ELSOUL LABO B.V.とValidators DAOが開発・運用するオープンソースのSolana開発ツール「SLV」が、Solanaバリデータの性能を飛躍的に向上させる「kagrenパッチ」への対応を発表しました。このパッチは、Solanaブロックチェーンの根幹を支えるPoH(Proof of History)におけるSHA-256計算を最適化し、最大20%の速度向上をもたらします。さらに、SLVのAIエージェントと組み合わせることで、専門知識がなくても自然言語での対話だけでこの高度な最適化を適用できるようになり、Solanaバリデータ運用のハードルを大きく下げるものとして注目されています。

- SolanaとPoH(Proof of History)の基礎知識
- 「kagrenパッチ」とは?最重要部分をピンポイントで最適化
- 10〜20%の性能向上とその大きな意義
- コンセンサスへの影響なし、完全互換の安全設計
- 対象となるCPUと前提条件
- Epics DAOバリデータでの実運用検証と知見の還元
- SLVによるValidator / RPC両対応と自動化されたデプロイ
- AIエージェントとの組み合わせで自然言語対話だけで完結
- ローカルモードにも対応、手元の1台からフリート全体まで
- Solanaネットワーク全体への貢献
- オープンソースとしての提供と知見の還元
- SLV AIトークンとERPCプラットフォームとの連携
- ELSOUL LABOの研究開発とSolana特化データセンター
- kagren氏への深い感謝
- まとめ
SolanaとPoH(Proof of History)の基礎知識
まず、Solana(ソラナ)とは、高速なトランザクション処理と低い手数料を特徴とするブロックチェーンプラットフォームです。Web3(ウェブスリー)や分散型アプリケーション(DApps)の基盤として広く利用されています。
Solanaの主要な特徴の一つが、PoH(Proof of History:歴史の証明)というコンセンサスアルゴリズムです。これは、ブロックチェーン上のイベントの順序を記録し、時間を効率的に証明するための技術です。PoHは、連続するSHA-256(Secure Hash Algorithm 256)ハッシュチェーンを基盤としています。簡単に言うと、前のデータの「指紋」(ハッシュ値)を使って次のデータの「指紋」を作るという作業を、非常に高速に、何十万回も繰り返すことで、イベントの発生順序を確定させます。
このSHA-256計算は、Solanaバリデータ(ブロックチェーンの取引を検証・承認する役割を担うノード)のコードの中で最も頻繁に実行される処理であり、CPU(中央演算処理装置)の時間を最も多く消費する部分です。そのため、この計算をいかに効率化するかが、Solanaネットワーク全体の性能向上に直結する重要な課題となっていました。
「kagrenパッチ」とは?最重要部分をピンポイントで最適化
今回SLVが対応した「kagrenパッチ」は、まさにこのSolanaバリデータの最も負荷が高い部分、つまりPoHのSHA-256計算をピンポイントで最適化するために開発されたものです。このパッチは、オリジナル作者であるkagren氏によって開発され、solana-sdkのsha256-hasherをフォーク(派生)させる形で、PoHの入力条件(32バイト・1ブロック)に特化したSHA-NI(Secure Hash Algorithm New Instructions)命令の実装を提供しています。
SHA-NI命令とは、特定のCPU(主にAMD Zen3以降のCPU)に搭載されている、SHA-256のようなハッシュ計算を高速に行うための特別な命令セットのことです。kagrenパッチは、このSHA-NI命令を最大限に活用することで、従来の汎用的なSHA-256実装に比べて大幅な高速化を実現しています。
このパッチはCreative Commons CC0 1.0 Universal Licenseで公開されており、誰でも自由に利用・改変・再配布が可能です。これは、Solanaエコシステム全体への貢献を目指すオープンソースの精神に基づいた取り組みであり、その開発者であるkagren氏には深い敬意が表されています。
SHA-NI命令と決定論的最適化の仕組み
SHA-256アルゴリズムは通常、64バイト(512ビット)のブロック単位でデータを処理します。PoHのように32バイトの入力データを処理する場合、残りの32バイトは、規格で定められた特定の「パディング」(埋め草データ)で埋められます。このパディングは、入力データ長が32バイトである限り、常に同じパターンで埋められるため、完全に「決定論的」であると言えます。
kagrenパッチの ingeniousな点は、この決定論的なパディング部分を、SHA-NI命令を使った計算経路上で事前に展開してしまうことです。これにより、汎用実装に含まれていた不要な分岐処理、ループ処理、データの読み込み処理などを取り除くことができます。結果として、PoHの入力条件である32バイト・1ブロックの連続ハッシュ計算において、SHA-NI命令の持つ本来の処理能力を最大限に引き出すことが可能になります。
この最適化は、入力サイズが32バイト以外の場合や、複数のブロックにまたがる計算には影響を与えません。また、ブロックチェーン上で実行されるプログラム内のSHA-256計算(オンチェーンのSHA-256計算)も一切変更されないため、既存のSolanaの機能や互換性を損なうことなく、PoHの計算だけを高速化できる設計となっています。
10〜20%の性能向上とその大きな意義
kagrenパッチの適用により、AMD Zen3以降のCPUを搭載したSolanaバリデータでは、起動時に実行されるPoH速度チェックの値が10〜20%向上することが報告されています。Epics DAOバリデータでの実運用検証でも、同水準の性能向上が確認されました。
この性能向上は、単なる数値の改善にとどまりません。PoH計算の余裕が生まれることは、Solanaバリデータが「リーダースロット」と呼ばれる、ブロックを生成する重要な時間帯に行う他の処理にも大きな余裕をもたらします。具体的には、トランザクション(取引)の取り込み、Compute Units(計算単位)の積み上げ、そして最終的なブロック生成といった一連の処理において、CPU時間の削減が他の重要なタスクに割り当てられるリソースを増やします。
これにより、バリデータの主要な性能指標である「voteレイテンシ」(投票の遅延時間)の短縮、「スキップ率」(ブロック生成をスキップする割合)の低減、そして「ブロックあたりのCompute Units」(ブロックに含めることができる計算量)の増加など、Solanaネットワーク全体の処理品質と安定性向上に直結する、地味ながらも確実な改善が期待できます。
コンセンサスへの影響なし、完全互換の安全設計
kagrenパッチが適用されたSHA-256計算は、標準実装と完全に同じ結果を返します。これは、32バイト・1ブロックの入力に対しては最適化された経路を使用し、それ以外の入力に対しては標準実装を使用するという、実行パスが入力条件で分岐する設計になっているためです。また、オンチェーンのSHA-256計算には一切変更がありません。
この設計により、ハッシュ結果が他のバリデータと食い違うことによってブロックチェーンのフォーク(分岐)が発生するといったコンセンサス上のリスクは構造的に存在しません。SLVでは、パッチ適用済みのバイナリをデプロイする前に、標準実装との結果一致を厳密に検証し、安全性を確認した上で切り替えを行います。
対象となるCPUと前提条件
本パッチの効果を最大限に享受できるのは、SHA-NI命令セットを備えたCPUに限られます。具体的には、AMD Zen3以降のアーキテクチャが該当します。これには、EPYC 7003 / 9004 / 9005 シリーズ、Ryzen 5000 シリーズ以降、Threadripper 5000 / 7000 シリーズなどが含まれます。
ERPCのSolana RPCノードやSLV Metalシリーズの多くがこの条件を満たしており、これらの環境ではkagrenパッチの恩恵を直接受けられます。SHA-NI命令を持たない古い世代のCPUの場合、SLVはパッチの適用を自動的にスキップし、標準実装での運用を継続するため、互換性の心配はありません。
Epics DAOバリデータでの実運用検証と知見の還元

ERPCのSWQoSエンドポイントおよびEpic Shredsの配信元として運用されているEpics DAOバリデータは、全Solanaバリデータの中でShinobi Performance Poolの世界総合3位(スコア99.93)に到達しています。この卓越した実績は、単一の要因によるものではなく、ハードウェア選定、カーネルパラメータの最適化、ネットワークスタックのチューニング、IRQアフィニティの調整、DoubleZeroの導入といった、複数の改善策を積み重ねた結果です。
kagrenパッチの取り込みも、この長年の積み重ねの中の新たな一つとして位置づけられています。Epics DAOバリデータでの実運用検証を通じて、本番環境での効果と安定性が確認された上で、SLVの「スキル」として組み込まれました。これにより、世界トップクラスのバリデータ運用で実証された改善手法が、SLVユーザーであれば誰でも再現できる形で提供されることになります。
Validators DAOは、Solanaネットワーク全体の処理品質と耐障害性を高めることをミッションとしています。個々のバリデータの性能向上は、Solanaチェーン全体の処理速度の向上に直結します。kagren氏がCC0ライセンスで公開した最適化が、Epics DAOバリデータでの検証を経て、SLVを通じて世界中のバリデータオペレーターに届くという「知見の還元」こそが、Validators DAOの存在意義であると述べられています。
SLVによるValidator / RPC両対応と自動化されたデプロイ
今回のSLVの対応では、Solanaバリデータだけでなく、Solana RPCノード(分散型アプリケーションがブロックチェーンと通信するためのゲートウェイ)もkagrenパッチの適用対象となります。
SLVは、対象ノードのクライアント種別(Agave、Jito-Agaveなど)を自動的に判別し、適切なSolanaソースツリーをリモートビルド環境にクローンします。さらに、kagrenパッチのリポジトリも自動的に取得し、PoHのハッシュロジックに対するパッチ適用、ターゲットCPU向け最適化フラグでのリビルド、既存バイナリのバックアップ、そしてパッチ済みバイナリのデプロイまで、一連の複雑なプロセスをSLVがすべて自動で完結させます。
Solanaのソースバージョンは、ユーザーが明示的に指定することも、SLVが管理している最新情報に基づいて自動解決させることも可能です。また、複数ノードに対する一括適用にも対応しているため、運用中の大規模なフリート(複数のノード群)全体に対して、順次パッチを適用していくといったユースケースもスムーズに実現できます。
なお、パッチ適用済みバイナリのデプロイ後、Solanaバリデータ・RPCプロセスの再起動はユーザー側で別途実施する必要があります。SLVはバイナリの差し替えまでを担い、再起動のタイミングは各運用者のポリシーに委ねる設計です。ただし、SLV AIエージェントを利用している場合は、再起動もAIエージェントに任せることができます。
AIエージェントとの組み合わせで自然言語対話だけで完結
SLVの他の機能と同様に、kagrenパッチの適用もMCP(Model Context Protocol)に対応しています。これは、AIエージェントとの自然言語対話を可能にする技術です。AI Consoleを起動し、AIエージェントに「このバリデータにSHA-256最適化パッチを適用して」と話しかけるだけで、AIエージェントが対象ノードの判別からビルド、デプロイまでの全ての手順を自動で選択し、実行します。
CLI(コマンドラインインターフェース)による実行にも対応しており、スクリプト化された自動化フローに組み込むことも可能です。AIエージェントの利用有無にかかわらず、同じMCP基盤の上で同じ動作が再現されるため、運用形態に合わせて柔軟な導入ができます。
これまで、Solanaバリデータにカスタムパッチを適用するには、ソースコードのクローン、ビルド環境の構築、依存関係の解決、パッチの取り込み、最適化フラグの調整、バイナリの差し替えといった、専門的な知識と多くの手間を必要とする作業を運用者自身が行う必要がありました。SLVは、このプロセス全体をAIエージェントが代行できる形で抽象化することで、高度な技術的な改善を誰もが簡単に導入できるようにしています。
「性能改善のために導入したい技術が、運用の煩雑さによって導入を躊躇われることがあってはならない」というSLVの開発方針は、今回のkagrenパッチ対応でも一貫しています。
ローカルモードにも対応、手元の1台からフリート全体まで
SLVはリモート管理に加えて「ローカルモード」にも対応しており、SSH(Secure Shell)でログインしたノード上でSLVを直接動作させることができます。kagrenパッチの適用もローカルモードでそのまま動作するため、運用中の単一ノードに対して直接パッチを適用することも可能です。
また、Ansible(アンシブル)などの構成管理ツールに基づいたリモート管理構成から、フリート全体に一括で適用していくことも、同じSLV環境で完結できます。これにより、小規模なバリデータ運用者から大規模な運用者まで、あらゆる規模のユーザーがSLVを活用して性能チューニングを導入できる柔軟性を提供しています。
Solanaネットワーク全体への貢献
Solanaは、世界中に分散する数多くのバリデータによって構成される分散コンピューティングネットワークです。そのネットワーク全体の性能は、個々のバリデータ一つ一つの性能の総和によって決まります。
個々のバリデータがPoH計算で獲得する10〜20%の余裕は、ネットワーク全体で見れば、リーダースロット時の処理余裕の増加、voteの追従精度の向上、そしてブロック生成の安定性として積み上がります。kagren氏がCC0ライセンスで公開した最適化を、SLVのような運用基盤を通じてより多くのバリデータに届けることは、Solanaネットワーク全体の性能と耐障害性に対する大きな貢献となります。
SLVは、このように実運用に直結する改善を、AIエージェントとの対話だけで適用できる環境として提供し続けることで、バリデータ運用の認知負荷を構造的に下げ、性能改善に必要な作業のハードルを下げていくことを目指しています。これにより、より多くの運用者がより高い品質でバリデータを運用できる環境を整えていくでしょう。
オープンソースとしての提供と知見の還元
SLV本体は、引き続きオープンソースとして提供されます。kagrenパッチの取り込みを含むすべての機能は、SLVのGitHubリポジトリから自由に取得・利用できます。これは、技術的な知見を広く共有し、エコシステム全体の発展に貢献するというValidators DAOの強い意志の表れです。
ERPCの実運用と研究開発から得られた知見は、SLVのスキルとツールを通じてすべてオープンソースとして公開されています。Epics DAOバリデータが世界3位に到達するまでに積み重ねてきた最適化手法、チューニングパラメータ、運用ノウハウといった貴重な情報が、SLVのスキルとしてAIエージェントに集約され、世界中のバリデータオペレーターが同じ品質で再現できる形になっています。
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SLV 公式サイト: https://slv.dev/ja
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SLV GitHub: https://github.com/validatorsDAO/slv
SLV AIトークンとERPCプラットフォームとの連携
kagrenパッチの適用は、SLVのAIエージェント機能の一部として利用できます。SLV AIトークンを利用することで、AIエージェントとの自然言語対話だけで適用作業を完結させることが可能です。
リリース記念として、5ユーロのAuthorizationを行うことで100,000トークンが無料で配布されています。これは、kagrenパッチの適用をAIエージェントとの対話で体験するのに十分なボリュームです。また、ChatGPTおよびClaudeのAPIトークンを利用した接続にも対応しており、ユーザー自身のAPIキーでSLV AIを動作させることもできます。
- ERPC SLV AI Plans: https://erpc.global/ja/price/
ERPCプラットフォーム上で運用されているSolanaバリデータおよびSolana RPCノードは、すべてAMD Zen4以降のCPUを搭載しており、kagrenパッチの恩恵を最大限に受けられる構成です。SLVで構築した環境をERPCプラットフォーム上にデプロイすることで、プラットフォーム内の高速スナップショットダウンロード、Solanaバリデータとのゼロ距離通信、Solanaに特化したチューニング済みの構成、そしてkagrenパッチによるPoH高速化のすべてを最初から手に入れることができます。
ERPCは、Solana RPC、Solana Geyser gRPC、Solana Shredstream(Epic Shreds)、ベアメタルサーバー、ハイパフォーマンスVPS、ERPC Global Storageを同一プラットフォーム内に統合し、すべてが内部ネットワーク経路で接続されたゼロ距離設計を採用しています。DoubleZeroの専用ファイバーネットワークも全リージョンに統合されており、特にアジアリージョン(東京・シンガポール)ではP99約200msのレイテンシ短縮を達成しています。
- ERPC 公式サイト: https://erpc.global/ja
ELSOUL LABOの研究開発とSolana特化データセンター
ELSOUL LABOは、オランダ政府の研究開発支援制度WBSOにおいて2022年以降5年連続で承認を受けています。Solana RPCインフラ、バリデータ運用オーケストレーション、AIエージェントによるSolana運用環境の構築に関する継続的な研究開発の成果が、SLVのツール群とAIエージェントに直接実装されています。
この研究開発の集大成として、RIPE NCCより付与を受けた自社ASN(AS200261)によるSolana特化データセンターの開設を進めています。最新世代のAMD EPYC第5世代、AMD Threadripper PRO第5世代(9975WX等)、NVMe第5世代で統一されたハードウェア構成に加え、自社ASNによる最適なネットワーク経路設計を実現する、既存のプレミアムデータセンターを超える最高品質のインフラです。今月のオープンを予定しており、SLV AIエージェントが構築する環境の基盤としてさらなる高速化を支えることでしょう。
kagren氏への深い感謝
今回のSLVへの取り込みは、kagren氏が公開されたsolana-sha256-hasher-optimizedリポジトリの成果なくしては実現しませんでした。Solanaエコシステムへの貢献としてCC0ライセンスで公開された取り組みに対し、改めて深い敬意と感謝が表明されています。
オープンソースで公開された改善が、別のオープンソースツール(SLV)を通じて世界中のバリデータオペレーターに届くという、このような知見の循環こそが、Solanaエコシステム全体をより強くしていく原動力となります。ELSOUL LABOも、ERPCプラットフォームとEpics DAOバリデータの運用で得られた知見を、SLVを通じてオープンソースで還元し続けていく方針です。
- solana-sha256-hasher-optimized(kagren): https://github.com/kagren/solana-sha256-hasher-optimized
まとめ
SLVのkagrenパッチ対応は、Solanaバリデータの性能向上に直結する重要な一歩です。PoHのSHA-256計算を10〜20%高速化することで、Solanaネットワーク全体の処理能力と安定性が向上します。さらに、SLVのAIエージェントを活用すれば、高度な最適化も自然言語での対話だけで簡単に導入できるようになり、Solanaバリデータ運用の敷居が大きく下がります。
オープンソースの精神に基づいた知見の共有と、AI技術による運用の効率化が組み合わさることで、Solanaエコシステムはさらなる発展を遂げることが期待されます。ELSOUL LABOとValidators DAOは、今後もSolanaネットワークの発展に貢献する革新的な技術とツールを提供し続けていくでしょう。
SLVおよびERPCに関するお問い合わせは、Validators DAO 公式Discordにてサポートチケットを作成してください。
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Validators DAO 公式 Discord: https://discord.gg/C7ZQSrCkYR
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関連リンク: https://labo.elsoul.nl/ja/news/2026/04/10/slv-sha256-optimization-202604/

