声を失った人々の希望「Voice Retriever」が内閣総理大臣賞を受賞
年間約4,000人もの人々が、喉頭がんによる摘出、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、人工呼吸器の使用といった理由により、突然「声」を失うという厳しい現実に直面しています。これまで、声を失った人々が再び会話を取り戻すための代用発声法は存在しましたが、その多くは習得までに数ヶ月の訓練を要したり、音質に課題があったりといった問題がありました。これにより、患者のQOL(生活の質)の低下が深刻な課題となっていました。
このような背景の中、東京科学大学発ベンチャーである株式会社東京医歯学総合研究所を中心とした共同プロジェクト「Voice Retriever(ボイス・レトリーバー)」が、世界で初めてマウスピース型の人工喉頭を開発しました。この画期的な取り組みが、内閣府が後援する「第8回日本オープンイノベーション大賞」において、最高栄誉である内閣総理大臣賞を受賞したことが発表されました。

「Voice Retriever」とは?声を失った人が「その日」に話せる革新的技術
「Voice Retriever」は、口腔内のわずかな動きを音源に変換することで発声を可能にする、世界初のマウスピース型人工喉頭です。この製品の最も注目すべき点は、その「即時性」と「汎用性」にあります。
複雑な訓練は不要!装着したその日から会話が可能に
従来の代用発声法が数ヶ月の習得期間を必要としたのに対し、「Voice Retriever」は複雑な訓練を一切必要としません。「口や舌が動かせる」「マウスピースが装着できる」という2つの条件を満たせば、装着したその日から、まるで自分の声のように会話を始めることができます。これは、声を失った人々にとって、社会とのつながりや自己表現の機会を即座に取り戻せることを意味し、精神的な負担を大きく軽減します。
四肢麻痺の患者も使用可能、クリアな音質を実現
さらに、この製品は「汎用性」にも優れています。首から下が動かない四肢麻痺の患者でも使用でき、幅広い症状の患者に対応可能です。また、ノイズが少なくクリアな音声を届けられるため、コミュニケーションの質が向上し、より自然な会話が期待できます。
200名が「自分の声」を取り戻した実績
2025年4月の販売開始以来、すでに累計200名もの人々が「Voice Retriever」を通じて「自分の声」を取り戻しているとされています(マウスピース型人工喉頭として)。この実績は、製品の有効性と、それがもたらす大きな社会貢献を明確に示しています。

なぜ内閣総理大臣賞を受賞したのか?「オープンイノベーションの理想形」
「Voice Retriever」プロジェクトが内閣総理大臣賞を受賞した理由は、単なる革新的な製品開発に留まらず、日本の製造業や医療現場を横断した「オープンイノベーションの理想形」として高く評価された点にあります。
産学官・異業種連携による迅速な開発
このプロジェクトは、東京科学大学が保有する特許技術を核に、多岐にわたる組織が連携して進められました。
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スタートアップ(株式会社東京医歯学総合研究所): 事業化を推進。
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大手電機メーカー: 回路設計を担当。
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電線専業メーカー(三洲電線株式会社): ケーブルの開発に貢献。
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医療機器メーカー(富士システムズ株式会社): スピーカー部分を担当。
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全国の歯科クリニック・技工所: マウスピースの製作を担う。
このように、産学官、そして異業種の専門知識や技術が結集することで、通常では考えられないほどの迅速な開発サイクルが実現しました。それぞれの分野の強みを活かし、一体となって課題解決に取り組んだことが、イノベーション創出の鍵となりました。
臨床家主導のアカデミア発プロジェクト
プロジェクトのもう一つの特徴は、現場の歯科医師が主体となって推進された「臨床家主導」である点です。アカデミア(大学などの研究機関)発の技術が、単なる研究成果で終わることなく、事業計画の構築から顧客への直販モデルの確立まで、一貫して臨床現場のニーズに基づいて展開されました。これにより、真に患者にとって価値のある製品が生み出され、実用化へとスムーズにつながりました。
小野田紀美科学技術政策担当大臣のコメント
2026年2月9日の表彰式では、小野田紀美科学技術政策担当大臣がプロジェクトを高く評価し、次のようにコメントしました。
「山田社長自らがスタートアップを立ち上げられ、自社では解決できない課題に直面するたびに必要な知見、能力を有する企業や医療機関との協力を広げ、製品を開発されました。まさにオープンイノベーションのロールモデルとなるものです。」
このコメントは、「Voice Retriever」プロジェクトが、まさに現代社会が求めるオープンイノベーションの模範であることを明確に示しています。
「話す喜び」を世界へ:今後の展望とAI技術の活用
「Voice Retriever」プロジェクトは、今回の内閣総理大臣賞受賞を契機に、さらなる普及と技術革新を目指しています。2025年大阪・関西万博での展示を経て、今後のロードマップが示されています。
医療機器としての薬事申請と海外展開
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2027年: 医療機器としての薬事申請を進め、より多くの医療機関での導入を目指します。
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2028年: 海外展開を開始し、世界中で声を失った500万人もの発声障害者への普及を目指します。この目標達成には、国際的な連携と各国での規制対応が重要となるでしょう。
AIを用いた「より自然な声」への進化
技術革新の面では、将来的にはAI(人工知能)の活用が計画されています。AIを用いることで、「より自然な声」への変換や、歌唱、さらには多言語変換ソフトの開発も視野に入れています。これにより、単に話せるようになるだけでなく、個人の声の特徴を再現したり、歌を歌ったり、異なる言語でコミュニケーションを取ったりと、発声の可能性が大きく広がることが期待されます。
代表取締役 山田大志氏のコメント
プロジェクトを牽引してきた株式会社東京医歯学総合研究所の代表取締役である山田大志氏は、今回の受賞について次のように述べています。
「この賞は私一人では決して成し遂げられなかった、今回はまさにこうして大学、会社、社外のチームの全幅の協力があったことそのものを評価いただいているものと受け取っています。これからも私は臨床現場・研究室とも一定のつながりを持つことでニーズに対してアンテナを持ち、そのうえで、会社内外での様々な長所や特技のある方々と協力するオープンイノベーションにより実現する懸け橋のような存在でありたいと思っています。」
このコメントからは、オープンイノベーションの精神と、現場のニーズを常に意識する姿勢が強く感じられます。今回の受賞は、多くの関係者の協力と情熱が結実した結果と言えるでしょう。
プロジェクト参画メンバー
この画期的なプロジェクトには、以下のメンバーが参画しています。
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株式会社東京医歯学総合研究所(代表取締役 山田大志、取締役 荒瀬秀夫)
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東京科学大学 摂食嚥下リハビリテーション学分野(戸原玄 教授)
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三洲電線株式会社 医療機器開発プロジェクト
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富士システムズ株式会社 営業第二部 一課
まとめ
マウスピース型人工喉頭「Voice Retriever」プロジェクトの内閣総理大臣賞受賞は、声を失った人々の生活に光を灯すだけでなく、日本のイノベーションのあり方にも大きな示唆を与えました。産学官・異業種が連携し、臨床現場のニーズに応える形で開発を進める「オープンイノベーションの理想形」は、今後の社会課題解決型プロジェクトのロールモデルとなるでしょう。未来にはAI技術の導入も予定されており、さらに多くの人々に「話す喜び」を届けるための進化が期待されます。
関連リンク
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株式会社東京医歯学総合研究所HP: https://tokyomdlabo.com/
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製品についてのお問い合わせ: https://tokyomdlabo.com/contact/
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内閣府HP: https://j-startup-city.csti-startup-policy.go.jp/joip
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内閣府による第8回日本オープンイノベーション大賞関連情報: https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20260116oi_prize.html

