村田製作所の生成AI導入事例に学ぶ!7万人超を動かした「泥臭いプロセス」の全貌
現代社会において、生成AI(ジェネレーティブAI)の進化は目覚ましく、多くの企業がそのビジネス活用に大きな期待を寄せています。しかし、「とりあえずAIツールを導入したものの、一部の社員しか使っていない」「自社の業務プロセスに深く定着しない」「セキュリティやガバナンスの壁に阻まれる」といった「導入の壁」に直面する企業も少なくありません。
このような課題に対し、大手総合電子部品メーカーである株式会社村田製作所は、7万人を超える従業員を巻き込みながら、生成AIを全社的に導入・定着させるという壮大な挑戦を続けています。その実践的な知見が、2026年4月10日(金)に一般社団法人AICX協会が開催するウェビナー「AICX Forum『生成AI導入の道のり 村田製作所の挑戦』」で公開されます。
本記事では、村田製作所がどのように生成AIの導入と社内浸透を進めてきたのか、その「泥臭いプロセス」をAI初心者にも分かりやすく、詳しく解説します。

生成AI導入の「壁」とは?多くの企業が直面する課題
生成AIの業務活用が急速に進む一方で、多くの企業が「実装・定着の壁」に直面しています。具体的には、以下のような問題が挙げられます。
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一部の社員しか使わない: 生成AIツールを導入しても、使い方が分からなかったり、自分の業務にどう役立つのかイメージできなかったりして、結局一部の先進的な社員しか活用しないというケースです。
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業務プロセスに定着しない: 特定のタスクで一時的に使われることはあっても、日々の業務フローの中に深く組み込まれず、単発的な利用に終わってしまうことがあります。これでは、AIが持つ本来の価値を十分に引き出すことはできません。
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セキュリティやガバナンスの懸念: 社外のAIサービスを利用することによる情報漏洩のリスクや、AIの利用ルールが不明確であることなど、セキュリティや企業統治(ガバナンス)に関する懸念が導入の障壁となることがあります。
これらの課題は、生成AIの真のポテンシャルを企業内で開花させる上で、乗り越えなければならない重要なハードルです。単にツールを導入するだけでなく、社員がAIを「使いこなし」、業務に「定着」させ、かつ「安全に」利用できる環境を整備することが不可欠なのです。
村田製作所の「Murata Coworker」:7万人超を支える内製AIの挑戦
国内外に幅広く事業を展開する大手総合電子部品メーカーである村田製作所は、これらの導入の壁を乗り越えるため、独自の生成AIプロダクト「Murata Coworker」を内製開発しました。なぜ外部サービスに依存せず、あえて「内製」を選んだのでしょうか。そこには、セキュリティの確保と自社に最適化されたAI基盤の構築という強い意志がありました。
独自データRAGで「社内データ」を安全に活用
「Murata Coworker」の大きな特徴の一つは、独自データRAG(Retrieval-Augmented Generation)を推進している点です。RAGとは、生成AIが回答を生成する際に、事前に用意された特定の情報源(この場合は村田製作所の社内データ)を参照させる技術のことです。
これにより、外部の公開情報だけでなく、自社の膨大な内部データ(例えば、社内規定、技術資料、過去のプロジェクトデータなど)をセキュアに活用し、より正確で業務に特化した回答を生成することが可能になります。企業秘密や機密情報の漏洩リスクを低減しつつ、AIの精度を高める上で非常に重要なアプローチと言えるでしょう。
AIエージェント化で業務を自律的に実行
さらに村田製作所は、AIが単なる質問応答ツールに留まらず、特定の業務を自律的に実行したり、複数のツールと連携して複雑なタスクをこなしたりするAIエージェント化を進めています。AIエージェントは、まるで人間のアシスタントのように、指示されたタスクを理解し、必要な情報を収集・処理し、結果を返すことができます。
これにより、従業員の定型業務や情報収集にかかる負担をさらに軽減し、より創造的な業務に集中できる時間を生み出すことで、生産性の向上に貢献しています。
内製開発がもたらすメリット
村田製作所が内製開発を選んだことには、以下のようなメリットがあります。
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自社の要件に合わせた柔軟なカスタマイズ: 外部サービスでは難しい、村田製作所独自の業務プロセスや文化に合わせた細かな調整が可能です。
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セキュリティとガバナンスの確保: 自社内でシステムを構築・運用することで、情報セキュリティに関する厳格な基準を満たし、AIの利用に関するガバナンスを徹底できます。
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継続的な改善とノウハウの蓄積: 開発から運用までを一貫して行うことで、得られた知見やノウハウを社内に蓄積し、AI基盤を継続的に進化させることができます。
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外部ベンダーへの依存からの脱却: 特定のベンダーに縛られることなく、自社のペースで技術を導入・発展させることが可能になります。
現場を巻き込む「泥臭いプロセス」:AIレディネス研修とアンバサダー施策
どんなに優れたAIツールを開発しても、社員がそれを使いこなせなければ意味がありません。村田製作所は、この「現場での活用」という最大の課題に対し、非常に「泥臭く」、しかし効果的なプロセスを実践しました。
大規模な「AIレディネス研修」で全社員の準備を整える
村田製作所は、数万人規模の従業員を対象とした大規模な「AIレディネス研修」を実施しました。AIレディネスとは、AIを導入・活用するために組織や個人がどれだけ準備ができているか、という意味です。この研修では、単にツールの操作方法を教えるだけでなく、AIの基礎知識、活用方法、倫理、リスクなど、AIを「使いこなす」ために必要な知識とスキルを体系的に提供しました。
従業員一人ひとりがAIを「自分ごと」として捉え、自分の業務にどう活かせるかを考え、活用する準備を整えることを目指したのです。このような大規模な教育投資は、社員全体のデジタルリテラシー向上にも繋がり、AI活用を推進する上で非常に重要な土台となります。
現場主導の「アンバサダー施策」で自発的活用を促進
研修を通じてAIの基礎を学んだ社員の中から、さらに一歩進んでAI活用を率先する「アンバサダー」を育成しました。このアンバサダーは、職場の同僚にAIの使い方を教えたり、自身の活用事例を共有したりする役割を担います。これにより、上層部からの指示だけでなく、現場の仲間同士が教え合い、学び合う「ピアラーニング(仲間同士の学び)」の環境が構築されました。
アンバサダーが身近な存在としてAI活用のロールモデルとなり、疑問や不安を解消するサポート役を担うことで、社員は安心してAIに触れ、自発的に活用するようになりました。結果として、村田製作所は社内のAI利用率を飛躍的に向上させることに成功しています。このような、現場の主体性を引き出す施策は、組織全体へのAI浸透において非常に強力な推進力となります。
「効率化」のその先へ:AIによる「知識創造プロセス」の変革
村田製作所が生成AIを導入する目的は、単なる「業務効率化」に留まりません。彼らは、生成AIの真の価値は、組織の「知識創造プロセス」そのものを変革し、硬直化(特定の個人にスキルや情報が集中する属人化や、組織が細分化され連携が取れない状態)を打破することにあると考えています。
SECIモデルとAIの連携
村田製作所は、知識創造のプロセスを説明するSECIモデル(共同化・表出化・連結化・内面化)の中心にAIを据える未来図を描いています。SECIモデルとは、組織内で知識がどのように生み出され、共有され、活用されるかを示すフレームワークです。
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共同化 (Socialization): 経験を共有し、個人の持つ言語化されていない「暗黙知」を共有するフェーズです。AIは、対話を通じて個人の経験やノウハウを引き出す手助けができるでしょう。
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表出化 (Externalization): 暗黙知を言葉や図、モデルなどで表現し、誰もが理解できる「形式知」にするフェーズです。生成AIの自然言語処理能力や要約能力は、曖昧な表現を明確化したり、構造化したりするのに役立ちます。
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連結化 (Combination): 複数の形式知を組み合わせて、新たな形式知を創造するフェーズです。AIは、大量の形式知データを高速に分析し、これまで見過ごされていたパターンや関連性を見つけ出し、新しいアイデアの創出を強力に支援します。
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内面化 (Internalization): 新たな形式知を実践を通じて自身の暗黙知にし、スキルやノウハウとして身につけるフェーズです。AIは、学習支援ツールとして、形式知の習得を助け、個人のスキル向上に貢献します。
村田製作所は、このSECIモデルの各段階でAIを活用することで、個人の持つ「暗黙知」を組織全体の「形式知」へと効率的に昇華させ、持続的なイノベーションを生み出すことを目指しているのです。これは、AIが単なるツールではなく、組織の知的な成長を促す「共創のパートナー」となる可能性を示唆しています。
無料ウェビナーで村田製作所の挑戦を深掘り
2026年4月10日(金)に開催されるAICX Forumでは、村田製作所 データ戦略推進部 部長の内海克也氏が登壇し、全社向け内製生成AIプロダクト「Murata Coworker」の立ち上げから現在に至る実践知を解説します。さらに、AICX協会 代表理事の小澤健祐氏が、大企業におけるAIガバナンスや現場を巻き込むチェンジマネジメントのリアルに深く切り込みます。
このウェビナーで得られる3つの具体的な視点は以下の通りです。
- 全社AI基盤「Murata Coworker」進化の全軌跡: プロンプト共有から始まり、独自データRAG、そしてAIエージェント化へと進化を続けるアーキテクチャと、外部依存しない内製開発が生み出したノウハウの蓄積。
- 現場の自発的活用を生んだ「AIレディネス研修」と「アンバサダー施策」: 大規模な独自研修を実施し、研修修了者から「アンバサダー」を育成。職場内で自発的・日常的にAI活用が進む環境(ピアラーニング)をどう作り上げたのか。
- 「効率化」の先にある、AIによる「知識創造プロセス」の変革: 生成AIの真の価値は組織の硬直化(属人化・機能細分化)の打破にある。SECIモデルのサイクル中心にAIを据え、隠れた「暗黙知」を組織の「形式知」へと昇華させる村田製作所の未来図。
生成AIの導入・定着に課題を感じている企業や、AI活用を次の段階に進めたいすべてのビジネスパーソンにとって、具体的な解決策と実践的なヒントを得る貴重な機会となるでしょう。
登壇者プロフィール

株式会社村田製作所 データ戦略推進部 部長 内海 克也 氏
1989年入社。高周波部品開発・研究開発管理・事業部マーコム等を経て、2014年よりデジタルマーケティングに従事。2020年より全社のデジタル推進を担当し、生成AI CoE設立や「Murata Coworker」の立ち上げをリードしています。

一般社団法人AICX協会 代表理事 小澤 健祐(おざけん)
「人間とAIが共存する社会をつくる」をビジョンに掲げ、AI分野で幅広く活動しています。『生成AI導入の教科書』を刊行し、AI関連記事を1000本以上執筆。千葉県船橋市生成AIアドバイザーやNewsPicksプロピッカーも務める他、AI関連の講演やモデレーターも多数担当しています。
AICX Forum 開催概要
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セミナー名: AICX Forum「生成AI導入の道のり 村田製作所の挑戦」
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日時: 2026年4月10日(金)12:00〜12:55
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形式: オンライン(Zoomウェビナー)
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参加費: 無料(AICX協会 会員限定)
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参加人数: 500名限定
無料ウェビナーに申し込む: https://peatix.com/event/4944818/view
一般社団法人AICX協会について

一般社団法人AICX協会(AI Customer Experience Consortium)は、「分断を超え、体験を変える」をミッションに掲げ、AIエージェントの社会実装を推進するために設立された業界団体です。
AIエージェントを活用した顧客接点の在り方を進化させ、より良い顧客体験を実現するために、研究・普及・実践のさまざまな活動を行っています。主な活動内容は以下の通りです。
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生成AI技術の実践的な応用を促進する教育・研修プログラムの提供
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顧客データ統合プラットフォームの構築
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普及支援、業界標準の策定を通じた健全な市場形成
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企業間連携の推進やカンファレンス・セミナーの開催
これらの取り組みを通じて、組織や業界の垣根を超えた統合的なアプローチを実現し、顧客一人ひとりに価値ある、一貫性のある体験を提供できる社会の実現を目指しています。
URL: https://aicx.jp
まとめ
村田製作所の生成AI導入事例は、単に最新技術を導入するだけでなく、内製開発によるセキュリティとカスタマイズ性の確保、大規模な社員研修とアンバサダー施策による現場主導の浸透、そして「知識創造プロセス」の変革という、多角的なアプローチが融合した壮大な挑戦と言えます。
このウェビナーは、AI導入の成功事例を具体的に学び、自社のAI戦略を再考する絶好の機会となるでしょう。生成AIの可能性を最大限に引き出し、組織の未来を切り開きたいと考えるすべてのビジネスパーソンにとって、示唆に富む内容が提供されるに違いありません。
