不動産価格の謎をAIが解き明かす!地域特性を可視化する共同研究が国際学会で発表
不動産を売買する際、その価格がどのように決まるのか、多くの人が疑問に思うことでしょう。立地や築年数、広さといった基本的な要素だけでなく、同じような条件の物件でも地域によって価格が大きく異なることがあります。この「地域ごとの不動産価格の謎」を、最新のAI技術と機械学習によって解き明かす画期的な共同研究が発表されました。
三菱地所グループにおいて不動産売買の仲介などを手掛ける三菱地所ハウスネット株式会社と、国立大学法人東京大学大学院情報理工学系研究科の山崎俊彦教授らが率いる山崎研究室は、「地域ごとの不動産価格を形成する要因分析」に関する共同研究を実施。その成果をまとめた学術論文が、国際会議「ACM Multimedia Asia 2025」のワークショップで発表されました。
この記事では、AI初心者の方にも分かりやすく、この共同研究の背景から具体的な内容、そして私たちの不動産取引にどのような未来をもたらすのかを詳しく解説していきます。
不動産査定の「なぜ?」:従来の課題と地域特性の重要性
従来の不動産査定が抱える課題
私たちが不動産を査定する際、一般的には「立地」「築年数」「広さ」「間取り」「室内状況」「周辺環境」など、いくつかの評価項目に基づいて価格が算出されます。これらの項目は不動産価格に大きく影響することは間違いありませんが、従来の査定方法では、これらの項目やその評価の点数が「一律」に設定されていることが一般的でした。
しかし、不動産市場は非常に複雑です。例えば、「最寄り駅から徒歩1分」という条件は、都心の一等地と郊外の住宅地では、その価値や価格への影響が大きく異なります。都心であれば極めて高い評価を受けるかもしれませんが、郊外ではそれほど大きな差とならないかもしれません。このように、地域ごとの特性が不動産価格に与える影響は非常に大きいにもかかわらず、これまでの査定では、その地域特性の反映が個々の営業担当者の知識や経験に依存する傾向がありました。
これは、経験豊富なベテラン担当者であれば地域の細かなニーズやトレンドを把握し、より実態に即した査定が可能である一方、経験の浅い担当者ではその判断が難しいという課題を抱えていたことを意味します。結果として、査定価格に納得感や透明性が欠ける場合があり、売買を検討する人々にとって不安要素となることもありました。
地域特性が価格に与える影響の発見
このような状況の中、東京大学山崎研究室のこれまでの研究では、興味深い事実が明らかになっていました。それは、「最寄り駅から徒歩1分の価値は地域ごとに異なる」という結果です。この発見は、不動産価格を形成する要因が、地域によって明確な差があることを学術的に裏付けるものでした。
この知見は、従来の画一的な査定方法では捉えきれなかった不動産価格の地域差を、より詳細に分析する可能性を示唆するものです。もし、この地域差を客観的かつデータに基づいて可視化できれば、より公平で透明性の高い不動産査定が実現できるはずです。この学術的知見を社会に役立てたいという共通の思いから、三菱地所ハウスネットと山崎研究室は共同研究を開始するに至りました。
共同研究の誕生:納得感と透明性を求めて
三菱地所ハウスネットと山崎研究室が目指したのは、単なる価格予測ではありません。不動産取引において、売り手も買い手も「なぜこの価格なのか」という説明に納得し、そのプロセスが透明であること。この「納得感」と「透明性」を、AIと機械学習の力を借りて実現することを目指しました。
研究の概要と目的
本共同研究では、まず東京都港区における中古マンションの豊富な取引データを用いて、不動産価格への地域ごとの影響差について検証を行いました。港区は、多様な地域特性を持つエリアが混在しており、分析対象として適していると考えられます。この研究を通じて、地域ごとの価格影響要因やその度合いを明確にし、より納得度・透明性の高い不動産査定の実現に向けた第一歩とすることを目的としました。
将来的には、この研究対象を港区以外の地域にも拡大し、日本全国の不動産市場における地域特性と価格形成の関係を解明していくことが期待されています。
研究の核心:AIとビッグデータで地域差を解き明かす
機械学習モデルとSHAP値による要因分析
共同研究では、東京都港区の中古マンションの膨大な取引データを活用しました。このデータをもとに、エリア単位で価格予測モデルを構築し、各エリアにおける価格影響要因を抽出しました。
ここで重要な役割を果たしたのが、「機械学習モデル」と「AI技術」を組み合わせた独自の評価手法です。AI初心者の方のために、少し専門的な言葉を解説しましょう。
機械学習モデルとは、大量のデータからパターンやルールを自動的に学習し、未来を予測したり、分類したりするコンピュータープログラムのことです。例えば、過去の不動産取引データ(物件の広さ、築年数、駅からの距離、周辺施設など)と実際の売買価格を学習させることで、「この条件の物件なら、これくらいの価格になるだろう」と予測するモデルを作ることができます。
しかし、単に価格を予測するだけでは「なぜその価格になるのか」という透明性は得られません。そこで活用されたのが「SHAP値(シャップ値)」という概念です。SHAP値は、機械学習モデルの予測結果に対して、個々の入力データ(今回は物件の広さや駅距離などの特徴量)がどれくらい貢献しているかを数値で示すものです。

上の画像(図1)は、SHAP値を使って、どのような特徴量(要因)が不動産価格の予測に強く影響しているかを示したものです。例えば、「room_size(部屋の広さ)」や「contract_date(契約日)」といった項目が、モデルの出力(価格予測)に大きな影響を与えていることが分かります。このグラフからは、各特徴量の値が高い(赤色)または低い(青色)場合に、予測価格をどのように押し上げたり押し下げたりするかが視覚的に理解できます。

さらに、上の画像(図2)は、各特徴量のSHAP値の分布を「バイオリンプロット」という形で示しています。これにより、特定の要因が価格全体にどのように影響しているか、その影響の度合いがどれくらい変動するのかをより詳細に把握できます。例えば、あるエリアでは「駅からの距離」が非常に重要だが、別のエリアでは「築年数」の方が重要といった地域ごとの違いが、この分析によって明確になるのです。
このように、機械学習モデルとSHAP値を組み合わせることで、今まで営業担当者の経験に頼っていた「地域特性」というあいまいな要素を、データに基づいた客観的な指標として可視化することが可能になりました。これにより、エリアごとに不動産価格を形成する要因がどのように異なるのか、その影響度がどれくらいなのかを具体的に明らかにすることができたのです。
東京都港区での具体的な検証結果
この分析の結果、従来の評価基準では捉えきれなかった地域特性が可視化され、より詳細なデータに基づいた不動産査定が実現できる可能性が示されました。例えば、港区内のあるエリアでは「商業施設への近さ」が価格を大きく左右する一方で、別のエリアでは「公園や緑地の多さ」が重視される、といった具体的な地域差がデータから導き出されたことでしょう。
これは、不動産の価値を多角的に捉え、その地域ならではの魅力を価格に反映させるための重要な一歩となります。単に「駅近だから高い」ではなく、「このエリアでは、〇〇という特性が特に評価されるため、この価格になる」といった、より説得力のある説明が可能になることを意味します。
国際舞台での成果発表:「ACM Multimedia Asia 2025」
この共同研究の成果は、2025年12月9日から12月12日までマレーシア・クアラルンプールで開催された国際会議「ACM Multimedia Asia 2025」のワークショップ「Visual and Signal Communication Technologies in Design of Housing, Urban Spaces, Local Communities, and Human Behavior」において発表されました。
「ACM Multimedia Asia 2025」は、ACM(Association for Computing Machinery)がアジア太平洋地域で主催する、マルチメディア分野における主要な国際会議です。世界中の研究者が集い、創造的な研究成果を発表する国際的なフォーラムとして知られています。
採択論文と発表者
本共同研究から採択された論文のタイトルは「Regional Differences in Feature Importances for Real Estate Prices」(訳:地域ごとの不動産価格影響度について)です。この論文は、地域ごとの不動産価格に影響を与える要因の差を詳細に分析した内容が評価され、国際的な舞台で発表される運びとなりました。
発表者は以下の通りです(発表当時):
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佐部 正太郎 氏(三菱地所ハウスネット株式会社 副主任)
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三戸部 伸之 氏(三菱地所ハウスネット株式会社 グループ長)
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増田 俊太郎 氏(東京大学 大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 博士課程)
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山崎 俊彦 氏(東京大学 大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 教授)
国際会議の様子
国際会議では、世界中の研究者や専門家を前に、研究の目的、手法、そして得られた画期的な成果が発表されました。参加者との活発な議論を通じて、この研究の意義と今後の可能性がさらに深められたことでしょう。

上の画像は、ワークショップに参加した研究者たちの様子です。このような場で研究成果を発表することは、その知見が世界的に認められ、さらなる研究の発展や社会実装への道を拓く重要な機会となります。

発表中の様子を捉えた上の画像からは、熱心に説明する発表者と、それを真剣に聞き入る聴衆の姿が伺えます。このような場での情報共有は、新たなアイデアや協力関係を生み出すきっかけにもなります。
研究成果がもたらす未来:より賢い不動産取引へ
今回の共同研究の成果は、不動産市場に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。具体的には、以下のような未来が期待されます。
1. より納得感のある不動産査定
AIと機械学習によって地域特性が客観的に可視化されることで、不動産の売り手も買い手も、査定価格の根拠をより深く理解できるようになります。「なぜこの価格なのか」という問いに対して、データに基づいた明確な説明が得られるため、不動産取引に対する納得感と信頼性が向上します。
2. 透明性の高い不動産市場
地域ごとの価格形成要因が明確になることで、不動産市場全体の透明性が高まります。これにより、消費者はより多くの情報を得た上で意思決定できるようになり、不透明な取引による不利益を被るリスクが低減されるでしょう。不動産会社にとっても、客観的なデータに基づいた提案が可能になるため、顧客との信頼関係をより一層強固にすることができます。
3. 不動産ビジネスの効率化と高度化
従来の査定では、営業担当者の経験や勘に頼る部分が大きかったため、時間と労力がかかっていました。AIによる分析システムを導入することで、査定プロセスの効率化が図れるだけでなく、より精度の高い査定が迅速に行えるようになります。これにより、不動産会社は顧客対応やコンサルティングといった、より付加価値の高い業務に注力できるようになるでしょう。
4. 新たな不動産サービスの創出
地域特性のデータが豊富に蓄積され、分析が進むことで、これまでになかった新しい不動産サービスが生まれる可能性もあります。例えば、「〇〇に特化した物件の価値を最大化するリノベーション提案」や、「特定のライフスタイルに最適な地域をAIがレコメンドするサービス」など、消費者の多様なニーズに応えるイノベーションが期待されます。
5. 全国への展開と社会実装
今回の研究は東京都港区での検証でしたが、今後はその研究対象を全国の地域に拡大していく計画です。日本各地の地域特性をAIが分析し、それぞれの地域に最適な不動産価格の形成要因を解明することで、全国規模での不動産市場の透明化と効率化に貢献することが期待されます。学術的な知見が社会に実装され、私たちの暮らしを豊かにする具体的なサービスへと繋がっていくことでしょう。
共同研究を推進する両者の紹介
三菱地所ハウスネット株式会社
三菱地所ハウスネット株式会社は、三菱地所グループの一員として、不動産の売買仲介、賃貸仲介・管理を担っています。顧客の多様なニーズに応えるため、質の高いサービス提供を目指しており、今回の共同研究もその一環として、より顧客に納得感のあるサービスを提供するための取り組みと言えるでしょう。
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本社所在地:東京都新宿区北新宿二丁目21番1号 新宿フロントタワー32F
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設立:1984年7月16日
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コーポレートサイト:https://www.mec-h.co.jp/
東京大学 山崎研究室
東京大学大学院情報理工学系研究科の山崎研究室は、画像や動画、音声、自然言語、メタデータ、グラフといった多様なデータを活用し、人工知能、マルチメディア、コンピュータビジョン、パターン認識、機械学習といった幅広い分野の研究に取り組んでいます。基礎研究から応用研究までを手掛け、国内外の企業や大学・研究所との共同研究も多数実施しており、研究成果の社会実装にも積極的に力を入れています。
- 山崎研究室ウェブサイト:https://www.cvm.t.u-tokyo.ac.jp/index.html
まとめ:AIが拓く不動産市場の新たな地平
三菱地所ハウスネットと東京大学山崎研究室による共同研究は、AIと機械学習の力を借りて、従来の不動産査定では見えにくかった「地域特性」を客観的に可視化するという、非常に重要な一歩を踏み出しました。
この研究成果は、国際学会で発表され、その学術的価値が世界的に認められたものです。AI初心者の方にとっては少し難しく感じられたかもしれませんが、簡単に言えば、AIが膨大な不動産データを分析し、「この地域では、こういう要素が特に価格に影響するんですよ」ということを教えてくれるようになった、ということです。
これにより、不動産の売買がより納得感と透明性の高いものになり、私たちはより安心して取引ができるようになるでしょう。今後は、この研究が全国に広がり、AIが私たちの不動産選びをさらに賢く、そしてスムーズにする未来がきっと訪れるはずです。
AI技術の進化が、不動産市場という私たちの生活に密接に関わる分野に新たな価値をもたらす。今回の共同研究は、その可能性を強く示唆するものです。今後の研究の発展と、それが社会に実装されていく過程に注目していきましょう。

