2025年、Z Venture Capital(ZVC)は投資規模、地域展開、注力領域において大きな進化を遂げました。日本、韓国、米国を拠点に51社のスタートアップへの投資を実行し、300億円規模のZVC2号ファンドを始動。さらにサンフランシスコ拠点の開設により、グローバルなスタートアップ支援体制を強化しました。
そして2026年、ZVCは未来をどのように見据えているのでしょうか。本記事では、ZVCの日本チームが特に注目している5つの投資テーマや領域について、AI初心者にもわかりやすく、詳しくご紹介します。AIが社会にもたらす大きな変革の中で、どのようなビジネスが成長し、私たちの生活がどのように変わっていくのか、そのヒントを探っていきましょう。

1. AI Centric Economy:AIが経済の中心となる時代
Z Venture Capitalのパートナーである湯田雅己氏は、現在のテクノロジー業界が「Mobile First」(スマートフォン中心)から「AI Centric Economy」(AI中心の経済)へと大きな転換期を迎えていると指摘しています。過去15年ほど、スマートフォンが製品開発やユーザー体験、産業構造を大きく変えてきたように、AIはそれと同等か、あるいはそれ以上に大きなインパクトを社会にもたらすと考えられています。
AIが経済活動の前提を書き換える
現在、インターネット上では多くのブログ記事やSNSの投稿、動画コンテンツがAIによって生成・編集されています。人々はAIが自動生成したコンテンツを疑うことなく消費するようになり、これは単に「AIをどう使うか」という話にとどまらず、「経済をどう設計するか」という根源的な前提を書き換え始めています。
経済活動をシンプルに捉えると、データや資源、文脈を受け取り、そこから判断、推論、調整を経て、最終的に価値を生み出す一連の流れとして考えることができます。これまで多くの産業において、この流れの真ん中にある「処理」の部分、つまり人間の処理能力が成長や意思決定の速度を左右する大きな制約となっていました。
しかし、大規模言語モデル(LLM)をはじめとするAIの急速な進化は、この前提を大きく揺さぶっています。知能を使うことにかかるコスト構造が、人間を前提としたものではなくなりつつあるのです。処理能力の制約が完全に消えたわけではありませんが、その重心は人間からシステム側へと移り始めています。
AI Nativeな時代を成立させる条件と注目領域
では、「AI Centric Economy」はどのような条件が揃えば現実の経済として成立するのでしょうか。湯田氏は、私たちがまだ「AIは道具だ」という発想にとどまっていることに対し、AI Nativeな時代ではこの前提自体を見直す必要があると語ります。AIが仕事を担い、人間は意図と責任を定義する。人が逐一操作しなくても、システムが自律的に役務を完遂する設計が求められます。
これまでの社会や組織、制度、オペレーションは、人間の理解力や判断速度を前提に構築されてきました。AI Nativeな設計では、この前提をAIに置き換えます。状況の理解から判断、実行の多くをシステムが担い、人間は結果や例外、そして全体の方向性に向き合うことになります。これは単なる自動化ではなく、意思決定と実行の重心をAIに移すという、根本的な発想の転換です。
AIを既存の枠組みに当てはめるのか、それともAIを前提にルールや構造を組み直すのか。この違いが、事業や組織のあり方を根本から変えていくことになります。この視点に立つと、メディア、広告、エンターテインメント、商取引、教育、ソーシャル・ネットワーキングといったサービスや産業の構造そのものを変革するチャンスが溢れていると言えるでしょう。
もちろん、この変化は自然に起こるものではありません。AIが経済主体として機能するためには、AI自身が支払いを行い、契約を結び、必要な計算資源やサービスを調達できるような経済基盤が不可欠です。さらに、AIの判断や出力が信頼できることを保証する仕組みも欠かせません。
湯田氏がこの文脈で特に注目しているのは、Crypto・ブロックチェーンと、AIデータガバナンス・セキュリティの領域です。これらは一時的な流行のテーマではなく、AIが自律的に経済活動を行うための基盤となるインフラだと考えられています。
ZVCは、業務をAIで効率化する企業よりも、業務そのものをAIが担う前提で設計されている企業、そしてそのAI Centricな世界を成立させるために必要となる経済・信頼・責任の基盤を担うサービスに投資機会があると考えています。

湯田雅己氏のXアカウント: @yudamasak1
2. B2B向けAgentic Commerceプラットフォーム:AIが購買活動を自動化
Z Venture Capitalのプリンシパルである内丸拓氏は、コマース領域におけるAIの進化に注目しています。2025年には、Amazonをはじめとする大手ECプラットフォーマーがAI機能を強化し、OpenAIもChatGPT内でショッピングが完結できる機能を発表するなど、AIエージェントが自律的に購買活動を行う「Agentic Commerce」の幕開けの年になったと分析しています。
B2B領域におけるAIエージェントの広がり
このAgentic Commerceの流れは、B2B(企業間取引)の領域にも波及すると考えられています。内丸氏は、ソフトウェアサービスが単体で提供される「SaaS is Dead」という言葉が示すように、AIエージェントがソフトウェア開発やカスタマーサービスだけでなく、業務フロー全体を横断して機能し始めていると説明します。この動きが広がるにつれて、B2Bの商品・サービスの流通や購買も、AIによって自動化・効率化される世界が訪れると予測しています。
実際に、ZVCの支援先である卸売マーケットプレイスを提供する「goooods」や、外国人材のマッチングプラットフォームを提供する「Linc」は、生成AIを活用して顧客の業務効率化だけでなく、顧客のマッチングまで自動化・効率化することで大きな成長を遂げています。
こうした実績を踏まえ、ZVCは2026年、業務効率化から流通・購買までを生成AIで一体的に自動化するB2B向けAgentic Commerceプラットフォームへ積極的に投資していく方針です。

内丸拓氏のXアカウント: @Uchimaru_ZVC
3. 国産AI・Physical AI:日本の産業競争力を高める鍵
内丸氏はさらに、国際秩序の不安定化や米国による関税措置の強化が進む中で、日本における「戦略的自律性」や「経済レジリエンス」の確保がこれまで以上に重要なテーマになっていると強調します。政府が17分野を重点投資対象として打ち出したことは、日本が自ら産業を創出し、競争力を持つ領域を明確に定義し、官民一体で資本と人材を集中させていく覚悟を示すものだと見ています。
Physical AIが日本の未来を形づくる
一方で、人類の働き方や生き方そのものを変えうる生成AIやロボティクスといった分野では、最先端を米国や中国が牽引しているのが現状です。大規模言語モデル(LLM)の領域ではOpenAIやAnthropicに代表される勝者が固まりつつあるようにも見えます。しかし、だからといって日本に勝ち筋が残されていないわけではありません。
内丸氏はその一つとして「Physical AI」を挙げます。Physical AIとは、AIが物理世界と連携し、現実空間で具体的な価値を生み出す技術を指します。ZVCは2025年、国産の完全自動運転AIの実現を目指す「Turing」や、建設現場向けのSpatial AI基盤モデルを開発する「Zen Intelligence」へ投資を行いました。これらのスタートアップは、日本の産業構造や現場特性に深く根ざし、Physical AIとして実世界に価値を実装していく挑戦を続けています。
ハードウェアや現場と結びついた技術こそが、日本の産業競争力を次のステージへ引き上げると内丸氏は信じています。Physical AIは、日本の未来を形づくる基盤となる可能性を秘めています。2026年も、ZVCは引き続きローカルデータをベースとするAI基盤モデルに加えて、センシングを含むロボティクス技術、そしてサイバーセキュリティの領域へ積極的に投資していく方針です。
4. 日本IPの価値の最大化:「創る」以外の勝ち筋をつくる
Z Venture Capitalのプリンシパルである亀岡千泰氏は、日本のアニメ、マンガ、ゲームといったコンテンツが、海外での人気や消費規模において世界トップクラスの存在感を持っている一方で、その経済的価値が日本企業に十分に還元されていない現状に警鐘を鳴らしています。
海外での需要を日本の収益へ
経済産業省の「エンタメ・クリエイティブ産業戦略」によれば、日本コンテンツの海外売上のうち、日本企業に還元されている比率は6割弱にとどまっています。さらに、売上が計上されない海賊版の流通などを含めれば、実質的な還元比率はより低い水準にあると考えられます。この背景には、海賊版の横行、海外プラットフォームによる市場の寡占、低い料率でのライセンスアウトなど、海外では価値が生まれているにもかかわらず、その対価の多くが日本に戻ってこない構造的な問題が存在します。
巨額のデジタル貿易赤字が続く日本にとって、この構造を放置することは、産業としても国家としても大きな機会損失となります。もちろん、新たなコンテンツやIPを生み出すスタートアップへの投資も極めて重要ですが、同時に、すでに海外に存在している需要や熱量を、いかに日本の収益に結びつけ直すかという問いに挑むことが必要な局面になってきています。
亀岡氏は、IPの価値を創出するだけでなく、その回収まで含めて再設計できるようなスタートアップを、日本のエコシステム全体で支援していく必要があると考えています。これは、単に新しいものを生み出すだけでなく、既存の価値を最大限に引き出し、日本経済に還元するための新しいビジネスモデルや技術開発を指していると言えるでしょう。

亀岡千泰氏のXアカウント: @ChihiroKameoka
5. 生成AIネイティブデバイス:「操作するAI」から「そばにいるAI」へ
亀岡氏はまた、生成AIの進化がもたらす新たなデバイスの可能性にも注目しています。ChatGPTやGeminiの普及により、AIを使うこと自体は当たり前になりつつありますが、現在の多くのAIはPCやスマートフォン上のアプリ、あるいはブラウザの中に存在し、チャットなどのUIを通じて人が能動的に呼び出す存在にとどまっています。
AIが常に寄り添うデバイスの未来
亀岡氏が注目しているのは、生成AIを前提に設計された、いわゆる生成AIネイティブなデバイスです。ここで重要なのは、単に新しいハードウェアを作ったり、UI(ユーザーインターフェース)を変えたりすることだけではありません。人の入力を待つのではなく、AIが常にそばに存在し、マルチモーダル(複数の情報源、例えば音声、画像、テキストなど)に状況や文脈を理解した上で、人の行動に自然に介在する体験を設計することが重要だと考えられています。
例えば、私たちが意識することなく、AIが周囲の環境や私たちの行動パターンを理解し、先回りして情報を提供したり、タスクをサポートしたりするようなデバイスです。まるでパーソナルアシスタントが常に隣にいるかのような体験が実現するかもしれません。
この領域はグローバルで見ても、まだ明確な勝ち筋が定まっていない、極めて空白の大きいテーマです。ソフトウェア単体でも、ハードウェア単体でもなく、ユーザー体験まで含めて統合的に設計するという視点が求められます。ZVCは、生成AI時代の「当たり前」を一緒に定義しにいくような起業家との出会いを求めています。
まとめ:AIが拓く未来のビジネスチャンス
Z Venture Capitalが2026年に注目する5つの投資領域は、AIが私たちの社会や経済に与える影響の大きさと、それによって生まれる新たなビジネスチャンスを明確に示しています。
- AI Centric Economy: AIが経済活動の前提を書き換え、意思決定の重心がシステム側へと移る中で、AI Nativeな設計を追求する企業や、その基盤となるCrypto・ブロックチェーン、AIデータガバナンス・セキュリティの技術が重要になります。
- B2B向けAgentic Commerceプラットフォーム: 消費者向けで始まったAgentic Commerceの流れがB2B領域にも波及し、AIが企業間の購買・流通活動を自律的に自動化・効率化するプラットフォームに大きな期待が寄せられています。
- 国産AI・Physical AI: 日本の「戦略的自律性」を確保するため、AIが物理世界と連携し、実世界で価値を生み出すPhysical AI、特にローカルデータに基づくAI基盤モデルやロボティクス技術、サイバーセキュリティが日本の産業競争力向上に貢献すると見られています。
- 日本IPの価値の最大化: 世界中で愛される日本コンテンツの経済的価値を最大限に日本に還元するため、「創る」だけでなく、既存の需要を収益に結びつける新しいビジネスモデルや技術を持つスタートアップが求められています。
- 生成AIネイティブデバイス: AIが「操作するもの」から「常にそばにいて自然に介在するもの」へと進化する中で、生成AIを前提とした新しいデバイスと、それによって生まれる画期的なユーザー体験の設計が注目されています。
これらのテーマは、AIの進化が単なる技術革新に留まらず、私たちの働き方、消費行動、そして社会のあり方そのものを変革していく可能性を秘めていることを示唆しています。ZVCは、このような未来を共に創造する起業家との対話を積極的に求めています。
2025年の投資実績に関する記事もぜひご覧ください。
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