AIが変えるカスタマーサポートの未来:パナソニックとRightTouchの挑戦
現代社会において、企業と顧客をつなぐカスタマーサポートは、製品やサービスを選ぶ上で非常に重要な要素となっています。顧客が求める情報に迅速にアクセスでき、問題がスムーズに解決されることは、顧客満足度を大きく左右します。
しかし、多くの企業では、日々増え続ける問い合わせへの対応や、人手不足による課題に直面しています。こうした状況を解決する鍵として、近年注目されているのが「AI(人工知能)」の活用です。
データとAIの力でカスタマーサポートに変革をもたらす株式会社RightTouchは、テレビやオーディオ、カメラといった幅広い製品を提供するパナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社(以下、パナソニック)と連携し、そのカスタマーサポート体験の再設計を支援しました。この取り組みは、AIオペレーター「QANT スピーク」の導入をはじめ、対話型AIエージェント「QANT Webエージェント」、AI×VoCソリューション「QANT VoC」といった先進的なAI技術を駆使したものです。本記事では、パナソニックが直面していた課題から、RightTouchが提供したソリューション、そしてその導入によって得られた具体的な効果と今後の展望までを、AI初心者の方にも分かりやすい言葉で詳しく解説していきます。
パナソニックが直面していたカスタマーサポートの課題
パナソニック エンターテインメント&コミュニケーションは、長年にわたりテレビ、オーディオ、カメラ、電話機、インターホンなど、多種多様な製品を通じて多くの人々に価値を提供してきました。これらの製品は人々の生活に密着しているため、顧客からの問い合わせも年間を通じて数多く寄せられます。
同社のコンタクトセンターには、年間で約50万件もの問い合わせが集中していました。その多くは電話チャネル経由であり、製品の基本的な使用方法に関する質問が中心でした。電話による問い合わせが集中すると、どうしても電話がつながりにくくなる時間帯が発生し、顧客を長時間お待たせしてしまうという課題が顕在化していました。これは、顧客体験の観点から見ると、決して望ましい状況ではありません。
従来のカスタマーサービスは、製品購入後のアフターサービスが中心でしたが、同社は購入前から購入後、さらに買い替えに至るまで、顧客とのあらゆる接点を総合的に管理する「CS(カスタマーサクセス)部門」としての役割を重視していました。そのため、電話という単一のチャネルに頼りすぎる現状から脱却し、顧客が自身の状況や都合に合わせて、最適な問い合わせ方法を選択できるような、より柔軟な顧客体験を提供する必要性を強く認識していました。
こうした背景から、パナソニックは、問い合わせの一次応対をAIに任せることで、顧客が抱える問題を迅速に解決し、有人対応が必要な場合にはスムーズに引き継ぐという、新しいサポート体制の構築に着手しました。
RightTouchが提供する「QANT」ソリューションの全体像
RightTouchが提供する「QANT(クアント)」は、「データとAIでカスタマーサポートを変革する」ことを目指したプラットフォームです。このプラットフォームは、人間(Human)とAIが協力し合う「Human x AI」というコンセプトに基づいています。AIが工数の多い定型業務を自動化することで、人間はより高度な判断や創造的なコミュニケーションに集中できるようになります。
QANTは、顧客からの問い合わせ対応にとどまらず、そこから得られる「VoC(Voice of Customer:顧客の声)」を収集・分析し、顧客が抱える課題を発見します。そして、その課題を解決するためのナレッジ(知識)をAIが自動で作成・修正し、自己解決を促進する仕組みを構築します。この「問い合わせ対応 → データ収集 → 課題発見 → ナレッジ作成/修正 → 自己解決促進」という循環型のサイクルを通じて、カスタマーサポート全体の継続的な改善と最適化を図ります。

今回のパナソニックへの導入では、このQANTプラットフォームの中核をなす3つの主要プロダクトが活用されました。
- QANT スピーク(AIオペレーター): 電話での一次応対と適切な窓口への自動誘導を担います。
- QANT Webエージェント(対話型AIエージェント): Webサイト上での自己解決を支援する対話型のAIです。
- QANT VoC(AI×VoCソリューション): 複数のチャネルから集まる顧客の声を横断的に分析し、改善に役立てます。
これらのプロダクトを組み合わせることで、パナソニックは顧客体験の向上と業務効率化を同時に実現しようとしています。RightTouchの企業情報については、RightTouch公式サイトをご覧ください。
QANT スピーク:賢くなるAIオペレーターが一次応対を自動化
「QANT スピーク」は、電話での問い合わせに対して、AIが顧客の声を直接聞き取り、一次応対を行うAIオペレーターです。顧客が話す製品の品番や困りごとをAIが理解し、最適なFAQ(よくある質問)を提示したり、必要に応じて有人対応へとスムーズに誘導したりします。このAIオペレーターの大きな特徴は、利用すればするほど賢くなり、対応できる範囲を自ら広げていく「自己改善型」である点です。
パナソニックでは、これまでに蓄積してきた膨大なFAQデータを活用することで、個別のシナリオフローを細かく作り込む必要なく、わずか2ヶ月という短期間でQANT スピークの本番リリースを実現しました。これは、既存の資産を最大限に活用し、迅速に新しいシステムを導入できた好例と言えるでしょう。
導入後も、RightTouchの専門チームが伴走し、実際の会話ログやレポート機能を使って、顧客がどこでつまずいているのかを詳細に分析しました。その結果に基づき、約5ヶ月間で120回以上もの改善を実施し、AIの精度と対応範囲を継続的に高めています。さらに、RAG(Retrieval-Augmented Generation)という先進的なAI技術(大規模言語モデルが外部データベースから関連情報を検索・取得し、回答の精度と信頼性を高める技術)の検証も進められており、より高度なサポートが期待されています。
QANT スピークの詳細については、こちらで確認できます。
QANT Webエージェント:Webでの自己解決を促進する対話型AI
「QANT Webエージェント」は、Webサイト上で顧客と人間のように自然な対話を行うことで、困りごとを理解し、適切な解決策へと導く対話型AIエージェントです。このエージェントは、QANTプラットフォームに蓄積されたWeb行動データ、ナレッジデータ、VoCデータ、そして生成AIを組み合わせて活用することで、顧客一人ひとりの状況に寄り添ったサポート体験を提供します。
パナソニックでは、サポートサイトの一部でQANT Webエージェントの運用を開始しており、電話だけでなくWeb上でも顧客が自力で問題を解決できる環境の整備を進めています。これにより、顧客は自身の都合の良い時間に、チャット形式で気軽に問い合わせができ、迅速な情報取得や問題解決が可能になります。
QANT Webエージェントの詳細については、こちらで確認できます。
QANT VoC:顧客の声を分析し、サービス改善につなげるAIソリューション
「QANT VoC」は、電話、チャット、メールなど、多様な顧客接点を通じてコンタクトセンターに日々蓄積される大量の顧客の声を、生成AIを用いた独自のモデルで分析するソリューションです。問い合わせデータの加工・分析から、具体的な改善提案までをワンストップで自動化できるのが大きな特徴です。
パナソニックでは、QANT スピークやQANT Webエージェント、さらには有人対応を通じて得られる応対ログをQANT VoCで横断的に分析しています。これにより、「顧客がどこでつまずいているのか」「どのような情報が不足しているのか」といった課題を正確に把握できるようになりました。得られた示唆は、FAQの内容改善や、顧客がよりスムーズに自己解決できるような導線の見直しに反映され、お客様接点全体の品質向上に継続的に貢献しています。
QANT VoCは、顧客の声をあらゆる部門に届け、顧客中心の事業経営を支える基盤となります。QANT VoCの詳細については、こちらで確認できます。

AI導入による具体的な効果と成果
RightTouchのQANTシリーズ導入により、パナソニックのカスタマーサポートは目覚ましい変革を遂げ、具体的な成果を上げています。
1. 迅速な導入と継続的な改善サイクル
QANT スピークは、既存のFAQデータを活用する仕組みのため、わずか2ヶ月という短期間で本番リリースを実現しました。これは、新しいシステム導入にかかる時間とコストを大幅に削減できることを示しています。
さらに、導入後はRightTouchの伴走支援のもと、実際の会話ログやレポート機能から顧客の「つまずきポイント」を特定し、約5ヶ月間で120回以上の改善を実施しました。このような継続的な改善サイクルは、AIの精度と対応範囲を常に最新の状態に保ち、顧客満足度を向上させる上で不可欠です。
2. 有人対応の抑制と効率化
現在、パナソニックの全入電の約18%がQANT スピークを利用しており、その結果として、商品相談窓口の有人対応を約11%抑制することに成功しています。これにより、コンタクトセンターのオペレーターは、より複雑な問い合わせや、人間ならではの共感を必要とする対応に集中できるようになり、業務効率が大幅に向上しました。
3. 営業時間外のサポート実現と顧客利便性向上
これまで対応が難しかった営業時間外の問い合わせにおいても、QANT スピークが24時間365日対応することで、リリースから2025年11月末までの累計で5,000件以上の自己解決を実現しました。これは、顧客が困った時にいつでも情報を得たり、問題を解決したりできるようになったことを意味し、顧客の利便性向上に大きく貢献しています。
4. お客様接点全体の高度化への着手
QANT Webエージェントの導入により、サポートサイトの一部で運用が開始され、顧客は電話とWebという複数のチャネルを横断しながら、自身の状況に応じて最適なサポート接点を選択できるようになりました。これにより、顧客はよりストレスなく、スムーズに問題を解決できるようになっています。
また、QANT VoCを活用して、QANT スピーク、QANT Webエージェント、有人対応を通じて蓄積される全ての応対ログを横断的に分析することで、顧客のニーズや不満点を深く理解できるようになりました。この分析結果は、FAQの改善や自己解決導線の最適化にフィードバックされ、お客様接点全体の品質向上につながる取り組みが着実に進められています。
この取り組みの詳細については、CS企画部の建部 峰志さんと川上 浩介さんのインタビュー記事でより詳しく読むことができます。
今後の展望とAIが描くカスタマーサポートの未来
パナソニックとRightTouchの協業は、単なるAIツールの導入にとどまらず、カスタマーサポート全体の抜本的な変革を目指しています。
今後、パナソニックは、一部のサポートサイトで運用を開始している対話型AIエージェント「QANT Webエージェント」を、全ての製品サイトへと展開していく計画です。これにより、顧客はどの製品のサポートサイトを訪れても、AIによるきめ細やかなサポートを受けられるようになります。
さらに将来的には、「QANT VoC」を最大限に活用し、QANT スピークや有人対応のログを含む全ての「VoC(お客様の声)」を詳細に分析する体制を強化します。この分析によって、顧客が本当に求めている情報や、現状不足している情報が明確になり、自己解決ツール(FAQやAIエージェントなど)の精度が自動的に向上していく、理想的な「循環サイクル」を構築することを目指しています。
「全従業員がお客様の声を活用する」というビジョンを掲げ、顧客が困ることのない製品・サービスづくりへと継続的に貢献していくことで、パナソニックは顧客満足度のさらなる向上と、企業としての競争力強化を図っていくことでしょう。
QANTプラットフォーム全体の提供価値については、QANT公式サイトで詳しく紹介されています。
まとめ:AIがもたらす顧客と企業の新しい関係
RightTouchとパナソニック エンターテインメント&コミュニケーションの取り組みは、AI技術がカスタマーサポートにもたらす大きな可能性を具体的に示しています。
AIオペレーターによる一次応対の自動化は、顧客の待ち時間を減らし、24時間365日のサポートを実現することで、顧客体験を飛躍的に向上させます。また、有人対応の負荷を軽減することで、企業の業務効率化にも大きく貢献します。さらに、AIによる顧客の声の分析は、製品やサービスの改善に直結し、顧客と企業のより良い関係構築を促進します。
このように、AIは単なるツールではなく、顧客と企業がより深く、よりスムーズにつながるための架け橋となりつつあります。今回の事例は、AI活用が今後どのように顧客体験とビジネスのあり方を変えていくのかを示す、重要な一歩と言えるでしょう。AI技術の進化とともに、カスタマーサポートの未来は、さらに顧客中心で、効率的かつ質の高いものへと発展していくことが期待されます。

