脳とAIがつなぐ未来の物語:内閣府ムーンショット型研究開発事業「Internet of Brains」がSF小説「表情アプリ」で問いかける人間と技術の共存

脳とAIがつなぐ未来の物語:内閣府ムーンショット型研究開発事業「Internet of Brains」がSF小説「表情アプリ」で問いかける人間と技術の共存

2026年3月28日、内閣府が推進する「ムーンショット型研究開発事業」の目標1に掲げられた「Internet of Brains(IoB)」プロジェクトの一環として、サイエンスコミュニケーションプロジェクト『Neu World』が新たなSF小説作品「表情アプリ」を公開しました。この作品は、私たちの生活にAIやブレイン・マシン・インターフェース(BMI)が深く浸透した近未来を舞台に、人間とテクノロジーのあり方を問いかける物語です。

脳と機械が接続する「Internet of Brains(IoB)」とは?

まず、「Internet of Brains(IoB)」という言葉に聞き慣れない方もいらっしゃるかもしれません。これは、人間の脳と機械を直接つなぎ、思考や感覚をやり取りする技術、すなわち「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)」をさらに発展させた、壮大な研究開発プロジェクトです。

IoBのミッションは、「身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放」とされています。これは、病気や事故で身体に障害を負った方が、思考だけでロボットアームを操作したり、遠隔地にいる人と脳波を通じてコミュニケーションを取ったり、あるいは今まで感じられなかった感覚を体験したりするなど、現在の身体的な制約から人々を解放し、より豊かな社会生活を送れるようにすることを目指しています。

具体的には、次のような未来の実現が期待されています。

  • 考えるだけで操作できるロボット: 脳波を読み取り、まるで自分の手足のようにロボットを動かす技術です。これにより、重いものを持つ作業や精密な作業をロボットに任せたり、身体が不自由な方が日常生活で様々な動作を行えるようになったりする可能性があります。

  • 思考を伝達するテレパシーのような技術: 脳活動のパターンをデジタル情報に変換し、それを他の人に送ることで、言葉を介さずに直接思考や感情を伝え合うことが可能になるかもしれません。これにより、コミュニケーションの形が大きく変わる可能性があります。

  • 感覚の共有や拡張: 他の人の感覚を体験したり、人間が本来持たない感覚(例えば、赤外線を見る能力など)を人工的に付与したりする技術も研究されています。これにより、私たちの世界認識が広がり、新たな体験や表現が生まれるかもしれません。

このような技術は、私たちの生活を一変させる可能性を秘めていますが、同時に倫理的な問題や社会的な影響についても深く考える必要があります。IoBプロジェクトは、単に技術開発を進めるだけでなく、社会との対話を通じて、これらの技術がより良い未来のためにどのように活用されるべきかを模索しています。

未来への「問い」を投げかけるSF小説「表情アプリ」

『Neu World』プロジェクトが今回公開したSF小説「表情アプリ」は、IoBが目指す未来の一つの可能性を描いた作品です。脚本家であり、実際にBMIの研究に参加する「BMIパイロット」でもある佐々藤氏が執筆を手がけました。

「表情アプリ」のあらすじ

物語の舞台は、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)端末が当たり前になった近未来です。主人公の大学生は、通学中の電車内でBMI端末を使い、VRアバターに没入(フルダイブ)してバーチャルアイドルのライブに熱狂していました。

しかし、VRから現実に戻ると、向かいの学生たちがひそひそと笑っていることに気づきます。BMI端末には、没入中の表情が周囲に漏れるのを防ぐ機能がなかったため、主人公の熱狂的な表情が、電車の中で周囲に丸見えになっていたのです。

「外でのフルダイブは諦めよう」と一度は思った主人公ですが、そこで登場したのが「表情アプリ」という、表情を代行してくれる画期的なアプリでした。このアプリの登場によって、主人公の生活は一変します。快適なフルダイブ生活はさらに進化し、歩行や通勤、仕事までもがアプリによって自動代行されるようになり、社会現象となっていきます。その先に待っていたのは、一体どんな未来だったのでしょうか?

作品が問いかけるもの

この物語は、BMIやAIといった技術が私たちの生活に深く入り込んだとき、何が便利になり、何が失われるのか、という根源的な問いを投げかけます。表情をアプリが代行する世界、行動や仕事までが自動化される世界で、私たちは本当に「自分らしい」生活を送れているのでしょうか? 自分の感情や意思は、どこまでが「自分」のものなのでしょうか?

「表情アプリ」は、読者に「これは、誰の未来ですか?」と問いかけます。利便性の追求の先に、人間性や個性が失われるリスクはないのか、技術の進化と私たちの幸福はどのように両立し得るのか、といった深いテーマを考えるきっかけを与えてくれるでしょう。

表情アプリのメインイラスト

脚本家/BMIパイロット 佐々藤氏が描くリアルな未来

「表情アプリ」を執筆したのは、アニメ脚本家でありながら、実際にIoB X CommunicationチームでBMIパイロットを務める佐々藤氏です。BMIパイロットとは、頭皮に装着する非侵襲型BMI(脳に直接埋め込まないタイプ)を使って脳波を測定し、研究に使うデータを取得する役割を担っています。

佐々藤氏の作品は、実際に最先端のBMI研究に参加している経験と、脚本家としての豊かな想像力が融合している点が特徴です。技術の最前線を肌で感じているからこそ描ける、リアルで、しかし少しドキッとさせるような未来の可能性が、この小説には詰まっています。

佐々藤氏はこれまでもTVアニメの脚本を手がけるなど、クリエイティブな分野で活躍しており、その視点から生み出される「問い」は、読者に新たな気づきをもたらすことでしょう。

佐々藤氏による表情アプリのイラスト

『Neu World』:物語を通じて未来を共創するサイエンスコミュニケーション

「表情アプリ」が公開された『Neu World』は、内閣府ムーンショット型研究開発事業 目標1「Internet of Brains(IoB)」が立ち上げたサイエンスコミュニケーションプロジェクトです。このプロジェクトの目的は、最先端の研究開発をどのように社会と繋げていくか、そして未来を今を生きる一人ひとりと共に創り上げていくことです。

『Neu World』では、2050年を舞台とした漫画や小説などの物語を制作しています。これらの作品は、単に未来を予測するものではありません。むしろ、物語を通じて人々の間にコミュニケーションを生み出し、未来に対する多様な意見や想像力を引き出す「対話のきっかけ」となることを目指しています。

なぜSF小説が未来の対話に有効なのか?

科学技術の進歩は速く、その影響は私たちの社会や倫理観に深く関わってきます。しかし、専門的な研究内容を一般の人々が理解し、議論に参加することは容易ではありません。

そこで『Neu World』は、SF(サイエンス・フィクション)という手法を選びました。SF小説は、科学的な知見を基盤としつつ、まだ実現していない未来の社会や技術を物語として具体的に描き出すことができます。これにより、読者は抽象的な技術論ではなく、具体的な人間の生活や感情に焦点を当てて、未来について想像を巡らせることができます。

「表情アプリ」を読んだ後、あなたはどんなことを感じたでしょうか? 笑えましたか? それとも、どこかドキッとしましたか? もしかしたら、他人に隠したい感情が漏れてしまった経験や、感情労働の苦労が頭をよぎったかもしれません。

このような個人的な感情や経験が、未来の技術がどうあるべきか、どう活用されるべきかという議論の出発点となります。物語は、私たち一人ひとりの心に語りかけ、未来への想像力を刺激する強力なツールなのです。

あなたの声が未来を創る:社会との対話の重要性

『Neu World』プロジェクトは、読者の皆さんからの感想や意見を非常に重視しています。作品を読んで感じたこと、考えたことを、ぜひSNSでハッシュタグ #NeuWorld をつけて共有してください。あなたの声が、今後の研究や、その先にある社会実装に反映される可能性があります。

サイエンスコミュニケーターの宮田龍氏は、「あなたの声が、これからの研究と社会の対話、未来の共創に活かされます」と語っています。これは、研究者だけが未来を創るのではなく、社会に生きる私たち一人ひとりが、技術の方向性や社会のあり方について意見を出し合い、共に未来を形作っていくことの重要性を示しています。

IoBのような先端技術は、人類の可能性を大きく広げる一方で、予期せぬ課題を生み出す可能性も秘めています。だからこそ、技術が社会に導入される前に、様々な立場の人々が十分に議論し、合意形成を図ることが不可欠です。

『Neu World』は、そのための「場」と「きっかけ」を提供しています。SF小説という形で提示された未来のシナリオを通じて、私たちは「どんな未来を望むのか」「どんな未来は避けたいのか」を具体的に考え、語り合うことができるのです。

Internet of Brains(IoB)プロジェクトの未来と関連情報

IoBプロジェクトは、株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の金井良太氏をプロジェクトマネージャーとして、多岐にわたる研究開発を進めています。彼らの目標は、身体の制約を取り除き、多様な人々が自由に表現し、社会活動に参加できる未来を実現することです。

この壮大な目標達成のためには、技術開発だけでなく、社会からの理解と協力が不可欠です。SF小説「表情アプリ」はその第一歩として、多くの人々にIoBの可能性と課題を投げかける重要な作品と言えるでしょう。

IoBプロジェクトやNeu Worldプロジェクトに関する最新情報は、以下の公式WebサイトやSNSで確認できます。

また、Neu Worldプロジェクトの制作メンバーであるサイエンスコミュニケーターの宮田龍氏、モチョン瞳氏、編集の黒木里恵氏も、それぞれX(旧Twitter)で情報を発信しています。

プロジェクトへの取材やお問い合わせは、Neu Worldお問い合わせフォームから可能です。

Internet of Brainsのロゴ

まとめ:技術と人間が共存する未来のために

内閣府ムーンショット型研究開発事業「Internet of Brains(IoB)」と、そのサイエンスコミュニケーションプロジェクト『Neu World』が公開したSF小説「表情アプリ」は、私たちに近未来の姿とその中に潜む問いを鮮やかに提示してくれました。

BMIやAIが当たり前になる世界で、私たちは何を大切にし、どのように生きていくべきなのでしょうか。この物語をきっかけに、ぜひご家族や友人と未来について語り合い、SNSであなたの考えを発信してみてください。あなたの想像力と声が、より良い未来の実現に貢献するかもしれません。

技術の進化は止まりません。だからこそ、私たち一人ひとりがその技術とどう向き合い、どう社会に実装していくかを共に考えることが、これからの社会にとって最も重要な課題の一つと言えるでしょう。この小説が、そのための第一歩となることを期待します。

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