マンガ編集の常識を変えるAI!Mantraとスクウェア・エニックスが共同開発した「AI写植指定エンジン」とは
日本が世界に誇る文化であるマンガは、多くの読者に感動と興奮を届けています。その素晴らしい作品が読者の手元に届くまでには、作家の創作活動だけでなく、編集者による多岐にわたる作業が欠かせません。中でも、マンガのセリフの見た目を整える「写植指定」は、作品の演出や読者の没入感を左右する非常に重要な工程でありながら、これまで多くの時間と労力を要する手作業に依存していました。
この長年の課題に対し、マンガに特化したAI技術を開発するMantra株式会社と、エンタテインメント業界を牽引する株式会社スクウェア・エニックスが、画期的な解決策を提示しました。両社は共同で、マンガ編集における写植指定工程を自動化するAI技術、通称「AI写植指定エンジン」を開発。このAIツールは、スクウェア・エニックス社内でのβテストを経て、すでに段階的な導入が始まっており、編集現場の年間約3,000時間もの手作業を効率化する画期的なソリューションとして大きな注目を集めています。
なぜ今、マンガ編集にAIが必要なのか?「写植指定」の重要性と課題を解説
AI初心者の方にとっては、「写植指定」という言葉自体、耳慣れないかもしれません。まずは、この「写植指定」がどのような作業で、なぜマンガ制作において重要であり、そしてなぜAIによる効率化が求められていたのかを詳しく見ていきましょう。
「写植指定」とは?マンガの魅力を引き出す裏方の技術
「写植指定」とは、マンガのセリフやナレーションなどの文字について、どのような「フォント(書体)」を使い、どのくらいの「大きさ(級数)」で、どのような「スタイル(太字、斜体など)」で、そして「どこに配置するか」を一つひとつ細かく指定していく作業のことです。
例えば、同じキャラクターのセリフであっても、日常会話、感情が高ぶる叫び声、心の中のつぶやき、場面を説明するナレーションなど、状況や感情に応じて最適なフォントやスタイルが使い分けられます。この適切なフォントの適用は、作品の雰囲気を読者に正確に伝え、キャラクターの感情を際立たせ、読者が物語に深く没入するために不可欠な要素です。
年間3,000時間以上!マンガ編集現場の深刻な課題
写植指定は、作品の品質を保つ上で極めて重要な工程ですが、その作業は非常に手間がかかります。マンガ1話あたり数十から数百ものセリフが存在し、それらすべてに対して、編集者が手作業でフォントの種類やサイズ、配置などを指定していく必要があります。
株式会社スクウェア・エニックスの編集部では、この写植指定作業に年間3,000時間以上もの膨大な時間が費やされていました。これは、単純計算で1日あたり約8時間、年間約375日分の作業量に相当し、いかに多くのリソースがこの定型作業に割かれていたかが分かります。マンガの刊行点数が増加し続ける現代において、写植指定の効率化は、編集現場にとって喫緊かつ切実な課題となっていたのです。

MantraのAI技術とスクウェア・エニックスの知見が融合!共同開発の背景
今回の画期的なAI技術の開発は、Mantra株式会社と株式会社スクウェア・エニックスの強固な連携のもとで実現しました。そのきっかけは、2024年に株式会社スクウェア・エニックス・ホールディングスがMantraに出資したことでした。
Mantraは、これまでマンガ翻訳ツール「Mantra Engine」の開発を通じて、マンガの画像認識やスタイル推定に関する高度なAI技術を培ってきました。この技術は、マンガの吹き出しやセリフの構造を正確に解析し、その文脈に合わせた最適な文字表現を自動で生成する能力を持っています。今回の共同開発では、このMantraが持つ独自のAI技術を、日本語マンガの編集工程である写植指定に応用するという発想が生まれました。
プロジェクトは、まずスクウェア・エニックス社内で検証と改善を重ね、実際の編集現場での利便性向上と業務効率化を徹底的に追求しました。そして将来的には、この優れたAI技術をマンガ業界全体へ向けた製品として提供していくことを目指しています。
AIがマンガ編集を変える!「写植指定AIツール」の驚くべき機能
Mantraがこれまでのマンガ翻訳システム「Mantra Engine」の開発で培ったマンガ画像の解析技術とスタイル推定技術を応用し、写植指定に特化して開発された「写植指定AIツール」は、主に以下の3つの特徴を持っています。
(1)吹き出し・セリフの構造解析
このAIツールは、まずマンガ原稿に描かれた吹き出しの形状、セリフのテキスト内容、文字数、行数といった情報を自動で正確に解析します。これは、Mantraがマンガの画像から文字情報を抽出し、そのレイアウトを理解する得意分野が存分に活かされている点です。AIが原稿の「目」となり、人間が見るようにマンガの構造を理解することで、次のステップである文字組みの自動推定へと繋がります。
(2)吹き出しに合わせた文字組み自動推定
解析された吹き出しの大きさや形状、セリフの文字数などに基づき、AIは最適な文字サイズ(級数)を推定し、セリフの配置位置まで自動で提案します。さらに、このツールは単に文字を配置するだけでなく、通常のセリフ、心の声、叫び、ナレーションといった、吹き出しの形状や文脈に応じた適切なフォントの種類やスタイルまでも推定し、提案する能力を持っています。これにより、編集者は一つひとつのセリフに対してフォントやサイズを手動で選ぶ手間から解放され、AIが提案する高品質な写植案を基に作業を進めることができます。
(3)編集者のニーズに応えるカスタマイズ設計
AIがどんなに優れた提案をしても、最終的な作品のクオリティは人間の編集者の判断に委ねられます。このツールは、スクウェア・エニックス編集部での徹底的なヒアリングを通じて、実際の写植指定を行う編集者が「使いやすい」と感じる機能が豊富に盛り込まれています。直感的に操作できるユーザーインターフェース(UI)や、AIが提案した写植結果をすぐに確認できる「写植プレビュー」機能などがその代表例です。AIと人間の協調作業がスムーズに行えるよう設計されているため、AI初心者の方でも安心して利用できるでしょう。

βテストで実証された効果と編集者の声
共同開発されたAI写植指定ツールは、スクウェア・エニックス編集部内で大規模なβテストを実施しました。対象となったページ数は1,516ページにも及び、その結果、総合満足度は73%と肯定的な評価を獲得。さらに、回答者全員が今後の継続利用に前向きな姿勢を示したことは、このツールの実用性と将来性の高さを物語っています。
操作性についても、60%の編集者が「使いやすい」と回答しており、初めてAIツールに触れる編集者でも直感的に利用できるUIが評価されています。実際のβテストに参加した編集者からは、以下のような具体的な声が寄せられています。
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「ほかの業務を行いながら写植指定も進められるようになった」
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「手書きでフォント指定を書き込む手間が省け、作業が非常に楽になった」
これらの声は、AIツールが単に作業時間を短縮するだけでなく、編集者の精神的な負担を軽減し、よりクリエイティブな業務に集中できる環境を創出することを示しています。一方で、AI解析精度や処理速度については、さらなる改善の余地があることも明らかになっており、今後もテストで得られたフィードバックをもとに、フォントサイズの推定精度や処理速度等の向上を図り、継続的な改良が進められる予定です。
マンガ業界全体へ広がる未来:今後の展望
βテスト運用は既に完了しており、現在スクウェア・エニックス社内では、このAI写植指定エンジンの段階的な導入が開始されています。今後は、社内での運用を通じてさらに検証と改善を重ね、ツールの利便性を高めていく方針です。
そして、将来的にはスクウェア・エニックスだけでなく、他のマンガ出版社や制作会社にも利用してもらえるよう、製品化を進めていく計画です。このAI技術がマンガ業界全体に普及することで、多くの編集者が写植指定の定型作業から解放され、より多くの魅力的な作品が、より迅速に、そして高品質な形で読者の手元に届く未来が期待されます。まさに「出版DX(デジタルトランスフォーメーション)」の新たな一歩となるでしょう。
両社トップが語る、AIとクリエイティブの未来
今回の共同開発について、両社のトップからは、単なる効率化に留まらない、クリエイティブな価値向上への強い意志が示されています。
株式会社スクウェア・エニックス 執行役員 出版事業本部 事業本部長 松浦 克義 氏のコメント
「本ツールは、編集現場の最前線にいる編集者たちのアイデアに加え、当社がデジタルエンタテインメント領域で培ってきた10年以上にわたるAIの知見、そしてMantra様の技術を融合し、編集者の負荷を最適化するために開発を行いました。我々の目的は、単なる効率化ではなく、AIが定型的な作業を担うことで、作家様の創作活動をサポートするという編集者本来の業務により集中出来る環境を整えることです。編集者のアイデアから生まれたこの取り組みが、出版業界における新たなモデルケースとなり、より多くの作品を読者の皆様へお届けする取り組みとなるよう邁進してまいります。」
松浦氏のコメントからは、AIが人間の仕事を奪うのではなく、人間の創造性を高めるパートナーとして機能し、編集者が本来のクリエイティブな業務に集中できる環境を整えるという、AI活用の理想的なビジョンが語られています。
Mantra株式会社 代表取締役 石渡 祥之佑 氏のコメント
「創業以来、Mantraはマンガ翻訳を効率化するAI技術を開発してまいりました。その過程で培った要素技術が、今度はマンガ制作に携わる編集者のお役にも立てる機会を得たこと、心から嬉しく思います。共に開発を進めてくださったスクウェア・エニックスの皆様に感謝申し上げます。今後もMantra一同、より多くの素晴らしい作品が、より多くのファンに届くことを支える技術を作ってまいります。」
石渡氏のコメントは、Mantraがこれまで培ってきたAI技術が、マンガ制作の現場で新たな価値を生み出すことへの喜びと、今後もマンガと読者を繋ぐ技術開発に貢献していくという強い決意が込められています。
Mantra株式会社について
Mantra株式会社は「世界の言葉で、マンガを届ける。」をスローガンに、2020年に設立されたスタートアップ企業です。マンガに特化したAI技術の研究開発を専門としており、高速なマンガ翻訳を実現する翻訳ツール『Mantra Engine』や、マンガを用いた英語多読学習アプリ『Langaku』などの革新的なサービスを提供しています。
同社は、HONGO AI Award (2019)、週刊東洋経済「すごいベンチャー100」(2020)、AAMT長尾賞 (2021)、JEITAベンチャー賞 Early edge賞(2022)、電子出版アワード チャレンジ・マインド賞(2024)、Google Playベストオブ2025(自己成長部門)大賞(2025)、アプリブBest App Award(学習アプリ部門)優秀賞(2025)など、数々の権威ある賞を受賞しており、その技術力と将来性は国内外から高く評価されています。
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社名: Mantra株式会社
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代表者: 代表取締役 石渡 祥之佑
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所在地: 〒112-0004 東京都文京区後楽2-3-21住友不動産飯田橋ビル 2F
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設立: 2020年1月28日
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資本金: 1,000,000円
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事業内容: マンガに特化した機械翻訳技術の研究開発
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URL: https://mantra.co.jp
株式会社スクウェア・エニックスについて
株式会社スクウェア・エニックスは、世界をリードする総合エンタテインメント・コンテンツ企業です。最先端の技術を活かしたHDゲームや大型オンラインゲーム、モバイル端末、WEBブラウザ、アミューズメント施設向けゲームの制作、運営、販売を幅広く手掛けています。
ゲーム事業だけでなく、ゲーム関連書籍やコミックの出版、デジタルコミックの配信を手掛ける出版事業、自社IP(知的財産)を活用したグッズの制作・販売、さらにゲーム開発で培った技術を活かした映像制作や、自社コンテンツのアニメ・映画・舞台化等の企画も推進し、多角的な事業展開により世界中のファンに最高のエンタテインメントを届けています。
まとめ:AIが拓くマンガ制作の新たな時代
Mantra株式会社と株式会社スクウェア・エニックスによる今回の共同開発は、マンガ制作現場の長年の課題であった写植指定の効率化に、AIという強力な解決策をもたらしました。この「AI写植指定エンジン」は、編集者が定型作業から解放され、よりクリエイティブな業務や作家とのコミュニケーションに時間を割けるようになることを意味します。
AIが人間の仕事を奪うのではなく、人間の創造性を高めるパートナーとして機能する、まさに「出版DX」の新たな一歩と言えるでしょう。今後、このAI写植指定エンジンがマンガ業界全体に普及することで、より多くの魅力的な作品が、より迅速に、そして高品質な形で読者の手元に届く未来が期待されます。
AI初心者の方も、この技術が日本のマンガ文化をさらに発展させる可能性を秘めていることをご理解いただけたのではないでしょうか。AIと人間の協調によって、マンガ制作の新たな時代が幕を開けようとしています。

