ベクターとReal-Time Innovations (RTI) が、DDS(Data Distribution Service)ベースのアプリケーション開発とテストを効率化するための戦略的パートナーシップを発表しました。この提携により、RTIの通信フレームワーク「RTI Connext」と、ベクターのシミュレーション、解析、テストツール「CANoe.DDS」が統合され、DDSベースのシステム開発に革新をもたらします。

DDS(Data Distribution Service)とは何か?AI初心者にもわかりやすく解説
DDS(Data Distribution Service)は、リアルタイムで信頼性の高いデータ通信を実現するための国際標準規格です。AI初心者の方にとっては聞き慣れない言葉かもしれませんが、現代の複雑なシステムにおいては非常に重要な役割を担っています。
例えば、自動車の自動運転システムや、工場で稼働するロボット、あるいは医療現場の手術支援ロボットなどを想像してみてください。これらのシステムでは、センサーが捉えた情報、制御コマンド、診断データなど、非常に多くの種類のデータが、寸分の狂いもなく、しかも瞬時にやり取りされる必要があります。もしデータが遅れたり、途中で失われたりすれば、システム全体の安全性や機能が損なわれてしまう可能性があるためです。
DDSは、このような「リアルタイム性」と「信頼性」が求められる環境で、効率的かつ安全にデータをやり取りするための「データ高速道路」のようなものだと考えるとわかりやすいでしょう。DDSの最大の特徴は「データセントリック」である点です。これは、データを中心に据えて通信を行う考え方で、データを送る側(パブリッシャー)と受け取る側(サブスクライバー)が、直接相手を指定しなくても、特定の「データ」を購読することで情報を共有できます。
これにより、システムを構成する各要素(たとえば、自動車のカメラ、レーダー、ブレーキシステムなど)が独立してデータをやり取りできるようになり、システムの柔軟性や拡張性が大幅に向上します。新しい機能を追加したり、既存の部品を交換したりする際にも、システム全体に大きな変更を加える必要が少なくなるのです。これは、IoTデバイスが多数接続されるスマート工場や、複数のセンサーとECU(電子制御ユニット)が連携する最新の自動車など、複雑なシステムを構築する上で不可欠な技術となっています。
ベクターとRTIのパートナーシップがもたらす開発効率の向上
今回のベクターとRTIの戦略的パートナーシップは、DDSベースのシステムの開発と検証における課題を解決し、効率を大幅に向上させることを目的としています。RTIの「Connext」とベクターの「CANoe.DDS」の統合は、開発者がDDSシステムをより迅速かつ確実に構築するための包括的な環境を提供します。
RTI Connext:DDSプラットフォームのリーディングカンパニー
RTI Connextは、世界でも有数のDDSプラットフォームの一つとして知られています。DDS規格に基づいており、複雑なアプリケーションや安全性が特に求められるアプリケーション向けの機能を含む、包括的なデータセントリックソフトウェアフレームワークを提供します。RTI Connextは、航空宇宙・防衛、医療技術、自動車、ロボティクスといった幅広い分野で、2,000を超える設計に採用され、その信頼性と性能が証明されています。これは、データが「いつ」「どこで」「どのように」使われるかを詳細に設定できるため、非常に厳格な要件を持つシステムでも安心して利用できるからです。
Vector CANoe.DDS:DDSシステムのシミュレーション、解析、テストの強力な味方
一方、ベクターのCANoe.DDSは、DDS通信のシミュレーション、解析、テストに特化した強力なツールです。開発者はこのツールを使って、実際のハードウェアがなくてもDDSベースのシステムがどのように動作するかを仮想的に再現し、その挙動を詳細に分析することができます。これにより、開発サイクルの初期段階で潜在的な問題を特定し、修正することが可能になります。実際のハードウェアでのテストにかかる時間やコストを大幅に削減できるため、開発期間の短縮と品質向上に大きく貢献します。
統合による相乗効果:効率向上とテスト深度の深化
RTI ConnextとVector CANoe.DDSの統合は、これらの強力なツールが互いに連携することで、これまでにない相乗効果を生み出します。開発者は、最小限の労力でDDSベースのシステムを構築し、複雑なDDS通信を開発サイクルの初期段階で徹底的にシミュレーションおよび検証できるようになります。これにより、以下のような具体的なメリットが期待できます。
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効率の向上: 設計、実装、テストの各フェーズで手戻りが減り、開発プロセス全体がスムーズになります。
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テスト深度の深化: 仮想環境で様々なシナリオを網羅的にテストできるため、実際の運用で発生しうるあらゆる状況を事前に検証し、システムの堅牢性を高めることができます。
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開発サイクルの短縮: 問題の早期発見と解決により、開発期間が短縮され、市場投入までの時間を早めることが可能になります。
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異種混在環境での複雑さ軽減: 異なるベンダーやプラットフォームのDDSコンポーネントが混在する環境でも、一貫したツールチェーンで開発・テストを行えるため、複雑さが軽減され、スムーズなワークフローが実現します。
この統合ソリューションは、DDSの豊富な機能だけでなく、RTI Connextの拡張機能もテストできる包括的な環境を提供するため、開発者は安心して最新のDDS技術を活用できるでしょう。
多様な産業分野での応用可能性
DDSは、そのリアルタイム性と信頼性、拡張性から、様々な産業分野で活用が期待されています。ベクターとRTIの統合ソリューションは、特に以下の分野で大きな価値を発揮します。
自動車分野:次世代車両アーキテクチャの基盤に
自動車業界では、Software-Defined Vehicle(SDV)への移行が進んでおり、DDSは複雑な車両アーキテクチャにおいて、高い信頼性と拡張性のあるデータ通信を実現する重要な技術です。自動運転、先進運転支援システム(ADAS)、インフォテインメントシステムなど、車載ネットワークを介して大量のデータがリアルタイムにやり取りされる環境では、DDSがその中核を担います。このソリューションは、自動車メーカーおよびTier 1サプライヤーが、ゾーン、HPC(高性能コンピューティング)、クラウド環境での車両ソフトウェア開発を効率的に進める上で役立つでしょう。
医療技術(MedTech)および手術用ロボット分野:安全なリアルタイムデータ転送
医療分野、特に手術用ロボットやネットワーク化された医療機器においては、患者の安全に直結するため、データの正確性とリアルタイム性が極めて重要です。DDSは、これらのデバイス間で安全で安定した、リアルタイムなデータ転送を実現し、外科医の操作とロボットの動きをミリ秒単位で同期させたり、患者の生体情報をモニタリングシステムに確実に届けたりするために不可欠です。このソリューションは、医療機器の開発における厳格な検証プロセスを効率化し、より安全で信頼性の高い製品の実現に貢献します。
インダストリー4.0分野:スマートファクトリーのデータ基盤
インダストリー4.0、すなわちスマートファクトリーの実現には、工場内の様々な機器やシステムが互いに連携し、リアルタイムでデータを共有することが求められます。DDSは、インテリジェントファクトリーやオートメーションシステムにおけるデータ配信の基盤となります。生産ラインのロボット、センサー、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)などがDDSを通じてデータを交換することで、生産効率の最適化、予知保全、品質管理の強化などが可能になります。ベクターとRTIのソリューションは、これらの複雑なシステム間の相互運用性と信頼性を高め、スマートファクトリーの実現を加速するでしょう。
CES 2026での共同ソリューション発表と詳細情報
この画期的な共同テストソリューションは、2026年1月6日から9日に米国ラスベガスで開催される世界最大のテクノロジー見本市「CES」のRTIブース(West Hall #4662)において、DDSベースのSDV(Software-Defined Vehicle)ツールチェーンの一部として紹介される予定です。
より詳細な情報については、以下のリンクをご覧ください。


ベクターとRTIについて
Vector Informatik GmbH(ベクター)
ベクターグループ本社は、Software-Defined System (SDS/ソフトウェア・デファインド・システム) の開発とネットワーク化のためのソリューションを提供するリーディングカンパニーです。35年以上にわたり、自動車分野を中心に、医療技術、IoT、鉄道、航空宇宙といった分野で、最高基準の機能性、安全性、サイバーセキュリティ、効率性を備えた複雑な電子製品の開発を支援してきました。ベクターの製品ポートフォリオは、ツール、組み込みソフトウェア、クラウドサービス、エンジニアリングの専門知識をシームレスに統合する包括的なソフトウェアエコシステムが核となっています。世界32拠点に4,500名以上の従業員を擁し、お客様の複雑な課題をシンプルにし、開発を加速し、将来を見据えたイノベーションを可能にするカスタマイズされたソリューションを提供しています。
Real-Time Innovations, Inc.(RTI)
RTIは、フィジカルAIシステム向けソフトウェアフレームワークを提供し、「よりスマートな世界の実現」をミッションとしています。同社のRTI Connextは、航空宇宙・防衛、医療技術、自動車、ロボティクスといった分野で2,000を超える設計にデータアーキテクチャを提供し、世界中で総額1兆ドル以上規模のシステムに導入されています。RTIは、長年の技術的な専門知識と業界をリードするソフトウェアおよびツールを組み合わせることで、よりスマートなシステムを、より速く開発することに貢献しています。
まとめ
ベクターとRTIの戦略的パートナーシップは、DDSベースのアプリケーション開発とテストに新たな標準を確立し、開発プロセスの大幅な効率化と品質向上を実現します。この統合ソリューションは、自動車、医療技術、インダストリー4.0といった先端技術分野において、より複雑で要求の厳しいシステムの開発を加速させるでしょう。リアルタイムデータ通信が不可欠な現代において、このパートナーシップがもたらす革新は、様々な産業の未来を形作る重要な一歩となるに違いありません。AI初心者の方も、このDDS技術の進化が、私たちの生活をより安全で、より便利にする未来につながることを期待できるでしょう。2026年のCESでの発表も、今後のDDS技術の動向を占う上で注目されます。

