6G時代のAI・ロボットを加速!NTTドコモとNTTがIn-Network Computingで実現した低遅延AI映像解析の全貌

6G時代のAI・ロボットを加速!NTTドコモとNTTがIn-Network Computingで実現した低遅延AI映像解析の全貌

6G時代の到来を背景に、AI(人工知能)やロボットの進化が社会に大きな変革をもたらすことが期待されています。私たちが想像する未来の社会では、AIを搭載したロボットが工場や物流現場で自律的に活躍したり、遠隔地から高度な医療手術を支援したり、あるいはXR(クロスリアリティ)技術によってより没入感のある体験が提供されたりするでしょう。しかし、これらの技術がその真価を発揮するためには、膨大なデータを瞬時に処理し、遅延なくフィードバックできる、非常に高性能なネットワークが不可欠です。

このような次世代の課題を解決するため、株式会社NTTドコモ(以下、ドコモ)とNTT株式会社(以下、NTT)は、「In-Network Computing(INC)」という革新的な技術を開発し、遠隔の高性能GPUリソースを活用した低遅延AI映像解析の実証実験に成功しました。これは、6G時代のAI・ロボットがその能力を最大限に発揮できるネットワークの実現に向けた、非常に大きな一歩となります。

この記事では、AI初心者の方にも分かりやすい言葉で、In-Network Computingの基本的な考え方から、今回の実証実験がどのように行われ、どのような成果が得られたのか、そしてそれが私たちの未来にどのような影響を与えるのかを詳しく解説していきます。

In-Network Computing (INC) とは?6G時代のネットワークを革新する技術

AIやロボット技術が進化するにつれて、それらを動かすためのデータ処理の量も飛躍的に増大しています。特に、リアルタイムで映像を解析したり、複雑なシミュレーションを実行したりするには、高性能なGPU(Graphics Processing Unit)のような計算リソースが不可欠です。しかし、これらの計算リソースは通常、データを発信する端末(スマートフォンやロボット)から離れたクラウド上や、特定のデータセンターに集約されていることがほとんどでした。

従来のネットワークとデータ処理の課題

従来のネットワークでは、データが端末からデータセンターへ、そして処理結果が再び端末へと戻ってくるまでに、どうしても時間の遅れ(遅延)が生じてしまいます。これは、データ転送の距離が長くなるほど顕著になります。例えば、自律走行ロボットが周囲の状況をAIで瞬時に判断し、障害物を避けるためには、この「遅延」が致命的な問題となる可能性があります。

また、AIの推論処理(学習した内容に基づいて新しいデータを分析し、結果を導き出すこと)は、非常に多くの計算能力を必要とします。小型のロボットやウェアラブル端末では、そのすべての処理を端末内で行うことは難しく、外部の高性能な計算リソースを利用する必要があります。しかし、この場合も、通信の遅延がサービス品質に大きな影響を与え、地理的に近い場所にある計算リソースしか利用できないという制約がありました。

INCの基本的な考え方

In-Network Computing(INC)は、このような課題を解決するために生まれた技術コンセプトです。INCでは、ネットワークが単にデータを「運ぶ」だけでなく、データが流れる途中で「処理する」役割も担うようになります。具体的には、ネットワークの中にGPUなどの計算リソースを分散して配置し、通信の制御と、AIなどのサービスに必要なデータ処理を一体的に行うことで、遅延を減らし、端末の負担(消費電力など)も軽減しながら、高品質なサービスを提供することを目指します。

ネットワークが「通信」と「計算」の両方を主体的に制御することで、データ処理の最適な場所を判断し、必要なリソースをオンデマンドで活用できるようになります。これにより、地理的な制約にとらわれず、どこからでも高性能なAI処理を利用できるようになるのです。

AI映像解析の常識を覆す!実証実験の全貌

今回の実証実験では、このIn-Network Computingの考え方に基づき、遠隔に分散配置されたGPUリソースと5Gネットワークを「IOWN APN」という光ネットワーク基盤で接続し、低遅延なAI映像解析が可能かどうかを検証しました。

実証実験の目的と課題

AI推論処理を複数のリソースに分散して実行する場合、GPUリソース間の通信遅延が全体の処理遅延に大きく影響します。このため、これまでAI推論処理は、同じ拠点内など地理的に近い場所にあるGPUリソースを利用することが前提とされていました。しかし、これではリソースの柔軟な活用ができません。

今回の実証実験の目的は、INCエッジとIOWN APNを活用することで、地理的に離れた遠隔GPUリソースを用いた場合でも、高い推論性能(つまり、低遅延)を維持できるかを検証することでした。

実証実験のシステム構成と仕組み

実証実験では、以下のようなシステム構成で検証が行われました。

  1. 映像データの送信: スマートフォンやカメラなどの端末から、解析対象となる映像データが5Gネットワークを通じて送信されます。
  2. INCエッジでの処理: 5Gコアネットワーク上に実装された「INCエッジ」が重要な役割を果たします。INCエッジは、5GネットワークとIOWN APNを接続する機能に加え、AI推論処理をネットワーク側から制御する機能を持っています。

    • AI推論処理は、「推論の前段にあたる処理」と「推論の実行部分」に分けられます。

    • INCエッジ内の「AI Proxy」という機能が、前段処理後のデータを、IOWN APNを介して遠隔のGPUリソースへ低遅延で転送・振り分けることで、分散推論を実現します。

    • IOWN APNによる接続: 超低遅延・広帯域・低消費電力を特長とするIOWN APNが、INCエッジと遠隔GPUリソースを安定的に接続します。これにより、地理的に離れていても、まるで隣接しているかのような感覚でデータがやり取りされます。
    • 遠隔GPUリソースでのAI映像解析: IOWN APNを通じて送られてきた映像データは、遠隔に配置された高性能なGPUリソースでAI推論処理が行われ、瞬時に解析結果が導き出されます。
    • 結果のフィードバック: 解析された結果は、再びINCエッジと5Gネットワークを介して端末にフィードバックされます。

図1. 実証実験のシステム構成
図1. 実証実験のシステム構成

さらに、今回の実験では、商用5Gコアネットワークの優先制御機能を適用し、INCエッジの役割と組み合わせることで、5GネットワークおよびIOWN APNを活用した広帯域・低遅延なAI映像解析を実現しました。

実証実験の結果と意義

この実証実験の結果、通信とAI映像解析の合計処理遅延が、人間の周囲でロボットが自律制御に基づいて動作する場合に想定される要求遅延と比較して、要求遅延以内であることが確認されました(2026年3月2日時点の調査で、協働ロボットの安全要求事項を定義するISO/TS 15066内で定められた特定の条件における要求遅延の数値内で、本実証に成功したことが確認されています)。

この成果は、地理的に離れた遠隔のGPUリソースを活用しても、6G時代の遠隔でのロボット制御に十分な低遅延を実現できる見通しが得られたことを意味します。これにより、ロボットやAIがより広範囲で、より複雑なタスクを、より安全かつ効率的に実行できる未来が現実味を帯びてきました。

INCエッジとIOWN APNが実現する超低遅延の世界

今回の実証実験の成功には、「INCエッジ」と「IOWN APN」という二つの主要な技術が不可欠でした。これらがどのように連携し、超低遅延の世界を実現しているのかをもう少し詳しく見ていきましょう。

INCエッジの役割

INCエッジは、5Gコアネットワーク上に実装される、まさに「賢いエッジ機能」と言えます。その主な役割は以下の通りです。

  • ネットワーク接続のゲートウェイ: 5GネットワークとIOWN APNを接続し、両者の間でスムーズなデータ連携を可能にします。

  • AI推論処理の最適化: 通信の制御だけでなく、AI推論処理そのものもネットワーク側から制御します。特に、AI推論処理を「前段処理(データの前処理など)」と「実行部分(実際の推論)」に分け、前段処理後のデータをIOWN APNを介して遠隔GPUリソースへ低遅延で転送・振り分ける仕組み(AI Proxy)を提供します。これにより、効率的な分散推論が可能になります。

  • 端末の負担軽減: AI推論処理の一部をネットワーク側で肩代わりすることで、端末側の処理負荷や消費電力を減らすことができます。

IOWN APNの特長

IOWN APN(All-Photonics Network)は、NTTが提唱するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想に基づく、革新的な光ネットワーク基盤です。その最大の特徴は、通信のあらゆる部分に光技術を導入することで、以下のメリットを実現することにあります。

  • 超低遅延: データの伝送速度が向上し、大幅な遅延削減を実現します。これにより、地理的に離れた場所でも、まるで目の前にあるかのようにスムーズなデータ通信が可能になります。

  • 広帯域: 大容量のデータを一度に、高速で送受信できます。高精細な映像データや、複数のセンサーデータを同時に扱うAIアプリケーションにとって、この広帯域性は非常に重要です。

  • 低消費電力: 光技術をベースとすることで、従来の電子技術に比べて大幅な消費電力の削減が期待されます。これは、地球環境に配慮した持続可能な社会の実現にも貢献します。

今回の実証実験では、このIOWN APNが、分散配置された遠隔GPUリソースを低遅延かつ安定的に接続する「基盤」として活用されました。INCエッジとIOWN APNの連携により、地理的な距離という物理的な制約を乗り越え、高性能なAI処理をどこからでも利用できる未来が拓かれつつあります。

6G時代のAI・ロボットが描く未来

今回の実証実験の成果は、6G時代のAIやロボットが私たちの生活や産業にどのような変革をもたらすかを示す、具体的な一例と言えるでしょう。

  • 自律型ロボットの進化: 工場や倉庫、災害現場などで活躍するロボットが、周囲の状況をより正確かつ迅速に認識し、自律的に判断・行動できるようになります。これにより、人間の介入なしでより複雑な作業を安全に実行できるようになるでしょう。

  • 没入型XR体験の向上: VR(仮想現実)やAR(拡張現実)といったXR技術は、高精細な映像や複雑なインタラクションをリアルタイムで処理する必要があります。低遅延なAI映像解析は、よりリアルで没入感のあるXR体験を提供するための鍵となります。

  • 遠隔医療の高度化: 医師が遠隔地からロボットアームを操作して手術を行ったり、AIが患者の生体データをリアルタイムで解析して診断を支援したりするなど、医療分野での応用も期待されます。低遅延は、これらの精密な作業において非常に重要です。

  • スマートシティの実現: 都市に設置された多数のセンサーやカメラからの映像データをAIで一元的に解析し、交通渋滞の緩和、防犯、災害監視など、効率的で安全な都市運営に貢献します。

これらの未来は、端末側の機能が簡素化され、消費電力が削減されることで、より多くの人がAIやロボットを活用したサービスを気軽に利用できるようになるでしょう。

今回の成果は、2026年3月2日(月曜)から5日(木曜)にかけてスペイン・バルセロナで開催されるGSMA主催「Mobile World Congress Barcelona 2026」のNTTグループブースにて展示される予定です。国際的な舞台で、この革新的な技術が紹介されることで、さらなる注目を集めることでしょう。

今後の展開:国際標準化とさらなる技術革新へ

ドコモとNTTは、今回の実証実験で得られた結果を基に、今後も6Gネットワークの要素技術として、In-Network Computingの技術検討・実証および国際標準化を推進していく方針です。通信とデータ処理を包括的に提供するINCの重要性は、6G時代のAI・ロボットがその価値を最大限発揮するネットワークを実現するために不可欠です。

機能が簡素化された端末の普及に向けて、両社は継続的に研究開発を進め、より高性能で使いやすいサービスが社会に浸透するよう努めていくことでしょう。

まとめ:低遅延AI映像解析が拓く、次世代社会の可能性

NTTドコモとNTTがIn-Network Computingを活用して成功させた低遅延AI映像解析の実証実験は、6G時代のAIやロボットの能力を最大限に引き出すネットワークの実現に向けた、非常に重要な一歩です。

この技術により、地理的な制約を超えて高性能なAI処理をどこからでも利用できるようになり、ロボットの自律制御、没入型XR体験、遠隔医療の高度化、スマートシティの実現など、私たちの生活や産業に革新をもたらす可能性を秘めています。ネットワークが単なるデータの「運び屋」ではなく、データの「処理屋」となることで、未来の社会はより豊かで便利になることでしょう。

今後も、In-Network Computingのさらなる技術進化と社会実装に期待が高まります。私たちは、この革新的な技術が描く未来の社会の実現に向けて、その進展に注目していくべきです。

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