AI(人工知能)の進化は、私たちの働き方を大きく変えつつあります。特に、システム開発の分野では、AIエージェントと呼ばれる技術が注目を集めています。今回、株式会社MONO-X(以下、MONO-X)と株式会社イグアスは、AIエージェントを活用したシステム開発の効率化を強力に推進する新たなソリューションを共同で発表しました。これは、長年にわたり企業の基幹システムを支えてきた「IBM i」のユーザーにとって、まさに次世代への扉を開くものです。
IBM i とは?基幹システムを支えるプラットフォームの基礎知識
IBM i(旧称AS/400)は、IBM社が提供する統合型サーバープラットフォームです。1988年に登場して以来、その高い信頼性、安定性、セキュリティ性能から、多くの企業の基幹システムとして採用されてきました。基幹システムとは、企業の事業活動の中核を担うシステムであり、会計、生産管理、販売管理、人事など、ビジネスの根幹に関わる重要な業務を処理します。
IBM i は、ハードウェアとオペレーティングシステム、データベースが一体となって提供されるため、運用管理が比較的容易であり、長期間にわたる安定稼働が可能です。特に、堅牢なセキュリティ機能と災害復旧能力は、金融機関や製造業など、システムの停止が許されない業界で高く評価されています。しかし、その一方で、特定のプログラミング言語(RPGやCOBOLなど)や専門知識が必要となるため、新しい技術を取り入れたり、開発者を育成したりする上で、独自の課題も抱えていました。
IBM i 開発が抱える現代の課題
多くの企業にとって、IBM i を基幹システムとして利用し続けることは、競争優位性を維持するために不可欠です。しかし、現代のビジネス環境では、以下のような課題に直面しています。
1. 既存システムの理解が難しい
長年にわたり運用されてきたIBM i の基幹システムは、多くの改修が重ねられてきました。しかし、その過程で十分なドキュメントが作成されなかったり、担当者が変更されたりすることで、プログラムの内部構造や業務ロジックが「ブラックボックス化」しているケースが少なくありません。これにより、システムの全体像を把握することが困難になり、新たな機能追加や改修に多大な時間とコストがかかる原因となっています。
2. 業務とシステムに精通した人材の育成が難しい
IBM i 固有の知識(RPG/COBOLといったプログラミング言語、OSの特性、開発環境など)を習得するには、多大な時間と労力が必要です。IT業界全体で人材不足が叫ばれる中、IBM i の専門知識を持つ若年層の育成は特に難しく、技術継承が進まない「属人化」の問題が深刻化しています。業務プロセスと既存システムの関係性を深く理解する熟練者が限られるため、システムの維持・発展が特定の個人に依存する傾向にあります。
3. 基幹システム開発手法の高度化が難しい
最新のテクノロジー、例えばクラウドサービスやAIなどを業務に活用したいというニーズは高まっています。しかし、既存のIBM i システムとの連携には技術的なハードルが高く、また、新しいスキルを習得するためのリソースも不足しがちです。これにより、基幹システムのモダナイゼーション(現代化)が遅れ、ビジネスの変化に迅速に対応できないという課題が生じています。
AIエージェント「IBM Bob」がもたらすインパクト
これらの課題を解決する鍵として、AIエージェントが注目されています。特に、IBM社が提供するAIエージェント駆動のエンタープライズ向け開発支援ツール「IBM Bob」は、IBM i ユーザーにとって画期的なソリューションとなるでしょう。
AIエージェントは、まるで熟練したエンジニアのように、システムの分析から設計、開発、テスト、ドキュメント作成まで、一連の開発プロセスを効率的に支援します。これにより、専門知識を持つ熟練者に頼りきりだった作業を、より少ないスキルで効率的に行えるようになります。具体的には、AIエージェントは以下のような作業を効率化できます。
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現状システム分析、実際の業務プロセスも含めた分析:ブラックボックス化したシステムの内部をAIが解析し、現状を可視化します。
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システム設計、プログラム開発:AIが要件に基づいて設計案を提示し、RPGやCOBOLなどのプログラムコードを生成します。
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テスト計画の作成、テストの実行:開発されたプログラムが正しく動作するかを検証するためのテスト計画を立案し、実行を支援します。
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システムの仕様書作成:プログラムの自動生成と合わせて、最新の仕様書を自動で生成・更新します。
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教育コンテンツの作成:新しい開発者がIBM i の知識を習得するための教育資料をAIが作成します。
これにより、企業は競争優位性の源泉である基幹システムの「スクラッチ開発(目的に合わせてシステムをゼロから作る開発手法)」に関するオーナーシップを維持しながら、今後もIBM i を安心して継続利用できるようになります。AIエージェントの導入は、IBM i システムのブラックボックス化や属人化を解消し、開発効率を飛躍的に向上させる可能性を秘めているのです。
AIエージェント導入のハードルと解決策
AIエージェントの活用は非常に魅力的ですが、基幹システムへの導入にはいくつかのハードルが存在します。
1. 基幹システムのデータ・ガバナンス
AIエージェントが企業の重要な基幹システムにアクセスする際、データ漏洩や既存システムへの予期せぬ影響は絶対に避けなければなりません。AIがアクセス可能なデータやプログラムの範囲、操作権限を適切に管理し、データやオブジェクト、システム環境に対するAIによる意図しない削除や更新を回避するための厳格な「データ・ガバナンス」が求められます。
2. AIエージェントができないIBM i 特有の作業に、エンジニアの手作業による補完が必要
AIエージェントは高度な処理が可能ですが、IBM i の開発リソースに直接接続できないなど、特有の作業においてはエンジニアの手作業による補完が必要となる場合があります。その結果、開発プロセス全体でAIエージェントによる一貫した作業が難しくなり、効率化の効果が半減してしまう可能性があります。
これらの課題を解決し、IBM i ユーザー企業におけるAIエージェントの本格的な活用を推進するため、MONO-Xとイグアスは2つの革新的なソリューションを提供します。
MONO-Xとイグアスが提供する2つのソリューション
1. IBM i 向けAIエージェント開発支援ツール「i-Cross API for AIエージェント」
「i-Cross API for AIエージェント」は、AIエージェント「IBM Bob」を安全かつ効果的にIBM i 上で動作させるための開発支援ツールです。このツールは、AIエージェントがアクセスできるIBM i 上の既存プログラム、データベース、システム情報に対するAPI(Application Programming Interface)エンドポイントを一元的に管理します。AIエージェントは、MCP(Model Context Protocol)という接続プロトコルを経由してこれらのAPIに安全にアクセスできます。

主な機能
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AIエージェント単体だと難しい、IBM i の開発作業を支援するための機能
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AIエージェントのライブラリ内のファイルメンバ検索支援:AIがIBM i の複雑なファイル構造の中から必要な情報を効率的に見つけ出すのを助けます。
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AIエージェントのソースメンバーのテキストファイル取得支援:プログラムのソースコードをAIが分析しやすい形式で取得できるようにします。
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AIエージェントがアクセスするデータ・プログラムへのガバナンス強化機能
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APIエンドポイント(URL)の一元管理:AIがどのリソースにアクセスできるかを明確にし、管理者が一元的にコントロールできます。
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API実行時の処理設定(RPG・CL・SQL・ドラッグ&ドロップ):APIを通じてAIが実行できる操作を細かく設定し、既存システムへの影響を最小限に抑えます。
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このツールにより、AIエージェントはIBM i のリソースに安全かつ効率的にアクセスできるようになり、開発プロセスにおける手作業の補完が不要になります。これにより、AIエージェントによる一貫した開発が可能となり、開発効率が大幅に向上します。
2. AIエージェント開発用クラウド環境「PVS One for AIエージェント」
「PVS One for AIエージェント」は、AIエージェントを活用した検証・開発を、本番環境への影響を心配することなく、自由かつ即座に行えるクラウド環境です。IBM社が提供するクラウド基盤であるIBM CloudおよびPower Virtual Server上に構築された、プリセット済みの専用開発環境として提供されます。仮想デスクトップ経由でAIエージェントにアクセスし、自由に開発を進めることができます。
このサービスのコンセプトは、AIエージェント「IBM Bob」が自由に縦横無尽に動ける「エージェント・パーク」です。本番環境とは隔離された安全な環境で、AIエージェントが存分にその能力を発揮し、新しいアイデアやソリューションを試すことが可能です。

主な機能
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IBM i 環境による検証・開発に対応
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IBM i OS(Version、一次言語は指定可能):利用企業のニーズに合わせてIBM i のOSバージョンや言語を選択できます。
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CPU 最大1コア(0.25コア) / P05 または P10:開発に必要な計算能力を柔軟に調整できます。
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メモリー8GB、ディスク500GB(5000 IOPS):開発作業に十分なリソースが確保されています。
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作業を効率化する周辺環境と接続
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バックアップ領域(IBM Cloud Object Storage)3.0TB:重要な開発データを安全に保管できます。
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圧縮転送対応:データ転送の効率を高め、作業時間を短縮します。
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LANコンソール利用可能:IBM i の管理操作をより柔軟に行えます。
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IBM Bob および i-Cross API for AIエージェント導入済み:すぐにAIエージェント開発に着手できるよう、必要なツールが事前に設定されています。
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リモート・デスクトップによる接続:場所を選ばずに開発環境にアクセスできます。
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このクラウド環境は、AIエージェントの導入を検討している企業にとって、初期投資を抑えつつ、迅速に検証・開発を開始できる大きなメリットをもたらします。
提供体制と今後の展望
MONO-Xが製品開発を担当し、イグアスが販売総代理店として、全国のビジネスパートナー企業を通じて販売および導入サポートを行います。これにより、IBM i ユーザー企業は、開発と導入の両面で強力なサポートを受けることができます。
提供開始は2026年3月24日を予定しており、現在、リリース前の先行使用ユーザーも募集しています。興味のある企業はイグアスまで問い合わせてみてください。
MONO-Xとイグアスは、今回提供するライセンスに加え、環境設定や操作トレーニングなど、導入企業が早期にAIエージェントの恩恵を受けられるよう、各種サービスメニューを充実させていく方針です。両社は、これまで培ってきたIBM i に関する専門知識を活かし、協業を通じてIBM i ユーザー企業の技術者不足やレガシー資産のモダナイゼーション(現代化)を支援し、企業の継続的な成長に貢献していく考えです。
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MONO-Xの詳細はこちら: https://mono-x.com/
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イグアスの詳細はこちら: https://www.i-guazu.co.jp
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IBM Bobの紹介ページはこちら: https://www.i-guazu.co.jp/lp/solution/ibm_bob/
まとめ
MONO-Xとイグアスが共同で提供する「i-Cross API for AIエージェント」と「PVS One for AIエージェント」は、IBM i ユーザーが抱える長年の課題に対し、AIエージェント「IBM Bob」という最新技術で解決策を提示するものです。これにより、システムのブラックボックス化、人材育成の困難さ、開発手法の遅れといった問題を克服し、データ・ガバナンスを確保しながら、より効率的で現代的な基幹システム開発を実現することが期待されます。AI初心者の方でも、この新たなソリューションを活用することで、基幹システム開発のAIネイティブ化の第一歩を踏み出すことができるでしょう。

