AIと科学データの融合で製薬業界を革新へ:TetraScienceとThermo Fisher Scientificが協業し、研究・製造現場の効率化を加速

AIと科学データの融合で製薬業界を革新へ:TetraScienceとThermo Fisher Scientificが協業し、研究・製造現場の効率化を加速

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2026年1月12日、科学データおよびAIのためのプラットフォームを提供するTetraScience(テトラサイエンス)は、科学サービス分野のグローバルリーダーであるThermo Fisher Scientific(サーモフィッシャーサイエンティフィック)と、バイオ医薬品の研究開発(R&D)および製造領域におけるAI活用を加速するための協業を発表しました。この協業は、製薬企業の業務効率を向上させ、最終的には患者にとってより良い治療法が提供されることを目指すものです。

製薬業界が直面する課題:複雑化する新薬開発とデータ活用の壁

新しい治療法を市場に投入するまでの道のりは、年々複雑化し、それに伴い莫大なコストがかかるようになっています。新薬開発には、基礎研究から臨床試験、製造、承認取得に至るまで、非常に多くのステップが存在し、それぞれで膨大なデータが生成されます。これらのプロセスは、時間も費用もかかるため、バイオ医薬品企業は、生産性を高め、新薬をより早く患者に届けられるようにするための新しい手段を常に模索しています。

近年、その解決策の一つとして「Scientific AI(科学的AI)」に大きな注目が集まっています。Scientific AIとは、科学分野に特化したAI技術のことで、実験データの解析、新薬候補の探索、製造プロセスの最適化など、幅広い領域での応用が期待されています。しかし、AIがその真価を発揮し、実際に役立つ価値を生み出すためには、基盤となるデータが「AIネイティブな科学データ」である必要があります。

「AIネイティブな科学データ」とは、AIが直接理解し、効率的に利用できる形に標準化され、整理された科学データのことです。しかし、現実のラボ環境では、様々なメーカーの分析機器やソフトウェアシステムが混在しており、それぞれが異なるデータ形式、専門用語の意味・定義(セマンティクス)、そしてワークフロー上の複雑な依存関係を生み出しています。このような状況では、データがバラバラに散らばり、互換性がなく、AIがすぐに使える状態に整えることが極めて困難でした。この「データの分断」こそが、AI活用における大きな障壁となっていたのです。

TetraScienceの革新的なアプローチ:Scientific Data FoundryとScientific Use Case Factory

TetraScienceは、このデータの分断という課題を解決するために、独自のプラットフォームを提供しています。その核となるのが、「Scientific Data Foundry(サイエンティフィック・データ・ファウンドリ)」と「Scientific Use Case Factory(サイエンティフィック・ユースケース・ファクトリ)」です。

Scientific Data Foundryとは?

Scientific Data Foundryは、ベンダー(機器メーカー)に依存しない形で、様々な分析機器から得られる実験結果のデータを標準化する仕組みです。例えば、異なるメーカーのクロマトグラフィー装置や質量分析計から出力されるデータは、通常、それぞれ独自のフォーマットを持っています。Scientific Data Foundryは、これらの多様なデータを一貫した、AIが扱いやすい共通のフォーマットに変換し、整理します。これにより、データが孤立することなく、横断的に利用できるようになります。

Scientific Use Case Factoryとは?

Scientific Use Case Factoryは、標準化された科学データを基盤として、現場で実際に利用可能なAI対応の科学ワークフローを展開するためのフレームワークです。データの準備が整ったら、次にそれをどのように活用するかを考えます。このFactoryは、特定の研究開発や製造の課題(ユースケース)に合わせて、AIモデルを組み込んだワークフローを構築し、現場に導入することを支援します。例えば、特定の化合物の合成条件を最適化するAIモデルや、品質管理のための異常検知AIモデルなどを、データと連携させてスムーズに運用できるようにします。

これらの仕組みにより、TetraScienceは、バラバラだった科学データをAIが活用できる形に変換し、具体的な問題解決に役立つAIワークフローとして現場に実装することを可能にしています。

Thermo Fisher Scientificとの協業がもたらす相乗効果

今回の協業により、TetraScienceのプラットフォームは、Thermo Fisher Scientificの持つ幅広い分析機器やインフォマティクスソリューションと統合されます。Thermo Fisher Scientificは、世界中の研究・医療現場で使われる分析機器、試薬、ソフトウェアなどを提供するグローバルリーダーであり、その製品群は多岐にわたります。この統合によって、より多くの種類の機器から生成される科学データの価値を大規模に引き出すことが可能になります。

さらに、Thermo Fisher Scientificの持つAI機能と、TetraScienceのAIレイヤーである「Tetra AI」が連携します。Tetra AIは、データとワークフローの橋渡し役となり、科学的な意思決定を支援するとともに、様々な領域を横断した洞察を提供します。これにより、研究開発から製造に至るまで、治療領域全体において、以下のような高付加価値なユースケースの実装が促進されると期待されます。

  • 再現性の向上: 実験結果のばらつきを減らし、より信頼性の高いデータを取得できるようになります。

  • 処理効率の改善: 実験や製造のプロセスを最適化し、時間とリソースの無駄を削減します。

  • スケーラビリティの向上: 小規模な実験から大規模な製造まで、AIを活用したプロセスを容易に拡大できるようになります。

これらの改善は、最終的に新薬開発のスピードアップ、コスト削減、そしてより高品質な医薬品の提供につながります。

両社CEOが語る協業への期待

TetraScience CEOのパトリック・グレイディ氏は、分断されたシステムの上にScientific AIを構築することの限界を指摘し、「AIを実運用するためには、ターゲットとするユースケースに即した文脈情報で強化された、大規模で調和の取れた科学データが必要です」と述べています。そして、この協業によって、バイオ医薬品企業が個別のプロセスからAIネイティブな科学のオペレーティングシステムへと移行し、より迅速に前進することを支援できると強調しています。Tetra AIが各実験やワークフローから学習することで、その能力は使うほどに高まっていくでしょう。

一方、Thermo Fisher ScientificでデジタルおよびAI(ライフサイエンス、診断、応用領域)を統括するショーン・バウマン副社長は、同社の使命である「お客様がより健康で、よりクリーンで、より安全な世界を実現できるよう支援すること」に触れ、AIの活用はその自然な進化であるとコメントしています。TetraScienceとの協業は、ラボにおけるデータ管理の自動化を大規模に推進する取り組みをさらに強化し、バイオ医薬品業界における科学的ブレークスルーの加速を支援するものです。

業界全体へのインパクトと将来の展望

この協業は、相互運用性が高く、業界標準に適合したソリューションを通じてScientific AIを推進するという、両社の共通のコミットメントを反映しています。現在、両社は、すでにTetraScienceとThermo Fisher Scientificの両ソリューションを併用しているグローバル製薬企業を含む、選定された高付加価値な科学ワークフローに注力しています。これらの実績は、将来的に業界全体での幅広い採用と、より大きなインパクトを生み出すための強固な基盤となるでしょう。

さらに両社は、研究開発領域と製造領域にまたがる統合ソリューションを顧客に提供するための共同の取り組みも進めています。これにより、新薬開発の全プロセスにおいて、AIとデータの力を最大限に活用できる環境が整備されることになります。グレイディ氏は、今回の発表が「Scientific AIの加速において協業が持つ力を示すものであり、ライフサイエンス業界全体にとって重要な転機となる」と強調しており、その言葉からも、この協業が持つ可能性の大きさがうかがえます。

TetraScienceについて

TetraScienceは、科学インテリジェンスのためのオペレーティングシステムを構築する科学データおよびAI企業です。Scientific Data Foundryによって科学データをAIネイティブな形に変換し、Scientific Use Case Factoryを通じて研究開発および製造領域におけるAI対応ワークフローの実装を支援しています。Tetra AIは、これらの基盤を横断的につなぎ、科学者を複雑なワークフローへと導くエージェント的な機能を備え、意思決定支援や洞察の創出を可能にします。NVIDIA、Databricks、Snowflake、Microsoftといったグローバルパートナーとともに、AI時代の科学産業基盤を再構築しています。

詳細は、TetraScienceの公式ウェブサイトをご覧ください。

まとめ

TetraScienceとThermo Fisher Scientificの協業は、製薬業界におけるAIと科学データの活用を大きく前進させる画期的な取り組みです。データの分断という長年の課題を解決し、AIネイティブな科学データ基盤を構築することで、新薬開発の効率化、コスト削減、そしてより迅速な治療法提供が期待されます。この協業が、ライフサイエンス業界全体にどのような革新をもたらすのか、今後の展開に注目が集まります。科学とAIの融合が、私たちの健康と未来をどのように変えていくのか、その可能性に期待が高まります。

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