JISDA株式会社(以下、JISDA)と株式会社FastNeura(以下、FastNeura)は、この度、認知支援と生体センシングという、人間の能力をサポートする新しい技術分野で戦略的な協業を始めました。
この協業は、JISDAが立ち上げた医療・バイオコンソーシアム「RESCUE」の中で進められます。FastNeuraが持つ最先端のニューロテクノロジー(脳科学技術)とAI(人工知能)を組み合わせることで、人間が厳しい環境下でも最高のパフォーマンスを発揮できるようサポートする、次世代の「認知支援基盤」を作り上げることを目指しています。この技術は、防衛分野を起点に、私たちの日常生活の安全や健康にも役立つ可能性を秘めています。

なぜ今、認知支援・生体センシングが重要なのか?:協業の背景
現代社会は、情報が爆発的に増え、瞬時の判断が求められる場面が増加しています。特に、防衛や安全保障の現場では、極めて高い負荷がかかる状況が日常茶飯事です。このような環境では、最新の装備やシステムだけでなく、それらを操作する「人間」自身の能力が、任務の成功を左右する重要な要素となります。
防衛・安全保障領域における課題と「人間中心」技術の必要性
防衛・安全保障の現場では、以下のような厳しい課題に直面しています。
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情報量の増大と判断時間の短縮: 膨大な情報の中から、瞬時に正確な情報を見極め、適切な判断を下す必要があります。
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継続的な監視業務の高度化: 長時間にわたる集中力と注意力の維持が求められます。
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通信制約下での対応: 限られた情報伝達手段の中で、的確な状況判断と行動が必須です。
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疲労、ストレス、認知負荷の増大: これらの要因は、人間の判断精度や持続性、安全性に直接影響を与えます。
これまでの技術開発は「装備中心」や「システム中心」の発想が主でした。しかし、これからは、人間の状態をリアルタイムで把握し、それに合わせて最適なサポートを提供する「人間中心」の技術が不可欠とされています。人間の認知状態や心身の状態そのものが、任務遂行能力を大きく左右するからです。
FastNeuraが持つ最先端ニューロテクノロジー
FastNeuraは、東京大学から生まれたニューロテック・スタートアップです。彼らは、人間の「無意識の状態」、つまり感情や認知の状態を正確に読み解くための画期的なAI技術を開発しています。具体的には、以下のような技術がその核となっています。
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マルチモーダル生体データ解析: 脳波(脳の電気信号)、心拍、皮膚の電気活動など、複数の種類の生体データ(マルチモーダルデータ)を同時に分析することで、人間の内面の状態を多角的に捉えます。
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認知状態推定AI: これらの生体データから、AIが「今、集中しているか?」「疲れているか?」「ストレスを感じているか?」といった認知状態を高い精度で推定します。
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クローズドループ介入技術: 人間の状態をただ理解するだけでなく、その状態に合わせて最適な刺激(例えば、触覚刺激など)を与えることで、集中力を高めたり、リラックスさせたりと、望ましい認知・心理状態へと誘導する技術です。これは、システムが人間の状態を「感知」し、それに合わせて「介入」するという一連の流れが自動的に行われるため、「クローズドループ(閉じた輪)」と呼ばれます。
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認知拡張プロダクト「Sync」: 脳や生体信号からリアルタイムに心身の状態を推定し、介入技術と組み合わせることで、人間の認知能力をサポート・強化する製品です。
これらの技術は、人間の能力の限界を拡張し、より高いパフォーマンスを引き出す可能性を秘めています。
JISDAが描く防衛起点での社会実装構想
JISDAは、防衛分野を起点に社会全体への技術実装を目指す企業です。医療・バイオコンソーシアム「RESCUE」を通じて、最先端技術を実際の現場で活用し、社会課題の解決に繋げることを構想しています。今回の協業では、FastNeuraの先進的なニューロテクノロジーと、JISDAが防衛・安全保障領域で培ってきた構想力と実践力を組み合わせることで、高負荷環境下での「人間中心」の次世代基盤構築を目指します。
この協業は、防衛分野での活用を皮切りに、防災、救急、ヘルスケア、公共安全といった幅広い分野への展開を見据えています。防衛分野で鍛えられた技術は、その厳しい要求水準を満たすことで、他の分野でも高い信頼性と効果を発揮することが期待されます。
協業で何を目指すのか?:共同で取り組む3つの柱
JISDAとFastNeuraは、この戦略的協業において、主に以下の3つの領域で具体的な取り組みを進めます。
1. マルチモーダル生体データを活用した認知状態推定技術の検討
両社は、脳波だけでなく、心拍、皮膚電位、視線など、複数の生体データを複合的に分析する「マルチモーダル生体データ解析」を活用し、人間の「疲労」「集中」「ストレス」「注意」「認知負荷」といった様々な認知状態を正確に推定する技術の可能性を探ります。
この技術が実用化されれば、防衛・安全保障の現場において、隊員のリアルタイムな状態を把握し、以下のような具体的なサポートが可能になります。
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判断支援: 隊員が集中力を欠いている場合や過度なストレス状態にある場合にアラートを出し、適切な判断を促す。
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安全管理: 危険な状況下での隊員の心身状態をモニタリングし、事故を未然に防ぐ。
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パフォーマンス維持: 疲労が蓄積する前に休息を促したり、集中力を高めるためのサポートを提供したりすることで、継続的なパフォーマンス維持に貢献します。
FastNeuraは、このマルチモーダル生体データ分析技術を彼らの中核技術として公表しており、この分野での深い知見と実績を持っています。
2. クローズドループ介入を活用した認知支援技術の検討
人間の状態をただ把握するだけでなく、その状態に合わせて最適なサポートや介入を自動的に行う「認知支援基盤」の構築を目指します。
FastNeuraが開発した「クローズドループ介入技術」は、推定された人間の状態(例えば、集中力が低下している状態)に応じて、触覚刺激などを用いて、自動的に望ましい状態(集中力が高い状態)へと誘導します。JISDAは、防衛の現場で実際に求められるニーズ(現場起点の要求整理)をFastNeuraの技術と組み合わせることで、以下のような具体的な技術開発を推進します。
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継続的な集中維持: 長時間作業中に集中力が途切れそうになった際、適切な刺激を与えることで、集中力を維持する。
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認知負荷の低減: 複雑な情報処理が必要な場面で、認知負荷を軽減するためのサポートを行う。
FastNeuraは、触覚刺激などを用いたクローズドループ介入技術について公開しており、この分野での具体的な知見を持っています。
3. 防衛起点での実証と社会実装への展開設計
両社は、まず最も厳しい要求条件が課せられる防衛領域でこれらの技術の有効性を徹底的に検証します。この「防衛起点」での実証は、技術の信頼性と堅牢性を極限まで高めるための重要なステップです。
そして、そこで得られた成果や知見を、以下のような社会の様々な分野へ応用していくことを目指します。
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防災: 災害現場での救助隊員の疲労やストレスを軽減し、判断力を維持する。
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救急医療: 医療従事者の集中力や判断力をサポートし、迅速かつ正確な処置を支援する。
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ヘルスケア: 日常生活での集中力向上やストレス軽減、睡眠の質の改善など、健康増進に貢献する。
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公共安全: 警察官や消防士など、公共の安全を守る人々のパフォーマンスをサポートする。
FastNeuraは、既に防衛・安全保障や国家レジリエンス(国家全体の回復力や強靭さ)領域での協業実績を公開しており、防衛分野で培った技術を社会全体のレジリエンス向上に繋げるという明確なビジョンを持っています。
JISDAとFastNeuraは、これらの取り組みを通じて、防衛分野における認知支援、生体センシング、人間拡張の各技術を連携させ、現場で実際に役立つ次世代の認知支援基盤を構築していきます。ニューロテクノロジーとAIを核とした研究開発と社会実装を通じて、日本の防衛分野における先端医療・バイオ・認知支援領域の発展と、その成果を社会全体に還元することに貢献します。
両社の代表が語る協業への思い
今回の戦略的協業について、両社の代表からは、未来を見据えた力強いコメントが寄せられています。
JISDA株式会社 代表取締役 國井翔太氏のコメント
國井氏は、これからの防衛・安全保障領域において、「人間の認知、判断、集中、回復といった根源的な能力をいかに理解し、支え、拡張しうるか」が、競争力を規定すると語っています。個別の装備の性能だけでなく、人間そのものの能力が、次世代の国力や安全保障基盤のあり方を左右するという考えです。
JISDAは、防衛という最も厳しい要求水準の下で技術を育て、そこで培われた知見を、医療、防災、公共安全といった社会全体の基盤へと接続していくことを構想しています。そのための枠組みが「RESCUE」であり、FastNeuraの技術は、この構想を前進させる上で極めて重要であると強調しています。人間の内側の状態を可視化し、そこに働きかける技術は、安全保障の現場に新たな可能性をもたらすだけでなく、社会全体の回復力や持続性を更新しうるものだと、その意義を深く語っています。
株式会社FastNeura 代表取締役CEO 水口成寛氏のコメント
水口氏は、FastNeuraがマルチモーダル生体データとAIを活用し、人間の無意識状態を理解し、最適な認知・心理状態へと支援する「認知拡張」技術の社会実装に取り組んでいることを述べ、JISDAとの協業に大きな喜びを示しています。
防衛分野は、限られた時間、資源、通信環境の中で、人間の認知や判断の限界が最も厳しく問われる領域の一つであると指摘しています。だからこそ、そこで求められる技術は、防災、救急、ヘルスケア、公共安全など、幅広い社会課題にも応用できる可能性を秘めていると考えています。JISDAの現場起点の構想力と、FastNeuraの認知状態推定AIおよびクローズドループ介入技術を掛け合わせることで、次世代の認知支援基盤の構築に貢献していく決意を表明しています。
JISDA株式会社とは
JISDA株式会社は、2025年11月に設立された、安全保障分野における高度な研究開発とインテグレーション(統合)を行う防衛スタートアップ企業です。国内外の現場からの情報収集を通じて、新しい技術の種(技術シーズ)と防衛分野のニーズを統合的に追求する体制を持っています。試作から量産までを自社内で対応できる技術基盤に加え、現場部隊の運用知識や、国の中央省庁における制度設計・政策形成に関する深い理解も持ち合わせています。自由で開かれた市場を尊重し、民間の立場から次世代の安全保障の新しい基準を日本から世界に発信することを目指しています。
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社名: JISDA株式会社
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代表: 國井翔太
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所在地: 東京都千代田区丸の内1丁目7-12 サピアタワー8F
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事業内容: 無人システム事業、サイバーセキュリティ事業、防衛医学に関する研究
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公式ウェブサイト: https://jisda.jp/
株式会社FastNeuraとは
株式会社FastNeuraは、東京大学発のニューロテック・スタートアップです。認知神経科学とAI技術を融合させた「認知拡張(コグニティブ・オーグメンテーション)」の社会実装を推進しています。マルチモーダル生体データから人間の無意識状態(感情や認知)を推定する技術や、感覚刺激などを用いて最適な認知・心理状態へ誘導するクローズドループ介入技術を独自に開発しています。また、脳・生体信号から推定された心身状態を既存のソリューションに組み込む「生体適応型AIプラットフォーム『Sync OS』」の開発・提供も行っています。
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社名: 株式会社FastNeura
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代表: 水口成寛
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所在地: 東京都文京区本郷6-25-14 宗文館ビル3階
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事業内容: ニューロテック/AI関連技術の研究開発、認知拡張ソリューションの提供
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公式ウェブサイト: https://fastneura.com/
まとめ:未来を拓く認知支援基盤の構築へ
JISDAとFastNeuraの戦略的協業は、AIとニューロテクノロジーが「人間中心」の社会を築く上でどれほど重要であるかを示しています。この協業を通じて開発される次世代の認知支援基盤は、防衛分野のような極限状態での人間の能力を最大限に引き出すだけでなく、防災、救急医療、ヘルスケア、公共安全といった私たちの身近な生活にも応用され、社会全体のレジリエンス向上に大きく貢献することでしょう。
人間の内なる状態を理解し、それをサポートすることで、私たちはより安全で、より健康で、より生産的な未来を築くことができるはずです。この革新的な取り組みが、今後どのように発展していくのか、大いに注目が集まります。

