はじめに:生成AI時代を支えるデータ通信の進化と新たな課題
近年、クラウドコンピューティング、5Gネットワーク、ビデオストリーミング、そして特に生成AIの急速な普及は、私たちが日々利用するデジタルサービスの基盤を大きく変えています。これらの技術は膨大なデータの高速処理と伝送を要求するため、データセンターにかかる負荷は増大の一途をたどっています。AIが学習し、生成するデータの量は想像をはるかに超え、従来のデータ通信技術ではボトルネックが生じ始めています。この「データ渋滞」を解消し、次世代の高速・大容量通信を実現するために注目されているのが、CPO(Co-Packaged Optics)やSilicon Photonicsといった革新的な技術です。
CPOは、光部品と電子部品を物理的に近づけて一体化することで、データ伝送の効率を劇的に向上させる技術です。しかし、CPOデバイス内では複数の導波路へ光を分岐させる必要があり、その過程で光の損失(挿入損失)が大きくなります。このため、CPOデバイスの性能を正確に評価するには、非常に高い出力を持つ光源が不可欠です。このような市場のニーズに応えるべく、santec LIS株式会社は、光学設計と制御回路の最適化により、従来機と比較して3倍以上の高出力を実現した新型の波長可変光源を開発しました。
santec LISが開発した革新的な高出力波長可変光源「TSL-570 Type U」
santec LIS株式会社は、CPO(Co-Packaged Optics)向けに最適化された高出力波長可変光源「型式: TSL-570 Type U」を開発し、2026年2月1日より受注を開始すると発表しました。この製品は、生成AIをはじめとするデータ集約型アプリケーションの成長を背景に、今後大幅な成長が見込まれるCPOおよびその基盤技術であるSilicon Photonics市場のニーズに応えるものです。

「TSL-570 Type U」は、光出力を大幅に向上させたことで、CPOおよびSilicon Photonicsデバイスの特性評価に最適な光源として、研究開発から量産評価まで幅広い用途での活用が期待されています。特に、高出力が求められるデバイス評価において、その真価を発揮するでしょう。
製品の詳細はこちらからご覧いただけます。
高出力波長可変光源 (TSL-570 Type U)
「TSL-570 Type U」の二つの主要な特長
「TSL-570 Type U」は、次世代のデータ通信技術の発展を支えるために、特に二つの重要な特長を備えています。
1. 圧倒的な高出力性能
この新製品は、連続(CW)発振において、1300nmから1320nmの範囲で+25 dBm(300 mW)を超える高出力を実現しています。
なぜCPOデバイス評価に高出力が必要なのか?
CPOデバイスでは、一つの光信号を複数の経路に分岐させたり、異なる部品間で光を接続したりする際に、光の強度が弱まってしまう「挿入損失」という現象が起こります。これは、光ファイバーの接続部や、光を分岐させるスプリッター、あるいは光を電気信号に変換する部品などで発生します。この損失が大きいと、光信号が弱くなりすぎてしまい、正確なデバイスの特性評価が難しくなります。高出力の光源を使用することで、この挿入損失の影響を補い、デバイスの奥深くまで十分な強度の光を届け、精度の高い測定が可能になるのです。
具体的には、高出力光源は以下のメリットをもたらします。
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測定精度の向上: 弱い光ではノイズに埋もれてしまうような微細な信号も検出しやすくなります。
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評価時間の短縮: 高出力により、信号の検出が容易になり、測定にかかる時間を短縮できる可能性があります。
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多様なデバイス評価への対応: 将来的にさらに複雑化するCPOデバイスや、より大きな挿入損失を持つデバイスの評価にも対応できるようになります。
2. 広範囲をカバーする波長可変帯域
「TSL-570 Type U」は、+20 dBm以上の光出力を維持しながら、1270nmから1350nmという広い波長範囲をカバーします。この広い波長可変帯域も、CPOおよびSilicon Photonicsデバイスの評価において非常に重要な要素です。
広い波長可変帯域の重要性とは?
光通信システムでは、異なる波長の光を使って複数の情報を同時に送る「波長分割多重(WDM)」という技術が使われています。これにより、一本の光ファイバーでより多くのデータを伝送できます。CPOデバイスやSilicon Photonicsデバイスも、このWDM技術に対応するために、様々な波長で適切に動作するよう設計されています。したがって、デバイスが設計されたすべての波長範囲で、その性能(例えば、光の損失や信号の品質など)を評価する必要があります。
「TSL-570 Type U」の広い波長可変帯域は、以下のような点で役立ちます。
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包括的な特性評価: デバイスの動作波長範囲全体にわたって、その性能を詳細に評価できます。
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柔軟な研究開発: 新しいデバイスの設計や最適化を行う際に、様々な波長での実験が容易になります。
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将来の互換性: 将来的に新しい通信規格や波長帯域が登場した場合でも、柔軟に対応できる可能性が高まります。
これらの特長により、「TSL-570 Type U」は、次世代の高速データ通信技術開発において不可欠なツールとなるでしょう。
AI初心者にもわかる!CPO(Co-Packaged Optics)とSilicon Photonicsとは?
生成AIの進化を理解するためには、その裏側でデータを支える技術、特にCPOとSilicon Photonicsについて知ることが役立ちます。ここでは、これらの技術がなぜ重要なのかを分かりやすく解説します。
データセンターの「渋滞」問題
私たちがChatGPTのような生成AIを使ったり、YouTubeで高画質動画を見たりする時、その裏ではデータセンターにある大量のコンピューター(サーバー)が、膨大な量のデータを高速でやり取りしています。これらのサーバー間や、サーバー内部の部品間でのデータ通信には、主に電気信号が使われてきました。
しかし、電気信号でデータを送るには限界があります。電気信号はケーブル内を移動する際に熱を発生させ、エネルギーを消費します。また、信号が長距離を移動すると、信号の品質が劣化し、速度も低下します。特に、生成AIが扱うデータ量は非常に大きいため、従来の電気配線では、サーバー内部やデータセンター全体で「データ渋滞」が発生し、処理速度の低下や消費電力の増大といった問題が深刻化しているのです。
CPO(Co-Packaged Optics)とは?
CPOは「Co-Packaged Optics(コパッケージド・オプティクス)」の略で、このデータ渋滞問題を解決するための画期的な技術です。簡単に言えば、コンピューターの頭脳であるCPUやGPUといった「電子部品」と、光を使ってデータを送る「光部品」を、できるだけ物理的に近い場所で、一つのパッケージにまとめてしまう技術のことです。
従来のシステムでは、CPUやGPUから少し離れた場所に光モジュール(光信号に変換する部品)が配置されていました。この間は電気配線で接続されており、データは電気信号として移動し、光モジュールで初めて光信号に変換されていました。この電気配線の部分が、前述の「データ渋滞」や「消費電力増大」の原因となっていたのです。
CPOでは、この電気配線の距離を極限まで短くし、場合によっては数ミリメートルといったごく短い距離で電気信号を光信号に変換します。これにより、以下のメリットが生まれます。
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高速化: 電気配線での信号劣化が最小限に抑えられ、より高速なデータ伝送が可能になります。
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消費電力の削減: 電気信号の移動距離が短くなるため、発生する熱が減り、システム全体の消費電力を大幅に削減できます。これは、データセンターの運用コスト削減や環境負荷低減にも貢献します。
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小型化: 部品を一体化することで、全体のサイズを小さくできます。
CPOは、次世代のデータセンターやスーパーコンピューターにおいて、AIの性能を最大限に引き出すために不可欠な技術として注目されています。
Silicon Photonics(シリコンフォトニクス)とは?
Silicon Photonics(シリコンフォトニクス)は、CPOを支える重要な基盤技術の一つです。これは、半導体の主要材料である「シリコン」を使って、光の回路(光導波路や光変調器など)を作り出す技術のことです。
なぜシリコンを使うのかというと、シリコンは半導体製造で長年の実績があり、非常に精密な加工技術が確立されているからです。シリコンフォトニクスを用いることで、以下のようなメリットがあります。
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大量生産性: 既存の半導体製造プロセスを利用できるため、光部品を安価に大量生産することが可能になります。
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小型化・集積化: シリコンチップ上に光回路を組み込むことで、光部品を非常に小さく、かつ高密度に集積できます。これにより、より複雑な光回路を一つのチップ上に実現できるようになります。
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低コスト化: 大量生産と小型化により、光通信システムのコストを下げることができます。
CPOは、電子部品と光部品を「一緒にパッケージングする」という概念ですが、その光部品の高性能化や小型化、低コスト化を実現するのがSilicon Photonicsの役割です。この二つの技術が組み合わさることで、生成AIが要求する超高速・大容量のデータ通信が、より効率的かつ経済的に実現できるようになるのです。
生成AIの進化が加速するCPO市場と「TSL-570 Type U」の貢献
生成AIの進化は目覚ましく、より高度なAIモデルの開発や、より多様なAIサービスの提供には、膨大な計算リソースとそれを支える高速なデータ通信が不可欠です。このため、データセンターにおけるCPOおよびSilicon Photonicsの導入は、今後ますます加速すると予測されています。
CPO技術は、データセンターの消費電力を削減しつつ、データ伝送速度を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。これは、AIの処理能力向上に直結し、結果として私たちが利用するAIサービスの応答速度向上や、新たなAIアプリケーションの創出にも繋がります。
santec LIS株式会社の「TSL-570 Type U」は、このCPOおよびSilicon Photonicsデバイスの性能を正確に評価するためのキーデバイスとなります。高出力と広い波長可変帯域という特長は、開発者がより高性能なデバイスを設計・製造し、市場に投入する上で強力な支援となるでしょう。この光源が、次世代データ通信技術の発展と、それに伴う生成AIのさらなる進化を後押しすることは間違いありません。
santec LIS株式会社について
santec LIS株式会社は、高度な光学技術を提供するリーディングカンパニーであるsantec Holding株式会社の子会社です。santec Holding株式会社(東京証券取引所スタンダード市場6777)は1979年に設立され、日本、北米、英国、中国に子会社を持ち、大手通信会社、光サブシステムメーカー、大手研究機関など、グローバルな顧客基盤にサービスを提供しています。
santecの製品には、通信、ライフサイエンス、センシング、産業分野での応用に向けた光学部品、波長可変光源、光学検査&測定システム、OCTシステムなどがあり、従業員数は全世界で約350名にのぼります。
まとめ:次世代データ通信を切り拓く高出力波長可変光源
santec LIS株式会社が発表したCPO向け高出力波長可変光源「TSL-570 Type U」は、生成AI時代におけるデータ通信の課題解決に貢献する重要な製品です。CPOとSilicon Photonicsという次世代技術の評価を強力にサポートすることで、より高速で効率的なデータセンターの実現に寄与し、私たちのデジタルライフをさらに豊かにするでしょう。

