Starlinkが南極の作業DXを加速!3D点群データと映像のリアルタイム伝送で極地の現場が変わる

Starlinkが南極の作業DXを加速!3D点群データと映像のリアルタイム伝送で極地の現場が変わる

遠く離れた南極の地から、まるで隣にいるかのように現場の状況をリアルタイムで確認できる――そんな未来が現実のものとなりました。三機工業株式会社、株式会社KDDI総合研究所、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所の3者は、Starlink衛星通信回線を活用し、南極の昭和基地から3D点群データと映像を日本へリアルタイムに伝送する実証実験に成功しました。これは南極域からの3D点群リアルタイム伝送として世界初の快挙であり、極地や遠隔地の作業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を大きく推進する成果です。

極限の地、南極での課題

南極の昭和基地では、気象、大気、雪氷、地質、生物、海洋、宇宙物理といった多岐にわたる観測・研究が行われています。これらの重要な活動を支えるためには、基地内の機械設備の適切な管理と保守が不可欠です。しかし、昭和基地の隊員の方々は、空調設備や配管、制御機器などの設置状況を、メジャーや計測器を使って手作業で測り、紙の図面に反映させるという、時間と手間のかかる作業に日々直面していました。この作業の効率化は、長年の課題とされてきました。

KDDI総合研究所は通信分野で、三機工業は機械設備の施工技術と保守管理ノウハウで、それぞれ昭和基地の活動を支えてきましたが、この手作業による計測・記録の課題を解決するため、新たな映像伝送技術の活用に着目し、共同で検討を進めてきました。

世界初!3D点群データと映像のリアルタイム伝送に成功

2025年11月18日、三機工業、KDDI総合研究所、国立極地研究所の3者は、Starlink衛星通信回線を使い、南極の昭和基地とKDDI総合研究所本社間で3D点群データと映像をリアルタイムに伝送する実証実験に成功しました。

南極昭和基地とKDDI総合研究所本社間での3D点群・映像データ伝送ワークフロー

この実証実験では、LiDAR(ライダー)を搭載したスマートフォン1台で設備の計測と撮影を開始し、そのデータを圧縮・伝送、そして日本側での受信とモニター表示までの一連の流れを、わずか1秒以内の遅延で途切れなく、3D点群データと映像を同期させて伝送できることが確認されました。

受信された3D点群データは、3D-CAD(コンピューターを使った三次元設計・製図技術)で製図できるほど高い品質を保っており、これにより南極での作業を日本から遠隔で支援できることが実証されました。スマートフォンの簡単な操作だけで計測作業ができるようになったことで、専門家でなくとも手軽に、短時間でデータ取得が可能となります。

Starlinkを活用した南極からの3D点群データと映像のリアルタイム伝送成功を示すグラフィック

この成果は、計測作業の効率化だけでなく、リアルタイムの情報共有によって、日本の担当者が南極の状況を正確に把握し、適切な支援を提供できるようになることを意味します。結果として、隊員の業務効率化と作業負担の軽減に大きく貢献すると期待されています。

リアルタイム伝送を可能にした革新的な技術

南極と日本は約14,000kmもの距離があり、大容量のデータを安定して、しかも途切れることなく伝送することは非常に困難です。この課題を解決するため、KDDI総合研究所は以下の技術的な工夫を凝らしました。

  • 3D点群圧縮伝送ソフトウエアの改良: 従来のソフトウエアに、リアルタイム伝送に適した「SRT(Secure Reliable Transport)伝送プロトコル」のパラメータ最適化を行いました。SRTは、UDP(User Datagram Protocol)をベースとしながら、FEC(前方誤り訂正)や限定的なARQ(自動再送要求)を備え、信頼性の高い伝送を可能にします。

  • G-PCCデコーダへの独自エラー耐性実装: 3D点群の座標情報をそのまま圧縮する「G-PCC(Geometry-based point cloud compression)」方式のデコーダに、KDDI総合研究所独自の「エラー耐性」を実装しました。これにより、伝送中にデータの一部が失われても、品質の低下を最小限に抑えることができます。

  • スループットの向上: これらの技術改善により、データ伝送のスループット(単位時間あたりに送れるデータ量)を2Mbpsから8Mbpsへと大幅に向上させることに成功しました。これにより、設備の立体的な設置状況を詳細に把握できる高品質な3D点群データと映像を、リアルタイムで安定して伝送できるようになりました。

システム構成の簡素化

今回の実証では、機器のコンパクト化と操作の簡便化も実現しています。3D点群計測の専門家でなくても、LiDAR搭載スマートフォン1台を操作するだけで、簡単に計測ができる環境を構築しました。これにより、誰でも手軽に高品質なデータを取得できるようになります。

南極昭和基地から日本へのStarlink経由3D点群・映像伝送システム構成

DXがもたらす極地の現場変革

今回の成果は、極地や遠隔地での作業に大きな変革をもたらします。

隊員の業務効率化と負担軽減

これまで手作業で行っていた設備の計測や記録が、スマートフォン一つで可能になることで、隊員の方々の作業時間が大幅に短縮されます。また、リアルタイムで日本側と情報を共有できるため、疑問点や問題が発生した際にすぐに相談し、的確な指示や支援を受けることが可能になります。これにより、隊員の精神的・肉体的な負担が軽減され、より重要な観測・研究活動に集中できる環境が整います。

日本からの遠隔支援と施工管理の効率化

三機工業のエンジニアは、受信した3D点群データを用いて日本国内で3D-CAD図面を作成し、その完成した図面データを越冬隊員にフィードバックすることが可能になります。これにより、遠隔地での施工管理業務が効率化され、日本と南極の2拠点で情報を共有しながら、より正確で迅速な意思決定ができるようになります。

これまでの歩み:南極における通信技術の進化

今回の成功は、突然実現したものではありません。KDDI総合研究所と極地研は、2019年から「南極地域観測隊の記録と情報発信のための新しい映像伝送技術の開発研究」を共同で進めてきました。

これらの技術は、インテルサット衛星通信用アンテナがある昭和基地周辺だけでなく、基地から離れた場所での観測隊員と日本の担当者との間で、リアルタイムコミュニケーションに基づく作業効率化を可能にしてきました。今回の3D点群データ伝送の成功は、これらの研究の延長線上に位置づけられる、さらなる進化と言えるでしょう。

今後の展望:極地・遠隔地のDXをさらに推進

三機工業、KDDI総合研究所、極地研の3者は、今回の成果を活かし、今後も極地や遠隔地など、通信環境が不十分な地域での人手がかかる作業のDXを目指し、実用化に向けた取り組みを進めていく予定です。

KDDI総合研究所は、今回の実証に関する発表を、2025年12月18日から12月19日まで慶應義塾大学矢上キャンパスで開催される「2025年 映像情報メディア学会冬季大会」で行う予定です。この発表を通じて、さらに多くの研究者や技術者との知見共有が進み、新たな技術革新へとつながることが期待されます。

用語解説

  • 3D点群データ: 3次元空間上の座標と色の情報を持つ多数の点の集合体です。物体や環境の形状をデジタル的に表現するデータで、今回の実証では設備の立体的な設置状況を把握するために用いられました。

  • 3D CAD: 3D Computer Aided Designの略で、コンピューターを使って三次元(3D)の立体モデルを設計・製図する技術です。

  • Starlink: SpaceX社が提供する衛星インターネットサービスです。地球低軌道に多数の小型衛星を配置することで、地上から離れた場所や従来の通信インフラが整備されていない地域でも高速インターネット接続を提供します。

  • LiDAR(ライダー): Light Detection and Rangingの略で、レーザー光を照射し、その反射光が戻ってくるまでの時間から距離を測定することで、物体の形状や位置を三次元的に把握する技術です。スマートフォンのカメラ機能と組み合わせることで、手軽に3D点群データを取得できます。

  • SRT(Secure Reliable Transport): リアルタイム伝送に適したプロトコルで、UDPをベースにしながらも、データの信頼性やセキュリティを向上させる機能を持っています。

  • G-PCC(Geometry-based point cloud compression): 座標ベースの点群圧縮方式で、3D点群データを効率的に圧縮する技術です。測量や建設現場の遠隔監視など、3D空間の座標情報を利用する用途に適しています。

まとめ

今回のStarlinkを活用した南極からの3D点群データと映像のリアルタイム伝送成功は、極地という特殊な環境での作業効率化と安全確保に大きく貢献する画期的な成果です。スマートフォン一つで高精度なデータが取得でき、それをリアルタイムで日本と共有できるようになったことで、南極の観測・研究活動を強力にサポートし、隊員の負担を軽減します。この技術は、建設現場や災害現場、遠隔医療など、通信環境が限られるあらゆる分野でのDX実現に向けた大きな一歩となることでしょう。未来の「働く」を大きく変える可能性を秘めた、まさに革新的な技術の誕生と言えます。

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