシステムによる実行記録および電子的証跡の検証可能性に関するテーマが、国際的な技術標準フォーラムにおいて議論の対象として取り上げられる予定です。これは、暗号学的に検証可能な実行ログやAI判断の来歴が、既存の電子的証拠・信頼基盤とどのように補完関係を持ち得るかを検討する、初期段階の技術的ディスカッションです。
現時点では、この議論がいかなる承認や標準化を意味するものではありませんが、技術的な対話が始まる重要な第一歩と受け止められています。この議論を通じて、VCP v1.1のような技術が、将来の国際的な標準となる可能性も秘めていると言えるでしょう。
VeritasChain Standards Organization(VSO)について
VeritasChain Standards Organization(VSO)は、アルゴリズム取引およびAI駆動型システム向けの、暗号学的に検証可能な監査標準の策定を目的とする、独立・非営利・ベンダーニュートラルな標準化団体です。VSOは、特定の取引サービスを提供したり、特定のベンダー、プラットフォーム、または取引戦略を推奨・保証したりするものではありません。あくまで、市場全体の透明性と信頼性を高めるための技術標準を確立することに注力しています。
まとめ:AI取引の未来を拓くVCP v1.1
VCP v1.1の公開と、MT5本番環境でのAI判断暗号監査の実装は、金融市場におけるAI取引の信頼性と透明性を大きく向上させる画期的な一歩です。特に、データの改ざんだけでなく、意図的な欠落までをも防ぐ「完全性保証」は、監査の常識を塗り替える可能性を秘めています。
オープンソースとして提供されるエビデンスパックやエビデンスレポートは、この技術の透明性を保証し、誰でもその信頼性を検証できる環境を提供します。また、国際的な技術議論の開始は、VCP v1.1が将来的にグローバルな標準となる可能性を示唆しており、今後の動向から目が離せません。
AIによる取引が主流となる現代において、VCP v1.1のような技術は、市場の健全な発展と投資家保護のために不可欠な存在となるでしょう。これは、AI技術が社会に深く浸透する中で、その「信頼性」をどのように担保していくかという、より大きな問いに対する一つの重要な答えとも言えます。
関連リンク
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VCP v1.1 仕様書: https://github.com/veritaschain/vcp-spec/tree/main/spec/v1.1
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オープンソース VCP Reference Trading Agent およびエビデンスパック: https://github.com/veritaschain/vcp-rta-reference
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「世界初」エビデンスレポート(PDF): https://github.com/veritaschain/vcp-rta-reference/blob/main/VCP_Worlds_First_Evidence_Report.pdf
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VeritasChain Standards Organization: https://veritaschain.org/

