人生100年時代を健康に生き抜く鍵は「噛むこと」!AIが拓く咀嚼の未来と最新研究成果を徹底解説
人生100年時代を迎え、健康寿命の延伸が社会全体の大きなテーマとなっています。この中で、日々の生活で当たり前に行っている「噛むこと」が、全身の健康維持に極めて重要な役割を果たすことが、最新の研究で明らかになってきました。
株式会社ロッテが参画する「噛むこと健康研究会」は、噛むことと健康に関する科学的な研究を進め、その成果を社会に広めることを目的として活動しています。このたび、本研究会は第7回年会の講演およびトークセッションの動画を、2026年1月19日(月)から3月20日(金)までの期間限定で公開しました。この動画では、咀嚼機能が栄養状態、全身機能、認知機能、そして介護費用にどのような影響を与えるかについて、多角的な視点からの研究成果が報告されています。
本記事では、公開された講演動画の内容を基に、「噛むこと」の重要性とその未来について、特にAI技術がどのように貢献していくのかを、AI初心者の方にも分かりやすく詳しくご紹介します。ぜひ、皆さまの健やかな生活の一助としてお役立てください。
噛むこと健康研究会とは?
「噛むこと健康研究会」は、日常の基本動作である「噛むこと」が全身の健康にどのような影響を及ぼすのかを科学的に解明するため、医学、歯学、栄養学など多分野の専門家が集結して2018年に発足しました。この研究会は、エビデンス(科学的根拠)に基づいた情報を発信し、人々に「噛むこと」の効果を正しく伝えることを目的としています。
活動を通じて、口腔機能の衰えを示す「オーラルフレイル」という言葉も広く認知されるようになりました。研究会は、健康寿命の延伸と生活の質の改善に貢献するため、以下の活動に取り組んでいます。
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「噛むこと」の実態調査研究、および「噛むこと」の健康効果に関する基礎研究・介入研究
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「噛むこと」と健康についての情報収集および提供
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「噛むこと」の効果を啓発する為の研究発表会の開催
研究会の詳細については、以下のウェブサイトで確認できます。
https://www.kamukotokenko.jp/
第7回年会で語られた「噛むこと」の重要性
第7回年会では、噛むことの重要性について、多岐にわたる専門分野からの講演が行われました。ここでは、その主要な内容を詳しく見ていきましょう。
開会の辞:人生100年時代の「噛むこと」がもたらす医療変革の可能性

一般財団法人住友病院 名誉院長で大阪大学 名誉教授の松澤佑次氏は、開会の辞で「噛むこと」が医療変革の鍵となる可能性を強調しました。約20年前に「メタボリックシンドローム」を提唱し、生活習慣改善による病気予防を国策として定着させた経験から、急増する高齢者への対応には新たな切り口が必要だと指摘しています。
その切り口こそが「噛むこと」によるオーラルフレイルの予防であり、これは医療や介護が必要になる前の自衛策として、高齢者の生活習慣に定着させるべきだと主張しました。松澤氏は、これがメタボ対策に続く「第2の医療変革」になり得ると確信しており、研究会の活動が国民の健康寿命延伸と医療課題解決に向けた大きな動きとなることに期待を寄せています。
基調講演:オーラルフレイルから「口づくり」へ

東京都健康長寿医療センター 歯科口腔外科部長・研究所研究部長の平野浩彦氏は、「オーラルフレイル:人生100年時代の『口づくり』の視点」と題して基調講演を行いました。
平野氏は、日本が平均寿命と健康寿命に約10年の乖離がある現状を指摘し、要介護の原因として「フレイル(虚弱)」が重要視されていると述べました。フレイルは早期介入で改善可能であり、これからは単に「死なない医療」だけでなく、生活機能を維持し健康寿命を延ばすアプローチが不可欠だとしています。
歯科医療においては、「8020運動」(80歳で20本以上の歯を残す)の達成率が60%を超え、歯を残せる時代になった一方で、「噛みにくい」と訴える高齢者が急増しているという実態があります。歯の本数だけでは機能は保てず、従来の予防に加え、「口腔機能の維持・管理」が強く求められていると強調しました。
鍵となる「オーラルフレイル」とは、滑舌の低下やむせといった些細な口腔機能の衰えを指します。これを放置すると、食の多様性が失われ、低栄養や筋肉減少を招き、最終的に要介護へとドミノ倒しのように進行すると警鐘を鳴らしました。この連鎖を断つためには、機能低下を「可視化」し、早期自覚を促すことが重要です。大規模調査研究により、オーラルフレイル該当者は要介護や死亡リスクが2倍以上になるという強力な根拠が示されており、人生100年時代を最期まで口から食べるためには、オーラルフレイルの早期発見と適切な管理による「口づくり」が不可欠であると結論付けました。
講演1:咀嚼が栄養状態や認知機能に与える影響

東京科学大学 医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野 准教授の駒ヶ嶺友梨子氏は、「咀嚼の健康への影響 ~栄養状態や認知機能を中心に~」と題して講演しました。
近年の研究では、残存歯数の減少だけでなく、「臼歯部の咬合支持(奥歯でしっかり噛める状態)」の喪失が、認知症の重大なリスク因子であることが判明しています。咬合支持を喪失した群ではアルツハイマー型認知症のリスクが有意に上昇し、その背景には脳血流の減少、栄養の偏り、社会的孤立といった多面的なメカニズムが介在していると考えられています。
歯の喪失が認知機能に及ぼす影響には「性差」も存在し、男性では他者との交流減少などの「社会的要因」、女性では「栄養学的要因」が主な媒介因子となることが報告されています。植物性食品や魚を中心とした食事パターンで認知機能スコアが高い報告もあり、食習慣と認知機能の関連は無視できません。
こうした課題に対し、歯科治療による栄養改善には、単なる補綴治療(失われた歯を補う治療)だけでなく、適切な「食事指導」の併用が不可欠です。インプラントオーバーデンチャー(インプラントを用いた入れ歯)などによる咀嚼機能回復で、記憶や遂行機能(MoCA-J)の改善が認められるケースもあり、補綴介入が認知機能低下の予防に寄与する可能性が見出されています。
駒ヶ嶺氏は、歯科医療が「噛むこと」の回復を通じて、栄養摂取、社会性の維持、脳への刺激という多角的なアプローチで健康寿命の延伸に貢献できると述べ、今後も質の高い臨床研究を通じてエビデンスを構築し、超高齢社会における歯科の役割を探求する姿勢が大切だと強調しました。
講演2:AIが拓く咀嚼の未来:食感分析と3Dプリンタによる食のパーソナライズ

東京電機大学 理工学部 生物物理化学研究室 教授の武政誠氏は、「咀嚼計測と制御に向けた挑戦 ~フード3Dプリンタによる食感創成とビッグデータによる食感分析の応用~」と題し、AI技術が「噛むこと」の未来をどのように変えるかについて、AI初心者にも分かりやすく解説しました。
食感分析の難しさとAIの活用
食感は食品のおいしさを決定づける重要な要素ですが、その分析はこれまで非常に困難でした。従来の食感分析は、食品を単純に圧縮するだけの手法が主流で、ポテトチップスの個体差や肉の複雑な繊維構造の違いを正確に捉えることができませんでした。
この課題に対し、武政氏の研究室では、ロボットアームを用いた自動計測システムを構築。これにより、数万回に及ぶ圧縮データを効率的に取得し、その膨大なデータを「ディープラーニング」というAI技術で解析することに成功しました。ディープラーニングとは、AIが大量のデータから自動的に特徴を学習する技術で、人間が「これは猫だ」と教えなくても、たくさんの猫の画像を見るうちに猫の特徴を自分で見つけ出すようなイメージです。この技術を用いることで、食品ごとの品質差を判別できる高精度な食感分析システムが確立されました。
しかし、圧縮試験だけでは、人間が実際に「噛む」という複雑な動作を完全に再現することはできません。そこで、さらに進んだアプローチとして、スマートフォンのTrueDepthカメラ(顔の立体形状を認識するカメラ)を使って顔の立体形状変化を追跡するアプリを開発しました。このアプリで取得した10万回を超えるデータをAIが解析することで、驚くべきことに、人の「噛み癖」や「食品の種類」、「肉のランク」、さらには「カリカリ」といった主観的な食感までもが、顔の動きだけで予測可能になったのです。これは、AIが人間の複雑な感覚をデータとして捉え、分析できるようになった画期的な成果と言えるでしょう。
フード3Dプリンタによる食感創造
食感の分析だけでなく、「制御」への挑戦も進められています。その中心にあるのが「フード3Dプリンタ」です。食感は、材料だけでなく、食品の「構造」に大きく依存します。例えば、同じ材料でも、サクサクした構造にすればクッキーのように、しっとりした構造にすればケーキのようになります。フード3Dプリンタを使うと、食品の内部構造をミリ単位で設計し、それを積層していくことで、従来の調理法では不可能だった新しい食感を創り出すことができます。
特に注目されるのは、レーザー加熱方式のフード3Dプリンタです。この技術では、タンパク質繊維の向きをコントロールし、理想的な肉の繊維感を再現することも可能です。これは、噛む力が弱くなった高齢者でも食べやすい、しかし満足感のある「肉らしい」食品を提供できる可能性を秘めています。
食のパーソナライズと未来
武政氏は、ビッグデータとAIによる「咀嚼の可視化」と、3Dプリンタによる「食感のデザイン」の融合が、個人の咀嚼機能に合わせた最適な食の提供を可能にすると語りました。これは、一人ひとりの健康状態や好みに応じて、柔らかさ、弾力、形状などを調整した食品をオーダーメイドで作れるようになることを意味します。
このような技術の進化は、健康長寿社会における新たな食のソリューションとなり、歯科医学や食品科学に新しい常識をもたらすことが期待されます。例えば、嚥下(飲み込み)が困難な方には、栄養価が高く、かつ安全に食べられる食事を、AIが最適な食感にデザインし、3Dプリンタで出力するといった未来が、きっと来るでしょう。
トークセッション:大規模高齢者研究による成果と今後の展望

「大規模高齢者研究による成果と今後の展望」をテーマにしたトークセッションでは、東京大学、東京都健康長寿医療センター、順天堂大学、そして株式会社ロッテの専門家が登壇し、それぞれの研究成果と今後の見通しについて議論しました。
大規模コホート研究である「柏スタディ」からは、オーラルフレイルの人は、将来のフレイルや要介護、死亡のリスクが2倍以上になることが明らかになりました。体が元気に見えても、お口の機能が衰えているとこれらのリスクが高まるため、早期の気づきが非常に重要です。「お達者健診」からは、フレイル予防には食品摂取の多様性が大切であり、その維持には「咀嚼機能」が深く関わっていること、噛む力が弱いと食事のバランスが崩れ、栄養状態が悪化しやすいことが示されました。また、「文京ヘルススタディ」では、MRIで測定した「咬筋(噛む筋肉)」の量が少ないとサルコペニア(筋肉減少症)のリスクが高まることや、噛む力が強いほど認知機能が維持されやすいという結果が出ており、口の機能を保つことが、体や脳の健康を守る鍵であることが示されました。
愛知県豊田市で行われた「ガムを使用した口腔健康プログラム」の実証実験では、オーラルフレイルおよびフレイル改善効果が確認され、もし全国の高齢者全員がこのプログラムに参加したと仮定すると、約1.2兆円もの介護費抑制効果があると試算されました。これは、「噛むこと」が社会全体に与える経済的なインパクトを可視化した重要な成果と言えるでしょう。
今後の展望としては、研究においてアプリや行政データの活用、AIやバイオマーカーの活用も有効であることから、企業や他地域と連携し積極的に進めていきたいという意見が出ました。高齢者分野における研究成果の社会実装やオーラルフレイルなどの啓発には、学術・行政の枠を超えた企業の協力が不可欠であり、三者が一体となり、エビデンスに基づいた社会課題の解決策を立案し、住民が健康に暮らせる地域社会の実現を目指すことが望ましいと結論付けられました。
閉会の辞:ロッテの「KAMUKOTO」グローバル展開

株式会社ロッテ 代表取締役 社長執行役員の中島英樹氏は、閉会の辞で「噛むこと健康研究会」が第7回を迎え、その重要性が確実に広まっていることを実感していると述べました。現在、自治体・歯科医師会との連携協定は23件に達し、その内容も口腔改善だけでなく、スポーツ、介護、災害対策などを含む「包括連携協定」が増加しているとのことです。
ロッテ社内でも、eラーニング等を通じて全社員が「噛むこと」の理解を深め、推進役となるよう努めており、製品提供を超えた社会貢献が社員のモチベーション向上にも大きく寄与していると語りました。今後、ロッテは事業構成比の約2割を占める海外展開をさらに拡大させる中で、本研究会の研究成果を活動の骨子としつつ、「KAMUKOTO」をグローバルの共通語にし、ガムをはじめとするチューイング商品の普及を通じて、同社のパーパスである「独創的なアイデアとこころ動かす体験で人と人をつなぎ、しあわせな未来をつくる」を果たしていく所存だと締めくくりました。



まとめ:噛むことの重要性とAIが拓く未来
「噛むこと」は、単に食事をする行為に留まらず、全身の健康、特に高齢期の生活の質を大きく左右する重要な要素であることが、噛むこと健康研究会の第7回年会で改めて浮き彫りになりました。オーラルフレイルの早期発見と対策、咀嚼機能と栄養・認知機能の密接な関係は、私たちが健康寿命を延ばす上で見過ごせないポイントです。
そして、東京電機大学の武政教授の講演で示されたように、AI技術は食感の客観的な分析を可能にし、さらにはフード3Dプリンタを通じて一人ひとりの咀嚼機能に合わせた最適な食を提供できる未来を拓きつつあります。AIが人間の感覚を学習し、それを具体的な「食」の形として実現する技術は、介護食の分野や、より健康的な食生活の実現に革命をもたらす可能性を秘めています。
人生100年時代を豊かに、そして健康に生き抜くために、「噛むこと」の重要性を理解し、日々の生活に取り入れていくことが求められます。そして、AIをはじめとする先進技術が、その実現を強力に後押ししてくれることでしょう。今回の講演動画は期間限定公開ですので、この機会にぜひご覧いただき、ご自身の健康維持に役立ててみてはいかがでしょうか。

